03






第二次試験後半、メンチの課題合格者42名。ハンター試験はまだまだ続く。



「次の目的地へは、明日の8時到着予定です。こちらから連絡するまで、各自自由に時間をお使いください」



広い一室に召集された受験生達はそう告げられた。ようやくハンター試験初日が終了した。ゴンは元気よく駆け出しながら言う。



「キルア! 飛行船の中探検しようよ!」



クラピカとレオリオは疲れた顔で隅に座っている。アナウンスを聞き終え、疲れた顔の受験生たちがぞろぞろと部屋を出ていく。そんな中、ゴンは目を輝かせて俺の腕を引いた。



「探検だって? ガキじゃあるまいし……」



俺は呆れたように言いながらも、ゴンの提案に口元が緩むのを止められない。こいつと一緒にいると、退屈しなくていい。ふと視線を感じて振り返ると、マヤが少し離れた場所でこっちを見ていた。目が合うと、すぐに逸らされたが。



「……マヤ、お前も来るか?」



ほとんど無意識に、そんな言葉が口から滑り出る。俺は自分でも驚いて、バツが悪そうにポケットに手を突っ込んだ。別に、あいつが来たいなら、付き合ってやらなくもねぇけど。



「マヤ、無理はするな。私と共にここで休むと良い」



クラピカがすかさず声をかけた。マヤは頷くとキルアに向き合いながら言う。



「ありがとうキルア。でも私はちょっと眠いからもう休もうかな。探検、ゴンと一緒に楽しんできて?」



クラピカの言葉と、それに続くマヤの断りの言葉に、俺は一瞬、眉をひそめる。こいつ、俺の誘いを断るのかよ。別に、大して期待してたわけじゃねぇけど。



「ふん、勝手にしろよ。てめぇみたいなチビがうろちょろしてたら、逆に足手まといだしな」

「そっかー、残念だな。じゃあ、オレとキルアで行ってくる!」



俺はわざと悪態をつき、マヤから顔をそむける。隣でゴンが残念そうに言うのが聞こえた。



「行くぞ、ゴン。こいつらのことなんて放っとけ」



俺はゴンの背中を押し、さっさとその場を離れる。探検なんて、ゴンと二人の方が気楽でいいに決まってる。そう自分に言い聞かせながらも、断られたことが妙に胸につっかえて、小さく舌打ちした。



「行ってらっしゃい、気をつけてね!」



マヤはキルアとゴンを見送るとクラピカの隣に腰を下ろした。もう片方のクラピカの隣にはレオリオが腰を下ろしている。三人で顔を見合わせて小さく笑った。



「それじゃ、おやすみクラピカ、レオリオ」

「ああ。おやすみマヤ。レオリオ。ゆっくり休もう」

「おう、おやすみ。もうクタクタだぜ!」



ゴンに促されるまま歩き出したが、背後から聞こえてきた三人の和やかな会話に、俺は思わず足を止めて振り返る。クラピカとレオリオの隣で、マヤが小さく笑っていた。その光景が、なぜか妙に気に障る。



