■ ある日の蜜事

「……んッ! ……ああッ!」
 食い縛ったところで、それでも声は漏れ出てしまう。今日の指定場所はアイアイの宿屋だった。いつもどおりゲンスルーは勝手気ままに私を抱く。
 最初のころは度々あったバラとサブの参加も最近はなく、今回のようにこいつ一人で私を組み敷くことが多くなっている……気がする。ただ、そんなことよりも重要なのは、情けないことに適応力の高さだけは胸が張れる私自身のことである。
 今日はベッドな分マシだ。などと思ってしまう程度には腑抜けになってしまっていた。

「さあなまえ、怠けていないでもっと腰を振らないと」

 お前の中の爆弾が、カウントダウンを開始してしまうぞ?
 そう囁いて上での奉仕を迫るゲンスルーは生き生きとしている。本当に、この男はゲスなことをさせれば一級だ。
 ゆるゆると腰を動かすと満足そうににやりと笑う。そればかりか、いい子には協力してやろうなどと言って揺れる二つのふくらみへと手を伸ばしてくる。触るな、とは言えなかった。

 指先で軽く撫でられただけで、期待に震える身体は男のものを締め付けた。
 大きな手のひらに乳房を揉みしだかれると、それだけで声が上がった。

 気を良くしただろう男は更に敏感な突起への愛撫も開始する。両の突起をつままれ、捻りあげられ、そんなふうに過剰な刺激を与えられてしまえば、痛みは瞬時に快感に変わりいよいよ私の理性を奪う。

「淫乱だな」

 揶揄する声は聞こえてはいるけれど、点火の済んでしまった身体はもう止められない。もっと、もっと、もっと。身体の中を乱暴にをえぐるペニスが少しでもいいところに当たるように必死で腰を動かし、胸への更なる刺激を求めゲンスルーの視界へ入るよう身体を突き出しあさましくねだる。
 そんな自身を相手に乱れ狂う女の姿は、彼の慰みとしては上々だったようだ。
「まったく、自分ばかり楽しんでどうする」
 呆れた口調とは逆に、その顔は満足げで。ぐちゃぐちゃに乱れきった自尊心を多いにくすぐられた。身体への刺激に加えて、そのゲンスルーの声が、表情が、益々私を高める。

「おいなまえ、イく時はどうすればいいんだったかな?」

 絶頂へと駆け上がるだけだった腰を掴まれて動きを封じられ、思わず非難の目を向ければ男は心底楽しそうに、意地悪い言葉を放つ。恥じらう姿が見たいのだろうか。そっぽを向く姿が見たいのだろうか。だとしたら本当に残念なことだけれど……快楽を欲する思考は、羞恥など軽く飛び越えるのだ。そんなことを感じる理性なんて、とっくに残ってはいない。

「もう、もうちょっと、だから! お願い……します。動きたいの。イかせてぇ!」
「やれやれ。おねだりとしては今一つだが……。まあいいだろう。オレは優しいからな」

 にやにやと笑うものの、掴まれた力は緩められないままだ。限られた範囲でめいいっぱい求めて腰を動かすもののまるで足りない。
「選べよ。このまま自分で腰振ってイくか、オレの下で突かれてイくか」
 ガンガン腰を使ってやるぜ? 魅力的な提案に、またいやらしくギュッとゲンスルーを締め付ける。
 そんな、どっちかなんて、決まっている。けど……。
「どっちも、がいい。このまま、のあとっ……そのあとっ、いっぱいして欲しい……!」
 選んでいない回答は、けれどもゲンスルーのお気には召したようだ。
「本当にお前は淫乱だなぁ。いいぜ、好きなだけ動いてみろよ」
 腕の力が緩められると同時にめいいっぱい腰を動かす。お預けをくらった身体は快楽に貪欲だ。ポイントに擦れるように姿勢を整えれば、陰核がゲンスルーの毛に触れた。チリチリ痛むような刺激までもが余すことなくきもちいい。
 より押し当てるように動いていると、位置の下がった乳房にまで刺激が加わる。軽く頭を起こして乳房にむしゃぶりついた彼が、そのまま舌先でちろちろと弄りはじめたのだ。時折加わる甘噛みに一層の反応を返せば、すかさずもう片方の乳首まで指先できりりと摘ままれるのだから……たまらない。おかげで、さらに喉の限りに声をあげることになった。

