Walkure


貴女の一番かわいいところ





貴女の一番かわいいところ




 腰に巻かれた、腕の重みがあった。離さんばかりのそれを解こうにも強くなるばかりで、このままでは埒が明かない。
けれども、どう解こう。相手は生身の人間であり恋人である。ならばいっそのこと懲りるまで狸寝入りでもしようか。
「やっと起きた」
 もう一度瞳を閉じようとすると、後ろから声がした。まだ眠たそうな、少し掠れた声。
「腕を離してちょうだい。起き上がれないわ」
「やだ」
 私の後ろで拗ねたように駄々を捏ねる。腰に回された腕は相変わらずで、これでは当面動けないだろう。時刻は午前五時四十五分。まだ時間に余裕はあるけれど、一度目が覚めると手持ち無沙汰な時間帯だ。
 出会った当初から、ナミは私のことを物凄く好いていた。話し方、スキンシップ、私への興味。行動の一つ一つから滲み出ていた。異性中心の世界の中で心細かったのか、ことあるごとに頼りにしてくれた。頑なだった私も、そんなナミに絆されて付き合うようになった。もちろんセックスだってする。昨晩も交代で何度もした後、ナミがすやすやと寝息を立てるまで見守った。
「どうしたの? 」
「ロビンってさ、いつも寝るときそっちを向いて寝るよね」
「それが……どうかした?」
 極力落ち着いて答えた。とても寂しそうな声に聞こえたので、刺激しないように。
「どうもする。した直後はこっち向いて寝てくれるのにどうして?」
「そうね……それは寝返ったり、人によって寝方に癖があるから仕方ないんじゃないかしら」
 ナミの腕が腰から下腹部を撫でた。その隙を見て寝返ると、少しだけ不満げなナミが出迎えた。
「やっとこっち向いた」
「誰かさんがずっと腕を離してくれなかったからでしょう?」
「違うの、独り占めしたかっただけよ」
 お気に入りのぬいぐるみと一緒に寝たい、とでも言うように甘えて言った。
 今朝のナミはずっと不満そうだ。まるで、好きなお菓子を与えても泣き止まないような子どものようだ。
 ナミの頭を優しく撫でる。いつものシャンプーの香り。起き抜けのあどけない姿も相まって、ひどく幼く見える。
「私は逃げたり盗られたりしないわ。だから安心して」
「そうじゃなくて……!」
 がば、っとナミが身を起こす。ただ事ではないと思い、私もそれに合わせる。こういう時は視線を合わせて寄り添うのが吉。いつかナミが私にそうしてくれたように。
「どうしたの? 何かあった? それとも、昨日何か酷いことをしてしまった?」
 もう一度念入りに尋ねてみる。ナミがここまでするのならばきっと何かあるはずだ。言い出すまでの間、何も言わずにナミを待った。
「何かあったとかそうじゃなくて……もっと……こう、セックスの時だけじゃなくて普段のあたしも見てほしいの! 足りないの!」
 ナミは一気に言うと、シーツで顔を覆った。まるで、言ってはならないことを言ってしまったと言わんばかりの勢いだ。
「チョッパーとかずるい。いつもロビンに可愛い可愛い言ってもらえて、あたしのこと一番じゃないのかなって、いや、比べるのもどうかなって思うけど、でもちょっと寂しい」
シーツからはみ出そうな頬を撫でる。されるがままになっているから大丈夫。本当に私のことが嫌いになっていたら、きっと手を振り払っているはずだ。
 ナミが一番。これは変わらない事実だ。それに加えて私も同様に、ナミを独り占めできればいいのにと、いつも思う。
現実問題、皆の前で二人きりになるのは難しい。そうでもしなければ、二人の世界に閉じこもってしまいそうだから。だからその分部屋の中では存分に甘やかしている。けれどそのナミが今、「もっと」と言っている。これは由々しき事態だ。
「ごめんなさい。私、勘違いしていたわ」
 後ろからするりとナミに手を回す。縮こまった背中に顔を預け、首筋を軽く食む。
「……っ!」
「最初はこのくらいしておかないとね」
 ナミはくるりとこちらを向いた。やっとシーツから顔を上げ、潤んだ瞳でこちらを向いた。
「そこまでやってとは言ってない!! 見えちゃうじゃない」
「ふふ、でもこうしておいた方が後々やりやすいでしょう?」
「そうだけど……」
「ちょっと不機嫌なところも好きよ?♡」
 じたばたするナミを後ろから抱きしめる。懲りたのか次第に動きは落ち着き、腕の中で丸く収まった。
「またそうやって殺し文句を……」
 ナミの身体のパーツをひとつひとつ丁寧に撫でる。目の前にいるのは余所行きのナミではなく、素のナミだ。どれだけ関係がオープンになろうが自由に振舞おうが、二人きりの時は飾らないでいてほしい。だって今はもう、ナミも私も互いのことが一番なのだから。
耳を撫でると、甘い声が漏れた。
「……っ、もう朝だから!」
「少しだけ。ね?」
 微熱のような気怠さに浮かされたまま、ナミと横になる。
 どうやら私は、相当ナミに骨抜きにされているようだ。だけどあともう少しだけ、独り占めさせてほしい。太陽が私たちを正面から照らす、その時まで。