「えっ、言われたことあらへんの!?」
「全然ないよ、告白されたこともないし…………」


そう言えば彼は目を丸くして私を見下ろした。
……こんなことを言ったら馬鹿にされてしまうだろうか。頬の熱を師走の冷たい北風が心地良く撫でて連れ去っていく。


ああ、そういうことやったんか。侑くんはそう呟くとどこか不敵な笑みを浮かべた。




「せやったら、なまえのこと狙ったろかな」


双眸の奥をきらりと輝かせると、彼は目を細めて視線だけで私の心の臓を射抜いてしまった。

足元の感覚が消えて、ふわふわと浮かされたような心地になる。

「これからは遠慮なくアプローチやらしてもらうから、よろしゅうな」
「冗談にしては少しも笑えないよ…………」

突然の宣言に掠れた声で返すのがやっとで、ぐらぐらと視界が揺らいだ。

「ホンマやで、覚悟しとき」


心拍数が上がって、まずいと思った時にはもう遅い。
一瞬にして全身の力が急に入らなくなって、私は道端にがくんとへたり込んでしまった。

「えっどないしたん!?」

いきなりの出来事に驚いたのか侑くんは慌ててしゃがみ込むと私の顔を覗き込んだ。

「テンション上がるとたまに身体の力入らなくなっちゃうんだよね…………」

完全に腰が抜けてしまって、うまく立つことができない。

これも厄介な体質の一つだった。嬉しかったり楽しかったり、気持ちが昂ぶると脱力感に襲われることがある。普段は一瞬立ちくらみを起こすくらいで済むのだが、今回ばかりはそうもいかない。



「立てそうか?」
「頑張る…………けど…………」

治るまでどれくらいかかるか分からない。と話すと侑くんはエナメルバッグを肩から外すと私の肩にかけた。
そしてこちらに背を向けてしゃがむと少し振り返る。

「鞄重いかもしれんけど、ほなしっかり掴まってな」
「…………まさかおんぶしていくつもりなの?」
「ほぼオレのせいみたいなもんやんか、動けるようになるまで背負って歩いたる」

彼の優しさが私だけに向けられていればいいのに。
そう思って侑くんの首に腕を回すと、軽々と彼は私の身体と二人分の鞄を持ち上げてしまった。


「…………ありがと」
「好きな奴以外には絶対やらへんからな。フッフ、ありがたいやろ」

大きな背中に揺られて、シャツの肩口からはいい匂いがして。

「私ね、」
「?」

「侑くんの匂い、安心するから好きなんだ」

ゆっくりと、その瞼を閉じた。

或いは疵のついたローファー



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