「……チッ」



俺は小さく舌打ちをして、再び前を向く。マヤが俺の誘いを断ったのは、あいつらといたかったからか?別にどうでもいいはずなのに、面白くないと感じている自分がいた。



「どうしたのキルア? 早く行こうぜ!」



隣でゴンが不思議そうに俺の顔を覗き込む。その屈託のない笑顔に、俺は苛立ちを少しだけ押し込めた。



「うるせぇな、わかってるよ。さっさと行くぞ」



俺はゴンの頭を軽く小突いて、今度こそ振り返らずに歩き出した。あいつのことなんて、もう忘れてやる。探検の方が、よっぽど面白そうだ。

そのままマヤはレオリオとクラピカと並んで腰を下ろして眠った。そうしているうちにいつの間にか隣のクラピカと肩を寄せ合うような姿勢になっていた。

ゴンと二人で飛行船の中を歩き回る。窓の外には、どこまでも続く夜空と雲海が広がっていた。珍しい景色にゴンは目を輝かせているが、俺はどこか上の空だった。



「……なあ、ゴン」

「ん?」



俺は不意に隣を歩くゴンに話しかける。



「マヤのやつ、何で俺たちの誘い断ったんだと思う?」



ゴンはきょとんとした顔で俺を見た後、すぐにニシシと笑った。



「さあ? でも、マヤも疲れてたんじゃないかな。オレたちと違って、女の子だし」



ゴンの単純な答えに、俺は少しだけ拍子抜けする。そうか、ただ疲れてただけか。なんだかんだ、あいつも小さい体で俺たちと同じ試験をこなしてるんだもんな。俺はポケットに手を突っ込み、少しだけ口の端を上げた。ゴンの言葉に、俺は少しだけ心が軽くなるのを感じた。そうか、ただ疲れていただけか。クラピカたちといたかったから、とかじゃなくて。



「……ま、それもそうか。あんなチビ、体力もねぇだろうしな」



俺は悪態をつきながらも、どこか安堵している自分に気づく。さっきまで胸につかえていた何かが、すっと消えていくようだった。



「あ、見てキルア! あっちの部屋、明かりがついてるよ!」



ゴンが前方を指差す。俺はそちらに目をやり、ニヤリと笑った。



「へぇ、面白そうじゃねぇか。ちょっと覗いてみるか」



俺たちは音を立てないように、そっとその部屋に近づいていく。マヤのことはもう頭の隅に追いやって、目の前の新しい冒険に胸を躍らせた。





















それからマヤ、キルア、ゴン、クラピカ、レオリオは3次試験会場であるトリックタワーのてっぺんに来ていた。どうやら下まで降りるのが今回の課題のようだ。



「きっとどこかに、下に通じる扉があるはずだ。この塔には必ず下へ続く道がある。試験官が用意した罠を見破らなければならないな」



クラピカは腕を組み、冷静な眼差しでタワーの床面を観察している。そして少し腰をかがめ、床の微細な隙間を指でなぞった。クラピカが床を調べているのを横目に、俺は腕を組んであたりを見回す。だだっ広い石造りの部屋。いかにも何かありそうな雰囲気だが、パッと見じゃ何もわかんねぇ。



「チッ、めんどくせぇな。こんなもん、壁でもぶっ壊して下りりゃいいだろ」



俺がそうぼやくと、隣にいたゴンが目を輝かせてこっちを見た。こいつ、まさか本気にしてねぇだろうな。



「お、それいいなキルア! やってみようぜ!」



冗談だっつーの。こいつの単純さには呆れるぜ。俺はゴンの頭を軽く小突きながら、周囲を観察する。床にはいくつかのプレートが嵌め込まれている。怪しいのは、やっぱりあれか。



「ここに5つ分の隠し扉があるみたい。私たちにぴったりの数だね。でも、これって一人ずつ落ちる仕組みかも……?」



マヤの言葉に、俺は眉をひそめて床のプレートに視線を落とす。確かに、プレートは五つ。俺たち五人が一人ずつ入るにはちょうどいい数だ。だが、それが逆に胡散臭ぇ。



「……罠の可能性が高いな。多数決の罠ってやつだ。一人は助かるが、残りは死ぬ、みてぇな」



俺はポケットに手を突っ込んだまま、プレートを値踏みするように睨む。こんな古典的な罠に引っかかるほど、俺たちはマヌケじゃねぇ。



「ま、どっちにしろ進むしかねぇんだろ。ごちゃごちゃ考えてる時間は無駄だぜ」



俺はそう言うと、一番手前のプレートの上にためらいなく足を乗せた。ミシミシと音を立てて床が沈む。さて、どうなるか。面白くなってきやがった。



「あいつ、先に行きやがった。ま、1・2の3で全員行こうぜ。ここでいったんお別れだ。地上でまた会おうぜ」



レオリオのその言葉と共に全員でパネルに飛び込んだ。扉をくぐったマヤ、ゴン、キルア、クラピカ、レオリオは再び顔を見合わせる。全員同じ部屋に落ちていたのだ。スピーカーから聞こえる声の説明によると、『多数決の道』というルートらしい。この部屋からは5人の人間が揃わないと出られないという。



