11
いつものように明るく晴れているパプワ島。レオは朧げな記憶を頼りに森の中を歩いてた。目的地はミヤギとトットリが住んでいるという場所で、なんとなくならレオにもわかるのだが、実際に足を運んだことはない。
「えーと、確かこっちだったよな」
彼らに最後に会ったのは、ジョッカーがこの島にガンマ団の刺客として乗り込んで来た日だ。あの時はゆっくり話もできなかったので、1人行動をシンタローに認められたのを機に、彼らの住居に遊びに行ってみようとレオは思い立ったのだった。
しばらく歩いていると、木々の奥に開けた場所があるのが見えてくる。ミヤギから聞いていた特徴と一致していると気づいたレオは、少し駆け足気味に向かうと、そこに広がっていたのは一面のスイカ畑だった。
「おお〜! すごーい」
かなりの広さがあるスイカ畑には、ごろごろと大玉なスイカがそこら中に転がっている。スイカ自体は食べたことがあるし、島の市場でも見かけたことがあったが、実がなっている姿を見るのは初めてで、自然ってすげぇなとこの島に来てから何度も浮かんだ感想がレオの頭の中を過った。と同時に自分の語彙力のなさに少しへこむ。
お目当ての人物は日の光を反射する金色が目立って、すぐに見つけることができた。畑の真ん中の方にいるミヤギとトットリはレオが来たことに既に気が付いていたようで、こちらに大きく手を振っている。
「ミヤギさーん! トットリさーん!」
レオも手を振り返しながら彼らの方へ向かうが、遠くにいた筈の彼らの方があっという間にレオの元へやってくる。常人では考えられないスピードに、レオは初めて彼らがガンマ団の一員なのだという片鱗を見た。
「どうしたんだが?」
「こがなところに来るなんて珍しいなぁ」
「2人に会いたくって! ほら、津軽くんの一件以来会えてなかったしさ」
「確かに。時は僕たちもボロボロになっとったし」
「思い出させねぁーでぐれ」
そんな会話をしつつ、2人は自分たちの拠点へとレオを案内した。
スイカ畑の中のややひらけた場所に、流木や大きな葉っぱで拵えた手作り感満載の寝床がある。簡易的な釜戸やテーブルがわりの大きな平たい石もあり、思ったよりも過ごしやすそうな空間となっていた。
めちゃめちゃスローライフしてる……とレオが思いながら見ていると、トットリにテーブルがわりの石のそばにある丸太に座るように案内された。
「なんか思ったよりも普通に暮らしてるんだね。パプワくん以外は人がいないって言ってたし、もっと野晒しの場所で寝ているのかと」
「まぁ、ガンマ団の訓練生時代の時さサバイバルの授業どがもあったがらな」
「へぇ! 養成学校みたいのもあるんだ!」
「ミヤギくんとはその時からの付き合いなんだっちゃ! あと、シンタローとコージもおったな」
「思ったよりも付き合い長いんだね」
シンタローにガンマ団について教えてもらったものの、どちらかというと家の事情の方をメインで話していたので、現ガンマ団員からの話は興味深かった。
もっと聞きたいですと言わんばかりに目を輝かせるレオに少し笑いながら、ミヤギは寝床の脇の日陰にあったスイカを持ってくる。早朝まで近くの溜池につけて置いたので、まだ十分冷えている。
ミヤギがスイカをナイフで食べやすい大きさに切り分けると、トットリがその間に用意していたお皿代わりの葉っぱに並べる。
「これは今朝さ採ったスイカだべ」
「ごっつい甘うてうまいよ」
「この島でスイカ食べるの初めてだ! いただきまーす!」
くし切りにされたスイカにかぶりつくと、すぐにじゅわりと果汁が口いっぱいに広がった。くどくないさっぱりとした甘さで、いくらでも食べれそうだ。
「甘い! 今まで食べたスイカで一番美味しい!」
「そうがそうが! 遠慮せずにどんどん食え!」
「まだまだおかわりもようけあるっちゃ」
ニコニコとスイカを勧める2人に島で子供を可愛がる爺さん婆さんの姿が重なった。そうそうこんな感じだったわ、と思いながらレオは先ほどの話題を続ける。
「ガンマ団ってどうやって入団するの? なんかやたら顔がいい人が多いからスカウトとか?」
「詳しくはオラも知んねぁーんでも、オラだづはスカウトだったべ。やっぱし特殊能力者はスカウト多いんでねぁーが?」
「コージもスカウトだって言よったよ。高校で野球やっとる時にプロ野球球団のスカウトにガンマ団の総帥が混じっとったらしいっちゃ」
「待て待て待て。コージさんの話気になりすぎる」
野球少年がガンマ団にスカウトされるとかどんな人生送ってるんだろう。レオは今度会った時に本人に教えてもらうことにした。
「特殊能力ってシンタローさんのガンマ砲とか、アラシヤマさんの炎とかだよね」
「そうそう!」
「すごい! ねぇねぇ、今見れたりする?」
「ええよ! 見してあげるっちゃ!」
「おいおい…」
どんな能力を持っているのか気になったレオがねだってみると、トットリがにこりと笑って承諾してくれた。ミヤギはそんなトットリを呆れたように見ている。
「僕の能力はこれ! 出でよ、脳天気雲ッ!」
トットリの呼び声に応えてやってきたのは人1人が乗れそうな小ぶりな雲だった。この島にきていろいろと驚かされてきたが、まさか雲まで呼びかけに応じて動くとは思わなかった。
「なんか觔斗雲きたよ」
