侑くんが私にくれる“親切”の理由がよく分からない。
友人たちは皆「脈アリ」だとか「これは付き合える」と言うのだが、いまいち実感が持てない。
『なまえはもっと自分に自信持たんかい!』
『でも私いつも寝てばっかりだし…………告白されたこともないし』
『あーもう!!自分の顔面偏差値くらい把握しとき!!!』
罪作りめ、と唸っていた友人の話を思い出していると、急に強烈な眠気に襲われる。まただ。また自分の意思に反して身体が強制的に眠ろうとしている。
「眠いん?」
「うん…………」
半ばぼやけた意識の中で彼の言葉に頷けば、肩に腕が回されぐっと引き寄せられた。
「もっとこっち寄りかかってええよ。肩貸したる、#nameだけトクベツやで」
少し制汗剤の混じった侑くんの匂いがふわりと鼻腔をくすぐって、私は言われるがままに彼の肩に身体を預けた。
「着いたら起こしたるから、安心して寝とき」
「あり、がと…………」
そうお礼を告げればすとん、と意識があっさりと落ちる。
“ こないなことすんのは、好きな子だけやからな、早よ気付いてな ”
鼓膜の奥で溶けた言葉は、うまく意味を拾えず霧散してしまった。
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夢か現か。
その境目が分からなくなる瞬間がある。
怪物に喰われる夢。テストを受けさせられる夢。誰かに追いかけられる夢。
一人で眠る時、私はよく悪夢を見た。
私の悪夢には、感覚が存在した。
触覚、痛覚、時には味覚まで。
リアリティーを持って私に襲いかかるそれに、うなされては飛び起きた。
しかし最近それがめっきり減って、よく眠れるようになった。ジャージ効果だろうか。
確かさっき、侑くんは“気になる子がいる”と言っていた気がする。
告白したらいいのではないか、と私は言ったけれど、そうしたら彼のジャージは借りられなくなってしまうのではと奇妙な焦燥感に駆られる。
優しい彼に抱きしめてとお願いして、その彼自身の匂いを肺腑一杯に取り込めたら、どんなに幸せだろうと思った。
我ながら現金な考えだと思ったけれど、やっぱり私は侑くんのことが好きなんだろうか。
ああでも、多分その恋は実らない。
きっと彼の優しさは他の誰かにも向けられていて――
「ごめん、また寝ちゃった…………」
「バス停二つ乗り過ごしただけやから気にせんといて」
彼に揺り起こされた頃には目的地のバス停をとっくに通過していて、慌てて降りたバス停で、私は侑くんに平謝りする他ない。
「本当にごめんなさい…………あっ、何かお詫びを、」
「オレも起こすの遅かったしなぁ。あ、ええこと思いついた」
不意に何かに目を止めた侑くんの視線の先を追えば、そこにはコンビニがあった。
「本当にこれでいいの?」
「寒いからこれでちょうどええわ」
侑くんが何か奢ってや、と言うのでコンビニに入れば、彼が選んだのは100円の肉まんだった。
こんなものでいいのかと案外拍子抜けしてしまう。
日が沈めば急に冷えていく夜道を、二人で話しながら歩いた。
「なまえ一口めっちゃ小っさない!?」
「そ、そうかな…………侑くんが食べるの早いだけだと思うけど…………」
私がまだちまちまと半分以上肉まんを残しているうちに、彼はあっという間にそれを平らげてしまっていた。
「あー美味かった。ありがとなぁ」
「ううん、こっちこそごめんね」
すると急に半歩先を歩いていた侑くんが立ち止まってこちらを振り返った。私も歩みを止める。
「なぁ、なまえ」
「?」
「今から変なこと聞くわ」
「えっ?う、うん」
変なこと、と言う割には彼の表情は真剣そのもので、気圧されるまま頷く。
数秒の沈黙ののち、彼はゆっくりと口を開いた。
「…………なまえは今好きな奴とかおるん?」
「今のところいないと思う…………多分」
「多分て何やねん」
「じゃあ、いないと思う」
私の答えに、侑くんはなぜかパアッと顔を輝かせてうんうんと頷いている。
…………侑くんの反応が時々よく分からない。
「なまえは可愛ええから意中の人でもおったら勝ち目あらへんと思ってたけどこれで吹っ切れたわ」
「……かっ、可愛い!?」
さらりと放たれた言葉にとんでもないものが混じっていたような気がして、脳内が処理落ちを起こす。
「おん、なまえは可愛ええよ」
「…………冗談、だよね?」
「本気やもん。よう言われるやろ」
そんなことはない。だって、
「男の人に可愛いって、初めて言われたかも…………」
周りの女の子たちはよく可愛い可愛いと褒めてくれたけれど、それはずっと社交辞令か何かだと思っていた。
だからこんな風に言われたのは初めてで、どう返せばいいのか分からない。
縒れたプリーツスカート
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