「……短い別れだったな」



レオリオの間の抜けた声に、俺は思わず舌打ちする。結局、また全員一緒かよ。ハンター試験の奴らも、回りくどいことしやがるぜ。



「……ふん、お別れもクソもねぇな。さっさと進むぞ」



俺は悪態をつきながら、部屋の奥へと視線を向ける。一本道が続いているが、その先には二つの扉が見えた。いかにも、どっちかを選べと言わんばかりだ。隣でゴンが「どっちに行く、キルア?」と呑気な声を出す。こんなもん、考えるまでもない。



「どっちの道も同じだろ。罠があるかないか、それだけだ。俺は右に行くぜ」



俺は一人でさっさと右の扉に向かって歩き出す。あいつらがついてくるかどうかなんて、知ったこっちゃねぇ。こういう時は、直感を信じるのが一番だ。



「なんでだよぉ! 普通こういうときは左だろ!?」



ギャーギャー喚き出すレオリオ。



「だからこそ右がいいんだよ」



マヤがそう言うと、更に不満をぶつけてくるレオリオにクラピカが「いや、確かに。行動学の見地からも、人は迷ったり未知の道を選ぶときには、無意識に左を選択するケースが多いらしい」と言った。

クラピカの冷静な分析と、マヤの言葉に、俺は口の端を吊り上げる。こいつら、なかなか面白いこと言うじゃねぇか。



「そういうことだ。裏をかくなら右。単純だろ」



俺はレオリオの不満そうな顔を一瞥し、さっさと右の扉に手をかける。こんなところで議論してる時間の方が無駄だ。



「うだうだ言ってても始まんねぇよ。俺は先に行くぜ」



俺が扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。振り返らずとも、ゴンとマヤがついてくる気配を感じた。クラピカも続くだろう。さて、問題はあのオッサンだけだな。

5人全員で少し歩くと、1つの闘技場のようなものが見えてきた。しかしそこに繋がる通路はできておらず、また向こう側にも人が見える。皆、顔を隠していて、手錠をはめられている。その中の1人が顔を覆う布を剥ぎ取り、手錠を解かれこっちに向かって大きく声を上げた。



「我々は審査委員会に雇われた試練官である! ここで我々はお前たち5人と戦わなければならない!! 勝負は1対1で行い各自一度だけしか戦えない!!」



試練官と名乗る男の野太い声が、闘技場に響き渡る。なるほどな、体力だけじゃなく、こういう直接戦闘もあるわけか。面白くなってきやがった。



「へぇ、1対1ね。それで、どうやって勝敗を決めるんだよ?」



俺はポケットに手を突っ込んだまま、ニヤリと笑って問いかける。隣でゴンがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。マヤも緊張した面持ちで向こう岸の奴らを睨んでいる。



「まさか殺し合いじゃねぇだろうな? ま、俺はどっちでも構わねぇけど」



わざと挑発するように言ってやると、向こうの連中が色めき立つのが分かった。単純な奴らだ。こういう奴らから片付けるのがセオリーだろ。さて、誰が一番手で行くか。俺が行ってもいいが、様子見も悪くない。



「順番は自由に決めて結構! お前たちは多数決……すなわち、3勝以上すればここを通過することができる!! ルールは極めて単純明快……戦い方は自由!! 引き分けはなしだ! 片方が負けを認めた場合において、もう片方を勝者とする!!」



