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 アラシヤマは拠点としている洞穴入り口で、珍しくぼんやりと暇を持て余していた。いつも一緒にいるテヅカは、気まぐれに散歩をする為に飛んで行って、まだ帰る気配はない。
 そんなアラシヤマの耳に足音が聞こえてくる。隠す気のない喧しい足音を立てるのは、この島には二択しかない。島のナマモノかもしくは……。

「アラシヤマさーん!」

 アラシヤマの友達となったレオである。友達の来訪という人生初のイベントにアラシヤマの胸が高鳴る。立ち上がってレオを出迎える。

「レオはん……!」
「途中で会ったテヅカくんにここにいるって聞いてさ。会えてよかった!」

 レオは嬉しそうにアラシヤマに駆け寄る。嬉しそうにしているだけで、特に要件を切り出さないレオにアラシヤマは疑問を投げかける。

「えっと……それで何の用できたんどすか?」
「用……? ううん、ただアラシヤマさんに会いたかっただけだよ?」
「ただ、会いたかった、だけ……⁈」

 想像を絶する理由にアラシヤマは衝撃を受ける。え?友達ってそういうことしていいの…⁈

「もし特に用がないなら私とおしゃべりしてよ」
「……構しまへん、けど……」

 戸惑いつつも同意すると、レオは嬉しそうに岩場に腰掛ける。アラシヤマも少し迷ってから、隣に座った。ただそれだけなのに、嬉しそうに笑うレオを見て、自分には到底理解できないとアラシヤマは思った。
 このレオと言う小娘は理解できない点が多い。なぜ自分にこんなにも無邪気な笑顔を向けるのだろうか。自覚しているがアラシヤマはあまり他人に好かれたことがない。それは己の性格もあるだろうが、だからといって直そうと思ったことはなかった。だからアラシヤマには今まで友達はいなかったのだ。
 だが、レオは違った。出会ってまもない自分に友達だと言い放ったのだ。彼女の無警戒で無邪気な雰囲気に流されてしまった部分もあるが、もし何か裏がある言葉だったのなら、自分はすぐに見破っていただろう。これでもガンマ団のナンバーツーだ。
 でも、彼女の言葉は真っ直ぐで……こちらが戸惑うくらい純粋だった。きっと彼女は深いことなんて何も考えていないんだろう。ただ友達になりたいと思ったからそれを口に出しただけなのだ。
 そして、それを不快に思わず、むしろ嬉しく思ってしまった自分がいたことにも、戸惑いを覚えていた。

「アラシヤマさん? どうしたの、難しい顔してー?」

 黙り込んでいるアラシヤマを不思議に思ったのか、レオがアラシヤマの顔を覗き込む。ごちゃごちゃと考えているのがアホらしくなってくる様な呑気な顔をしていて、アラシヤマはため息をついた。
 そして、無意識に目の前にあるレオの頭に手を伸ばし、優しく撫でていた。自分から他人に接触したことにアラシヤマは内心かなり驚き動揺していたのだが、レオは少し目を見開いた後、すぐに気持ちよさそうに目を細めている。それが、自分を受け入れてくれているのだと直に感じられて、じんわりと胸の奥が温かくなる。

「んふふ、私撫でられんの好きだなぁ」
「そうなんどすか?」
「うん、なんだか懐かしい感じがするんだ。別に生まれ育った島でもよく撫でられてたから、不思議じゃないんだけど……それとも、違うというか……」

 自分の感情が表現できずにもどかしそうにするレオの瞳の奥に、哀しさが浮かんでいることに気がついたアラシヤマは、咄嗟にレオの手を握った。さすがのレオもその行動には驚き、目を見開く。

「えと、アラシヤマさん……?」
「……なんかあったら頼っとぉくれやす。わてらは友達やろう?」
「……! うんっ、ありがとう!」

 驚いた顔からすぐに満面の笑みへと変わる。その笑みを見て、アラシヤマの中の何かが満たされた気持ちになる。そっと手を離すと、レオは思い出したかの様に話を続ける。

「そういえばさ、この前、ミヤギさんとトットリさんにも会ったんだけどさ」
「あの2人に、どすか……」

 もやりとした暗い感情が先ほど満たされた何かを侵略した気がしたが、顔には出さない様に気をつけて、話の続きを促す。

「2人にね、特殊能力を見せて貰ったんだけどさ、アラシヤマさんの能力って炎を出す能力なの? ほら、ジョッカーくんが来た時に使ってたでしょ」
「へぇ。……こないな風に、炎を出したり操ったりできるんや」
「へぇ……」

 実際に手のひらの腕に小さな炎を生み出すと、レオは目を輝かせてその炎を見つめた。そして、おもむろにその炎に触ろうとしたので、アラシヤマはのけぞりながら炎を消す。

「ちょ……!! 何してるんどすか!」
「あ、ごめんごめん。つい……」

 へらりと笑って謝るレオに、目を釣り上げたアラシヤマは、心配半分苛立ち半分で強い口調で注意をする。

「炎にいらったら火傷するなんて常識やろう。何考えてるんどす?」
「それはそうなんだけど……。アラシヤマさんの炎なら大丈夫だと思っちゃった、ごめんね?」
「なっ……!」

 目を細めて笑いながらそんなことを言い出すレオに、アラシヤマの顔が血が上った様に一気に赤くなる。赤くなった顔を見られたくなくて顔を手で覆って俯くと、頭を抱えたと勘違いしたレオが焦った様に言い訳をつらつらと喋り出す。

「いや、違うんだよ? いつもはもうちょっと冷静っていうか、危機管理能力もちゃんと働いてるっていうかぁ……」
「……もう黙っとき」
「えぇぇ、急に冷たいじゃん」

 レオと話しているうちに、アラシヤマが先ほど感じていた黒い感情はいつの間にか姿を消していたのだった。