「ちがう! 能天気雲!」
「これに乗って戦うの?」
「ほんではまんま觔斗雲だべ」
「こりゃあこうやって使うんだっちゃ!」
「あっ! おめ、やめでけッ……」
「天変地異! ゲタ占いの術ッ!」
ミヤギがトットリを止める間もなく、トットリは丸太から立ち上がると、自らが履いていた下駄を前方へと飛ばす。そのまま放物線を描いて落下すると、ゲタは側面に描かれた大雨の文字を上にして着地した。
これって明日天気になぁれってやつ?とレオが思っていると、いつのまにかレオとミヤギの頭上に移動していた能天気雲から大粒の雨が降り注いだ。
「こうやって飛ばしたゲタに書かれた天気を能天気雲から呼び出せるのうりょ……」
得意げに自身の能力を説明してたトットリだったが、途中でずぶ濡れの2人に気づき、尚且つミヤギがギロリとトットリを睨みつけていたので、言葉が途切れた。
「あ……あ、ごめんなさいミヤギくん、レオちゃん…」
青ざめた顔で謝るトットリだったが、ミヤギからは無言で頭にゲンコツを貰ったのだった。蹲って痛がっていたが、さすがのレオも同情できなかった。
「それで、ミヤギさんの特殊能力ってどんなのなの?」
トットリから渡されたタオルで頭を拭きつつ、レオはミヤギに問いかけた。同じように長い金髪をガシガシとタオルで拭きながら、ミヤギは答える。
「オラの能力はこれだべ」
「でっかい……筆?」
ミヤギが見せてくれたのは竹刀ほどの長さがある大きな筆だった。
「これは中国3000年の歴史たがぐ、すんげぇ武器なんだべ!」
「ミヤギさんって宮城県出身じゃ……」
「それは言わねぁーお約束」
どこがどうすごいのかわからず、レオが首を傾げる。そんなレオにトットリは少し笑って、ミヤギ提案した。
「ミヤギくん、レオちゃんに見してあげたら?」
「いや、そんな見せ物じゃないんだから……」
「ミヤギくんの技、すっごいけぇきっとレオちゃんも驚くよ!」
「そんなにすごいんですかミヤギさん見てみたい!」
「仕方ねぁーな」
乗せられやすい男ミヤギは煽てるトットリとレオに気を良くして、満更でもなさそうにさっと筆を構えた。
「生き字引の筆ッ」
ミヤギは手に持った筆でトットリの身体に文字を書く。達筆な字で書かれたのは「派那髭鬱摹」という5文字だった。レオがなんで書いてあるのか理解する前に、トットリが突然ばたんと地面に倒れる。そのまま起き上がる様子もなく、ビクンビクンと動いている。
「えっ⁉︎ ど、どうしたのトットリさん!⁉︎」
「この筆の名前は行き時の筆! この筆で漢字書がれるど、そのものに変化するんだべ!」
「ええっすごーい! ちなみになんて書いてあるのこれ?はな……ひげ?」
「ハナヒゲウツボだっぺ!」
「へぇ! ハナヒゲウツボか!……ん? ウツボって……」
それは海の魚の名前ではなかったかと思いながらトットリに視線を戻すと、最初よりも動きが小さくなってきている。
「エラ呼吸!!!!」
ミヤギが慌てて文字を擦って消し去ったことにより、トットリは急死に一生を得たのだった。
「死ぬかと思ーた……」
「悪がった、トットリ」
ゼイゼイと大きく呼吸をするトットリの背中を摩りながら、ミヤギがバツの悪そうな顔で謝っている。軽はずみな気持ちで能力を見せてもらえるよう強請った手前、レオもちょっぴり罪悪感を抱く。ただ、2人の能力の使い方が問題だった気もしなくはない。
「いろんな力があってすごいなぁ。ちなみにさ、それってどういう原理なの?」
「「原……理……?」」
「ごめん、私が悪かった。今の質問なし」
宇宙を背負った2人の顔を見て、レオはすぐさま謝って訂正したのだった。
「2人ともありがとね。特殊能力って危ないって身をもって知ったよ」
「中にはもっと危険な能力もあるっちゃ。シンタローとあの子供がいつも一緒におるけぇ大丈夫だと思うけど、レオちゃんも気ぃつけてね」
「うん、わかったよ」
心配そうに忠告してきたトットリに対してレオが素直に頷くと、満足そうに笑ってトットリは頭を撫でた。撫でられたことが嬉しくて、レオもへらりと笑う。
そんなやりとりを見ていたミヤギがポツリと口を開く。
「髪色も瞳の色も一緒だし、おめら兄妹さ見えでくるな」
「「兄妹?」」
2人同時が同時に首を傾げるので、ますます兄妹みを感じたミヤギ。トットリはそんなミヤギの言葉が嬉しかったのか、ニコニコ笑いながらレオの頭を更にわしゃわしゃと撫で回した。
「妹! ええなぁ! 妹よー!」
「兄者ーッ」
「いや、そごはお兄ちゃんって呼んどげよ」
どこかズレたレオの兄貴像に思わずミヤギはつっこむ。
「いや、なんか昔見た時代劇であってちょっと憧れがね。トットリさん忍者だし」
「あながぢ間違ってもねぁー気もするども」
「でも、本当に嬉しい。兄妹みたいって言ってもらえて」
そう言って目を細めて笑うレオは本当に幸せそうで、その裏のない笑みにミヤギは少し目を見開いて固まってしまう。
ミヤギの遠い記憶を刺激する光景に瞼の裏がじんわりと熱くなったがそれを振り切るように笑うと、ミヤギもレオの頭をポンポンと撫でた。
「嬉しかったのならいがった」
ニコニコと無邪気に笑う姿はミヤギが幼い頃に飼っていた黒柴のポチに似ていたが、流石にそれは口に出すのはやめたのだった。