■ 5

 何食べたい?
 あ、嫌いなものとか、食べられないものってある?
 そんなお決まりの質問をしつつ買い物をしてたら、つい楽しくて多めに買ってしまった。

「ったく、買い過ぎじゃねぇのか」

 重い袋を両手に持って、ふらつく事もなく進む蛭魔くんが逞し過ぎる。さすがスポーツマンは鍛え方が違うね。

「ありがとうねー。男の子ってどれくらい食べるのか、よくわかんなくて」

 半分持ってもらっていいかな?と控えめに聞いただけなのに、重いものを全部持ってくれておねーさんは感激ですよ。
 伸ばされた手が、受け取るというよりも奪い取るように若干乱暴だったことも、照れ隠しだと思うと気にならない。蛭魔くんのおかげで、私の荷物はキノコとか春雨とか、嵩張るけれど軽いものばかりだ。


  ***


「ここを曲がると私の家です。が、その前に一つ注意事項がありまーす」
「何だよ突然」
「私の家は少々古いです。が、例え本音だとしてもボロいとか、哀れむ発言はしないでいただきたい。なぜなら私は私の家をとても気に入っているから!大好きだから!」

 芝居がかった口調を作り、やや冗談めかて大げさに言ってみたものの、実際の所これは本気のお願いだったりする。

「なので、冗談だとしても侮辱は侮辱。私は本気で怒ります。以上、よろしいかしら?」
「……チッ。わざわざ言うほどのボロさかよ。しゃーねーな。酌んでやるよ」

 素直な返事がありがたい。前に、他人の住居を遠慮なく貶す馬鹿がうちに来たことがあって……あれが本当に嫌だったんだよね。行きたい行きたいってしつこいから呼んであげたというのに、あの仕打ち……いや、やめよう。せっかく可愛いにゃんこと居るのだ。人の気持ちも考えられない、常識の欠片も無い、それどころか色々足りないあんな若造の記憶に、時間を割くだけ勿体ない。

 そう思って目をやれば、少年の怪訝そうな眼差しとぶつかった。どうやら、ひとりで百面相をしていたらしい。……少し、恥ずかしい。


「……お前、まさかここに一人で住んでんのか」

 この辺りではちょっと珍しい、古めかしい一軒家を前にして蛭魔くんが呟いた。
「ま、今のところはね」

 高齢になった祖父を両親が呼び寄せたことにより、祖父が住んでいたこの家が空き家になったのは数年前のことだった。そしてその時、両親は考えた。空き家で置いておくのは物騒だ。けれど取り壊すのは勿体無いし、借家にするにも諸々の手続きが面倒だ。そこで、進学を決めた私がこれ幸いと手を挙げて、晴れてここに住むことになったのだ……というようなことを、軽く説明する。

「あー……人が住まねぇと、駄目になるって言うからなぁ」
 物珍しそうにあちこちに視線をやりながら、蛭魔くんは私の後に続いて門をくぐる。
「ま、どうぞ。とりあえず荷物は台所へ運んでくださいな。後は……まぁ、適当にゆっくりしてくれたらいいし」
 邪魔するぞとかなんかそんな、後ろからかけられた言葉はよく聞き取れなかったけれど。でも、とりあえず玄関をくぐる時には一言ちゃんと言うあたりがなんともいい。きゅんとする。

 思えば、こういうところは随処に有って、一見威圧的なんだけれどいちいち下品になり過ぎないというか、なんかしっかりしてるんだよね、この子って。なんだかんだでご両親がしっかりしているんだろうなとか、いい幼少期を送ったんだろうなとか。そんなことを考えながら、何の気無しに振り返ると……蛭魔くんは冷蔵庫横の棚の前で立ち止まっていた。

「何見て…………あ」

 棚ぎっしりの酒瓶コレクションを見られてしまった私は、一体どうすることが正解だったのか。
 せめて、笑うとかなじるとかしてくれたらよかったのに。沈黙が居たたまれなくて、らしくもなく挫けてしまいそうだ。



(2013)
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