■ 3 「じゃあまた」 なんて言ったけど、三度目があるなんて期待してはいなかった。 *** 「おい糞アル中」 声をかけられ振り向くと、そこにはいつぞやのにゃんこ……じゃなくて、蛭魔くんが立っていた。 「いやいやいやいや、失敬だな君! これはただ景品を見ていただけで、今夜のお供を物色中とかじゃないのよ!」 再開の挨拶よりも、糞という暴言に突っ込むよりも、失礼な誤解を解くことを優先させる。 いや本当に、へーこんなオマケつくんだーって見てただけなのに! タイミングが悪すぎだって! 「あーそうだ、こないだは遅かったけど、お家大丈夫だった?」 「フン。別に遅いって時間でもなかっただろ」 「そう? ならよかった」 11時とか12時って、最近の高校生的にはそんなに遅く無いのだろうか。いや、それにしても塾とか遊びとか、そういう予定が無かったのに遅いのはまた別だろう。 だからこれはまあ、蛭魔くん流の優しさというか、要は気にするなってことだろうと思っておく。こういう格好のつけ方は、さすが男の子だなぁ。高校生男子、可愛いなぁ。 「今日はどうしたの?」 「あ? 無糖ガム買おうとしたら、見覚えのあるアル中が見えたからな」 だから、アル中って言うな! もう。 「名前教えたでしょ。なまえさんって呼ばないと、もう返事しませんよー」 冗談交じりに返したら、ハッと笑われた。この馬鹿にする態度、小憎たらしいなぁ。 まあいい、おねーさんは心が広いのです。そして面白いことが大好きなのです。 「ねえ、今日も時間あるならお喋りしない? 流石に今日は、ちょっとだけにして」 「見てるだけとか言っといて、やっぱり買うのかよ」 「うん? ほら、おねーさんてば優しいから、ご期待にお応えしてみましたのよー」 先日と同じく、少しのアルコールとお茶が入った袋を持って、私たちはコンビニ前の公園へと場所を移した。 実を言えば、今日はそんなに飲みたいわけでは無かったのだけれど。それでもこうしてジュースではなくアルコールを選んだのは、前回が酔っ払いモードだったからに他ならない。つまり、今更素面でお喋りってのは、なんていうか……気恥かしいというか、落ち着かないというか。 まあ、そんな心中を悟らせるような私では無いけど。実際、一度口をつければ最高に幸せになっちゃうわけだしさ。 *** 「で、どうなったのよ。そのにゃんこ君とは」 「えーべつにどうにもならないけどねー。後はちょっと喋ってバイバイして、帰ってご飯食べてお風呂入って飲んで寝ただけ」 大学での昼食時、友人相手に昨夜の出来事を報告すると案の定。 わざとらしく盛大に溜息を吐かれてしまう。 「てかさ。そんなに楽しかったのなら、携帯くらい聞くでしょ」 いやいや、聞いてどうするのさ。用もないし。それに聞かれてもないし。そう返すと、さらに返される溜息。 「そりゃ、年上の大学生相手にそこまで押しでくるような子ばっかじゃないでしょ。ここはさー、なまえからぐいぐい行かないとさー!」 いやまあ……そういう男女の機敏ってやつも、わからないでもないんだけどさ。でもさぁ。 「……なんであんたの中では、私があの子のことが好きってなってんの?」 「え? だって気に入ったんでしょ? なまえが年下の話するなんて初めてじゃないの。せっかくだしこのまま放流はもったいないってー!」 おいこら、放流って何だ。だいたい、捕まえる気すらないってのに。 「軽く言ってくれるけど、相手は青春まっさかりの高校生よ。狙うにしたって、おねーさんとしては傷つく準備とか予防線とか、いろいろいるじゃない」 なんたって相手はピチピチの青少年だ。年上相手に振られるのとは、きっと傷の性質が違うだろうし。 そう返すと、なんだ、準備が出来たら行く気満々じゃないと笑われた。いや、だから。今のは言葉の綾というか、売り言葉に買い言葉というか……。 訂正しようにも、聞く耳を持たない友人相手には無駄な努力にしかならない。反論もむなしく、やがて色々諦めた私は嘆息して天を仰ぐ。 まあ、ね。 そりゃ、可愛い子と仲良くなれたら嬉しいけど、ね。 (2013) [ 戻 / 一覧 / 次 ] top / 分岐 / 拍手 |