まず1番手はゴンと痩せた男との対決で、ゴンが勝利した。



ゴンの勝利に、俺たちは歓声を上げる。まずは一勝。幸先のいいスタートだ。ゴンが鼻の頭に絆創膏を貼りながら、誇らしげに戻ってくる。



「やるじゃねぇか、ゴン」



俺がゴンの肩を叩くと、あいつはニシシと笑った。さて、次は誰が行くか。相手はあと4人。残りの囚人どもは、ゴンの勝利を見て明らかに警戒心を強めている。



「次は誰が行く? 俺が行こうか?」



俺が前に出ようとすると、クラピカが「いや、私が行こう」と言って立ち上がった。

幻影旅団のフリをしたマジタニを前に、クラピカの目が赤くなった。クラピカは激昂し、容赦なくマジタニを叩き潰し、そのままマジタニは動かなくなった。

クラピカの変わりように、俺はゴクリと息をのむ。緋色の瞳、殺気にも似た気迫。あれが、クラピカの本来の姿ってわけか。マジタニとか言ったか、あの囚人が完全に気絶しているのを見て、俺は口の端を上げた。



「……へぇ、やるじゃん」



クラピカはまだ興奮が収まらない様子で、荒い息をついている。レオリオが慌てて駆け寄り、何か声をかけていた。これで二勝。あと一つ勝てば、ここを突破できる。俺は気絶したマジタニを一瞥し、まだ残っている囚人たちに視線を移す。どいつもこいつも、クラピカの剣幕に完全にビビってやがる。



「さて、次は俺が行くぜ。さっさと終わらせちまおう」



俺は肩を回しながら、一歩前に出た。あんな面白いものを見せられた後じゃ、うずうずして仕方ねぇ。しかし、次の対戦相手が女とわかった途端にレオリオは真剣な顔つきで「いや、次はオレが行く!」と言った。

賭けの勝負となり、レルートが『自分は女か男か』を問題にし、レオリオは男に賭けた。はずれた場合、レルートが本当に女かどうか身体を触って確かめられるからである。レオリオはレルートの胸を揉んでデレデレしている。



「………」



目のやり場に困るため、マヤは目を逸らしていた。レオリオの締まりのない顔に、俺は盛大に舌打ちをする。ったく、あのバカは何を考えてやがる。賭けに負けた上に、女の身体を触ってデレデレしやがって。見てるこっちが恥ずかしくなるぜ。



「チッ……あのスケベオヤジ……」



隣でマヤが顔を赤くして目を逸らしているのが視界に入る。まぁ、そりゃそうだよな。あんなもん、見せられたら気まずくなるに決まってる。



「これで二勝一敗。あと一つ勝てばいいんだよな。次は俺が行く」



俺はそう吐き捨てると、もうレオリオの方を見ずに一歩前に出た。残りの囚人は二人。どっちでもいい。さっさと片付けて、こんな場所とはおさらばだ。



「おい、次はお前らのどっちだ? かかってこいよ」



そして最後のジャンケン勝負でも負けてしまい、4回戦はレオリオの負け。これで2対2になってしまった。しかもレオリオが賭けの勝負で負けた分のチップ、50時間を支払わなければならなくなった。



「すまねェ!!」



マヤはレオリオの顔を見ずに「まあレオリオが負けるのは予想通りだから大丈夫だよ」とだけ言った。相手の方は、腕と手の筋肉が異常に強そうな男だ。すると、その男を見たレオリオが顔色を変える。



「キルア……オレ達の負けでいい。あいつとは戦うな!!」



レオリオの悲痛な叫びに、俺は眉をひそめる。あのビビりのオッサンが、あんなに必死になるなんて。向こうにいる筋肉男は、見た目からしてただの囚人じゃねぇってことか。



「……は? 何言ってんだよ、オッサン」



俺はレオリオを一瞥もせず、正面の男を睨みつけたまま低い声で答える。負けでいい?ふざけんな。ここで引いたら、何のためにここまで来たんだよ。



「こっちはあと一勝すりゃ抜けられるんだ。なんでお前の勝手な都合で、負けなきゃならねぇんだよ」



俺は指の関節をポキポキと鳴らす。マヤの冷めた視線がレオリオに注がれているのが気配でわかった。あいつも呆れてるんだろう。



「面白いじゃねぇか。お前がそこまで言うってことは、そいつ、相当なヤツなんだろ? 腕が鳴るぜ」



俺はニヤリと口角を上げ、闘技場の中央へと歩を進めた。レオリオの制止も、ゴンの心配そうな声も、もう俺の耳には届かない。ゾクゾクする。こいつは、殺しがいがありそうだ。解体屋ジョネス。146人もの人間を素手で分解して殺した、ザバン市犯罪史上最悪の大量殺人犯である。



