■ リヴァイ編

「はぁい、リヴァイ」

 入っていい?
 ノックと共にかけた声は、待ちくたびれたぞという不機嫌な声により迎えられた。

「随分と、遅かったじゃないか」
 常からの目つきの悪さを幾分悪化させたような表情は、けれども威嚇ではなく拗ねてみせているだけだとなまえは知っている。むしろこういう時の男は、彼なりに恋人に甘えているのだ。気を許さている喜びに、ふっと笑みがこぼれる。
「ごめんね。食堂でちょっと捕まっちゃって……」
 すっかり定位置になったソファに腰かけ、持参した袋の中身をテーブルに並べればリヴァイの瞳が隠しきれない期待感にきらりと輝いた。

「はい。ハッピーバレンタイン! ふふ、リヴァイってば目が釘づけになってる」
「つーか、お前これ……」
「やっぱり知ってたんだ。ご明察、その"例のアレ"よ。友だちに特区の蒸留所を継いでる子がいてね。昔のよしみで分けて貰った正真正銘の"ホンモノ"よ」

 そこらの"生産者"とは異なり、破格の待遇で重宝がられる"蒸留所"の羽振りのよさと実権は並のものではない。並以上どころか、その実質的な地位と影響力は実のところ下手な貴族や商人より格上という場合も珍しくはない。
 事実、憲兵団時代の同僚であるその子も明らかな優遇措置の下で道楽を満喫していた。そんな通常ならきっと反発しか感じないような相手と妙に馬が合ったのは我ながら不思議なことだった。おまけに紆余曲折を経た今もなお、この子とだけはこうして結びついているのだから──縁というのはつくづく妙なものである。

 グラス二杯で終わってしまう小さなボトルは中央ですら簡単には手に入らない極上品だ。勿論、市民向けに卸される安酒や市場に紛れるちょっといい酒ランクとは、質も味も値段も比べ物にならない。

 見開いたままの目で「凄ぇな」と呟くリヴァイの口角も上がっている。興奮を隠しもしない彼の、この予想以上の反応のよさに私は益々得意になった。続いて、袋から取り出した煌びやかな小箱を広げる。こちらも一目でそれとわかる高級品だ。
「で、こっちはチョコレートなんだけど……これもね、その子曰く『このボトルに合わせるならこれ』なんだって。作り手のお墨付きとなれば、試してみないわけないじゃない?」
 普段甘いものに興味を持たない彼でも、今日この場では別である。


  ***


「……さすがというか……凄えな。酒も菓子も、旨いとしか言えねぇ」
「ふわー、すごーい。極上品の名は伊達じゃないって感じね。あーしあわせー」
「……ありがとな」

 そう言って肩を抱かれれば、こつんと触れあった肩に感じるリヴァイの熱が心地いい。
 うっとりと、リヴァイに体重を預ける。優しい指がそっと髪へと伸びてくる。普段は剣ばかり握っている硬くて細くてタコだらけの器用な指が、優しく優しく撫でる様に髪を梳くのが気持ちいい。恍惚として瞼を閉じれば、続けて頬と目元に熱い唇が降って来た。ただでさえほわほわと良い気分なのに、こんなに甘くされたら堪らない。
「ふふふ、リヴァイ、だーい好き」
 すりすりと身を寄せて再度のキスをねだれば、今度はそっと、そしてずっと長く、唇を塞がれる。与えられる愛撫に朦朧としながら、少しでも応えようと趣向を凝らせば……リヴァイの愛撫も徐々に、優しいまま深くなる。

「こら、そんなに煽るな……」

 不意に離れた唇で熱い息と共に紡がれた言葉は既に彼が昂っていることを知らせるもので、それに気を良くした私がさらにキスをねだることは当然の流れだった。
「……仕方ない、ベッドまで行けるか?」
「んー」
 火照った頬と身体のままで、にっこりと笑って両手を差し出して見せる。はぁと溜息の後、身体に腕を回され──そのままぐいと引き上げられると驚くほどあっさりと私の身体は彼に抱き上げられてしまった。わあ凄い。甘えてみたものの、まさかこうも軽々と抱き上げてもらえるなんて。こういうのをお姫様だっこって言うんだっけ。

 酔っている筈なのに、さすがは"人類最強"だ。ふらつくことも無い抜群の安心感である。
 カカオと蒸留酒の甘い香り、そして何より素敵な力強い身体に包まれる心地よさに身を任せているとあっという間にベッドまで辿り着く。静かに下ろされると同時に離れようとする身体が寂しくて、思わず「あ……」と声が漏れてしまう。

「まったく、そんな可愛い顔をしてくれるな」

 名残惜しく思ったことまでしっかり顔に出ていたようで、微笑を浮かべたリヴァイがすぐに覆い被さってくる。触れた肌の熱を心地よく感じつつ、再度深い口づけを交わせば──今度は遠慮しないとばかりに、激しい口づけが待っていた。唇と舌だけでこんなにも気持ちがいいのに、さらに指が体中を撫でていく。それも、ひどく優しく、いやらしく。


 幸いなことに、お節介な団長の采配によるものか、二人揃って翌日の休暇が決まっていた。となれば、後はただ、求め合って溶け合うのみだ──



(2014.03.09)
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