| ■ 2 いやーこんな歳になって高校生をナンパすることになるとは思わなかったわ。 しかも、こんな柄の悪そうないかにも不良って子を。 現役時代にクラスメイトだったら、絶対視界に入らないようにするタイプなのに。 *** ということで、コンビニ近くの公園へ移ってみましたよ。 すっかり最初の毒も刺も抜けたこの少年は、蛭魔くんというらしい。らしい、というのは、こんな夜に出会った怪しい女相手に、正直に本名を名乗る保障ってないよねーってことだ。 うん。最近どこで何があるかわからないからね。たとえ非力な女子大生相手だとしても、自衛の精神って大事。あー、でも、泥門ってことも教えてくれたから、名前も本当なのかな? 試合を見ていたとは言ったけど、高校名までちゃんと見てたわけじゃ無いんだけどなぁ。 あの後、店の奥に引っ込んでいた店員を呼び出して会計を済ませた袋から、目当ての細い瓶を取り出して一口飲む。あー美味しい。 「……アル中かよ」 「おおっと酷いねぇ少年。おねーさんはもともとお酒が飲みたくてあそこに寄ったんだから。……ほい、蛭魔くんにはこれあげるー」 ペットボトルの緑茶を差し出すと、驚いたような、呆れたような、なんだか変な顔を返された。 「ハッ この茶は自分じゃなくて俺にかよ」 「え。だって自分だけなんか飲むのって嫌じゃない。かといってお酒は論外だし、何がいいって聞いて無糖ガムって答えるような子に、甘いコーラとか勧められないじゃない?」 「ハッ そうかよ」 うわーお。ありがとうの一声もなく飲みだしたよこの子。 けど、気の所為ではなく機嫌がよさそうだから、おねーさんは特別に見逃してやろうじゃないか。 普段ならイラッとくる類の乱雑な物言いも、今更回ってきたお酒による高揚のせいか不思議と気にならない。というか、なんだか先ほどから、まるで初対面の猫を相手にしているように思えて楽しくて仕方が無いのだ。 ほらほら、煮干あげるから。だからもうちょっと傍においで、ってね。 それからしばらく、アメリカンフットボールの話をしたり、(と言っても、私はそもそもさっぱりだから、蛭魔くんとしては話し甲斐の無い相手だったろうけど)他愛の無い話をして、気がつけば数本は買った筈のお酒もすっかりなくなっていた。 さすがに初対面の相手の前でウイスキーの瓶をちびちびするわけにもいかず、カクテル飲料にしたので量の割に酔いも浅い。正直、まだ飲み足りない。 「さて、いい感じの時間だし、そろそろ酔いを醒ましがてら帰るかなー」 うーんと伸びをしてそう言うと、蛭魔くんもそうだなと短い相槌を打って立ち上がった。まったく、アンタのせいですっかり遅くなっちまった……とか、ブツブツ言われたけれど気にしない。 いやまあ、高校生だし、11時近くまで外に居るってのはよくないことだろうけど。うん。それは悪いと思うのよ。でも、この子の態度が……なんだかなあ。「不本意だったんですけどね、付き合ってあげたのですよ」とポーズをとる猫のようで何だか凄く可愛いんだよなあ。 口は悪いくせに、表情とか仕草が意外と素直なんだよね、この子。 けれどやっぱり、相手は未成年だから。年長者の責任として、送ってあげようかと申し出てたのだけれど……見事に鼻で笑われた。断るにも、もうちょっと言い方とか態度があるだろうに。おねーさんの繊細ハートが傷付いちゃうじゃないか……ってのは嘘だけど。 「付き合わせちゃってごめんね、ありがと。じゃあまた」 機会があったらよろしくねー そんじゃ、おやすみー 笑顔でそう言って、手を振りながら背を向ける。 去り際は、あっさりと。それは幾つもの経験で覚えたコツのひとつだ。 調子に乗って距離を詰めれるだけ詰めようとして、猫に振られちゃった経験は多いからね。 *** ……ああ、楽しかった。 すっかり遅くなってしまったけれど、満足だ。おかげで「今夜のハイライト」も楽しいシーンに上書きされ、今では空き瓶と空き缶しか入っていない袋を振りながら、上機嫌で夜道を進んでいる。 可愛い子とお話ししちゃったー 可愛いにゃんこに構ってもらっちゃったー 感想が一緒だなと未だ醒めきらぬ頭で思いつき、何だかおかしくてにやにやしてしまう。 さて、帰ったらこれを肴に飲み直そうかな。 (2013) [ 戻 / 一覧 / 次 ] top / 分岐 / 拍手 |