「勝負? 勘違いするな」



ジョネスが顔を歪めて笑う。



「これから行われるのは一方的な惨殺さ。お前はただ泣き叫んでいればいい」



ジョネスの言葉に、俺は思わず吹き出しそうになる。惨殺?泣き叫ぶ?こいつ、自分が何を言ってるか分かってんのかね。



「うん、じゃあ死んだ方が負けでいいね」

「ああ、お前が」



俺はポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりとジョネスに近づいていく。向こう岸でマヤたちが固唾をのんで見守っているのが分かる。だが、心配は無用だ。瞬きするほどの時間。俺はジョネスの背後に回り込み、その心臓を抜き取っていた。返り血ひとつ浴びていない。あまりの速さに、ジョネス本人も何が起きたか分かっていないだろう。



「あんたが、だろ?」



俺は抜き取った心臓をジョネスに見せつけるように掲げる。ドクン、とまだ動いているそれが、やつの命の残り時間だ。絶望に染まる顔を見るのは、いつだって最高の気分だぜ。

一瞬の出来事だった。すばやく移動したキルアの手に、脈打つ心臓が乗っている。ジョネスは、自分の胸から染み出す血を見て、それが自分の心臓であることに気付いた。



「か……返……」



ジョネスが悲痛な面持ちで手を伸ばす。キルアがその心臓を握り潰す瞬間、思わずクラピカがマヤに抱きついて視界を覆い隠していた。



「わっ……クラピカ!?」



ジョネスが崩れ落ちる音と、クラピカの焦ったような声がやけに響いて聞こえる。俺は握り潰した心臓から滴る血を払い、ゆっくりと振り返った。



「うるせーよ、バーカ。さっさと死ね」



クラピカがマヤの目を覆うように抱きしめているのが見えて、少しだけ眉をひそめる。……まぁ、あんなグロいもん、見せる必要もねぇか。



「これで三勝二敗。俺たちの勝ちだな」



俺は平然と言い放ち、まだ動揺しているゴンたちの元へ歩き出した。レオリオが腰を抜かしているが、知ったこっちゃない。マヤのヤツ、どんな顔してんだか。少しだけ気になった。



「……ああ、君達の勝ちだ。ここを通り過ぎると小さな部屋がある。そこで負け分のチップ50時間を過ごしていただこう」



勝利はしたものの、レオリオが賭けに使った分のチップを払わないといけなくなり、足止めを食うことになった。クラピカはマヤの体を離し「す、すまない……咄嗟だった……」と頬を赤らめて謝っている。



「ううん、大丈夫だよ……ちょっとびっくりしたけど……ありがとう、クラピカ」



マヤは頬を赤らめながらも微笑んでみせた。クラピカとマヤのやり取りを横目に見て、俺は鼻を鳴らす。咄嗟に抱きしめるって、あの野郎、意外とやるじゃねぇか。マヤもまんざらでもない顔しやがって。チッ、なんか面白くねぇ。



「おい、レオリオ。さっさと行くぞ。てめぇのせいで50時間も足止めなんだからな」



俺はわざと大きな声でレオリオの背中を蹴飛ばす。腰を抜かしていたレオリオが、情けない悲鳴を上げた。マヤがこっちを見て、少し困ったように笑う。その顔を見ると、さっきまでのイライラが少しだけマシになるから不思議だ。



「ほら、マヤも行くぞ。こんな薄気味悪いとこ、長居は無用だろ」



俺はポケットに手を突っ込んだまま、さっさと扉の向こうの部屋へ歩き出した。あの二人のことなんて、もうどうでもいい。……どうでもいい、はずだ。




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