 ああ、もう、もう。限界を感じてゲンスルーを見れば、また乳首にキュッと歯が立てられた。けれど散々昂らされた身体には、それではまだ甘く優しすぎる。決めの一手に必要なのは、もっと直接的な、激しい刺激だ。
「あ、う。ぎゅってしてっ。ぎゅって、痛いくらいっ、ぎゅって」
 懇願すれば、両の乳首への刺激は一段と強くなり……それをきっかけに、ようやく私は絶頂を迎えたのだった。



  ***



 男の胸に倒れこみ、荒い息を繰り返しているというのに。身体を休める間もなくくるりと態勢を入れ替えられる。
 刺さったままの硬いペニスで妙な具合にえぐられて思わず拒絶の声が漏れた。達したばかりの身体には、過ぎた快感は苦痛として認識されるらしい。本気で困る。

「や、ちょっと待って、もうちょっと……」
「うん? 『いっぱいして欲しい』んだろう? こっちはまだイってねぇからなぁ。もっともっと楽しませてやるぜ?」

 ほら、ほら、遠慮するなと意地悪く腰を使われ、強すぎる刺激に腰から壊れそうになる。ひぃひぃと漏れる声に、ゲンスルーは心底楽しそうに笑った。
 だけども、と緩んだ頭の片隅でふと思う。
 外道な笑みとは逆に、腰の動きが酷く緩慢な……私の回復を待ちながら自身を慰めるような、そんな動きに変わっているのは何故だろう。以前は泣いても喚いても好き勝手に蹂躙したくせに。そういえば、相変わらず"爆弾"で脅されてはいるものの、具体的にどうこうと言われる回数は随分減ったものだ。
 もっともそれは、この外道を相手に快感を貪ることに、慣れてしまったという私の変化もあるのだろうけど。なんて思いながらも、さすがに今はそれどころではないわけで。過去を振り返ることを止めれば、今度は急に喉の渇きが気になりだした。
 組み敷かれたまま横の台の水差しを指さすと、意図を汲み取ってくれたゲンスルーの手が伸ばされる。そして持ち上げて……そのまま、口を付けてゴクリの喉を鳴らした。って、ちょっと、私にも……。見下ろす男の目がきらりと輝き、はてと疑問に思う間もなく近づいてくるのはその唇で……って、まさか。
 身構えるための心の余裕も持てないままに、案の定口づけられた。拒否する事は許さないと言うように頭を固定され、こじ開けられた咥内へとぬるい水を流しこまれる。仕方が無いので噎せないように少量ずつ飲み干せば、直前までの強引さは何なのだろうと思うほどに、男はさっさと唇を離してしまう。
 それがなんとなく面白くなくて……離れてしまった首に誘うように腕を絡めてもう一回とそっとねだる。
 そして、与えられた二回目。やはり流し終えた途端にもう用はないと言わんばかりに離れようとするゲンスルーの頭に手を回し、今度はそのまま自分から男の唇に食らいついた。別段柔らかくもない薄い唇に甘噛みをした後、味わうように舌先で撫でて、そのまま舌でノックする。すると男の方からも舌が伸ばされる。と、そこまではよかったのだが、あっという間に私の舌へと絡み付いた舌は期待以上に容赦がなかった。
 舌を強く吸われ、歯茎を舐められ、あっという間に主導権を手放した私に慈悲を与える気もないらしく、男は勝手気ままにまるで咥内全てを犯し尽くすように遠慮なく貪り始めた。そうなってしまっては最後である。仕返しとばかりに、息継ぐ間もなく次から次へと繰り出される愛撫に翻弄され、あごを伝う唾液に構う余裕すらなくなってしまう。
 おまけに、先ほどの優しい動きなど無かったかのように、今や舌先と連動した力強い動きになった腰が容赦なく私をえぐり、擦り……まずいな、これでは完全に男のペースだ。

