■ 戦士の休息 上

 今夜もこの馴染みの酒場では、義勇軍のメンバーが集い相変わらずの賑やかな夜を過ごしていた。

「ようなまえ、飲んでるかぁ」
「はいはい、飲んでるわよー。ったく、昼間あんなに動いてたのに、グレッグはまだまだ元気ねぇ」
「はっ、あんなもん大したことねぇさ。俺はなぁ、まだまだ戦い足りねぇぜ!」

 そう言って豪快に笑ったグレッグは、そのまま他のテーブルへと歩いていった。
 ……そして、そんな後ろ姿に溜息を漏らす私。

 この時間にこんな酒場に集う連中といえば、自然と決まった顔になってくる。
 そんな馴染のメンバーに次々声をかけていく彼は、どこのテーブルでも人気者だ。
 実際に、向こうのテーブルではさっそく話が弾んでいるようで……。

 羨ましい、と思ってしまう。
 私だって、もっと気の利いたことを言えれば。いや、話しかけられもしなかった当初を思えば、あの程度のやり取りでも大した進展だ。
 減った酒の分だけ軽やかになった視線で、さり気無く奥の集団を窺う。ああ、本当に、楽しそうに笑っちゃってさ。彼の居るテーブルはいつもとても賑やかだから、こうしてぼんやりと視線を向けても不自然ではないのが幸いだ。情けないことだけれど、姿を見るだけで無性に嬉しくて、胸が高鳴って、幸福な気分になる。
 まるで、恋に恋する小娘に戻ったかのように。

「なーに見てるんだい?」
「うわ、ロベルタってばびっくりさせないでよ」

 ぼーっとしているところに声をかけられ、肩を跳ねさせた私を揶揄するのは、これまた人気者の女戦士だ。ああもう、お酒が出ちゃったらどうするのよと軽く睨めば、面白そうな目で顔を覗き込まれる。

「まーたグレッグかい? ったく、毎夜毎夜懲りないことだねぇ。そんなに気になるなら、こんな控え目に覗き見てないで、もっと押せばいいだろうに」
「だから、いつも言ってるけど、別にどうこうなりたいとかじゃないんだって。ただ、観賞用として凄く好みっていうか、潤いっていうか……」

 嘘だ。
 なれるならば、どうこうなってみたい。けれど、あの人の戦う理由を知った上で何が言えるだろう。妻と子供の敵討ちのために生きているのだと見せつけるような、がむしゃらに特攻する戦いぶりを見た上で、何を言えというのだろう。

「……見ているだけでいいっていうか、要は恋愛ごっこなのよ。『好きになっている自分』が楽しいの」
「またそんなこと言って。まぁさぁ、あんたはそれで良くても、向こうはどうかねぇ。あんたの視線って結構露骨だから」
「え、露骨って!……そんな……あ。……えーと……」

 はっとして先ほどまで見ていたテーブルに目をやると、予想外なことにこちらを向いていた男と視線が絡んだ。反射的に逸らそうとする意識をなんとか制して、無難な会釈の末に不自然にならないように視線を外す。

「ちょっと。なんで、今……。ねぇロベルタ、今、目ぇ合ったわよ!」
「あんたの視線が煩すぎなんじゃない? あんたが気づいてないだけで、あいつは結構あんたに気付いているようだしさ」

 ……え、まさか、そんな。そこまでバレバレだったなんて、何てことだろう。恥ずかしい惨めったらしい消えてしまいたいやってられない。混乱のまま、なんてこったと呟いて酒に口を付ければ、ロベルタがにやにやと顔を近づけてくる。

「なまえってば可愛い。ねぇわかる? あんた今、顔真っ赤だよ」
「……お酒のせいだって」
「ふーん。まあいいけどねぇ。で、筒抜けだって自覚したら、次はどうするんだい?」
「……今更どうしろってのよ。もうやだ。目ぇ合っちゃったし、ここで店から出て行ったらなんか自意識過剰みたいじゃない。もう、いい。見ない、聞かない、気にしない! このままここでヤケ酒してやる!」
「別に今帰ったって、グレッグは別に自分が原因だなんて、これっぽっちも思わないだろうけどねぇ」
「いいの! 飲んで忘れて全部無かったことにするんだから!」
「やれやれ、これだから酔っ払いは。さっぱり理屈が通ってないって、その調子じゃあ微塵もわかってないだろう?」

 呆れたように笑ったロベルタは、それでも付き合ってくれる気はあるらしく、追加の酒とつまみを注文するため声をあげた。



「ねぇ。なまえってば。そろそろお開きだよ」
 霧の向こうで声が聞こえた、ような気がする。
「ちょっと、なまえってばいい加減にしなよ」

「ったく、酒場で落ちるなっての。……ちょっと! 悪いけど誰かこいつを運んでやってくれないかい?」



(2014.02.11)
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