「ったく、ちょっと甘ぇ顔してやりゃぁ、これだ」

 愉快そうに口角を上げ、ゲンスルーは宣言する。
「お前、今日は犯りつくしてやるから覚悟しろよ」
 容赦しねぇぞと言われているのに、彼を包む局部がだらだらと蜜を零してきゅんと喜ぶ。その隠しきれない期待を、男はまた揶揄するのだ。
「ほら、わかったか今の。お前の身体は正直であさましいなぁ。虐められるのも大好きだよなぁ」
 これくらい強いのも好いんだろう?と胸の先をつねられながら内壁を擦られると、快感が全身を駆け巡った。

 けれども、それだけでは足りない。もっと、もっと、一番気持ちいいことを私は知っている。

「ん? なんだ、お前もう欲しくなったのか?」

 もう、もう、と喘ぎの合間に懇願すれば、ゲンスルーが意地悪く笑う。もうすっかり見慣れた、けれど外では決して見られない表情で、笑う。
「まったく。脅されて犯されて、そんでザー汁欲しがるってんだからお前もいかれてるよなぁ」
「そん、なっ、ことっ!」
「まあいい。そろそろオレも一回出したいし、な。ほら、どこにくれてやろうか」
 この男がこんな風に言う時は、満足する答えを返さないと満たしてはもらえない。それは重々承知のことなので、快楽に翻弄されながらも必死で男の気に入る答えを探す。だというのに、どこまでも意地が悪いこの男はぐいと腰を引いてしまった。慌てて足を絡めてペニスをより深く咥えなおす。見事正解を引き当てたかを確かめる前にゲンスルーの喉の奥が低く鳴った。
 とりあえず、今回はこの反応がお気に召したようだ。他に何か決めの一言が求められる事も無く、腰遣いがより本能的なものに変わる。約束された瞬間への期待と、最後へと駆け上がるゲンスルーの乱暴とも言えるような律動が、えもいわれぬ快楽となり身体を駆け巡る。
 やがて、出すぞという低く小さい声の後、どくどくと脈打つ感覚が中に広がった。……ああ、待ちに待ったこの瞬間! 薄いゴムという異物の存在感など、この瞬間には在って無いようなものだ。体内に流れ込む体液のイメージが広がると同時に、私も軽い山を迎える。

 後はこの体内に感じるびくりびくりという動きが止まるまで、じっと息を潜め堪能するだけだ。勿論、このゲンスルーという男はこれで力尽きたりはしない。いつも通り、しばしの休息の後また求めて来るだろう。せめてそれまで横になろうと身じろぐと、ベッドを意識した途端に睡魔が襲って来た。
 反射的に抵抗しようとして、すぐに気が付く。ここで眠ってしまっても、どうせ男がその気になったタイミングで叩き起こされるだけではないか。なら、今は少しでも身体を休めた方がいいのかも。諦めた途端に意識は沈み、私はあっさりと寝息を立てたのだった。



  ***



 結局、その日はゲンスルーが満足するまで、もう数回なまえは酷使された。

 数時間後、意識を飛ばしてぐったりと倒れこんだなまえをしげしげと眺めたゲンスルーは、その寝顔に称賛の言葉を贈った。当然ながら彼女が知る由もない事だが、それはもう何度も、何度も、確かめるように繰り替えし男が口にしてきた言葉だった。初めて彼女を捕えた時に言ったままに、何度も。
 自分のそれとは違う、柔らかな髪を指で梳きながら男が口にするのは彼女に向けての言葉だろうか。それとも自身に向けての言葉だろうか。

「いやぁ、本当にいい拾い物だったなぁ。お前は実に淫乱で、実に具合がいい」

 もうしばらく手放せそうにない。



(2014.01.02)
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