■ 囚われの数日間について 2

 結局シャワーはあっけなく許可された。
 それはそれでこの私がクサイ・汚いと判断されたようで複雑だけど、まあ、実際汚かったし。私の心の平穏のためにもそこを追求するのは止めておこうと思う。

 熱いくらいのシャワーを浴びながらすっかり冴えた頭で状況を整理する。

 なんというか、非常にまずい。
 到底敵わない実力差とはいえ、それでも死に物狂いで逃げようとしなかったのは……まあ、多少の余裕があったからだ。仕掛けられたという爆弾が無視出来ない為というのも事実だけれど、ここのところ毎日が順調に進み過ぎていたから久しぶりの窮地という奴にちょっぴり興奮したのもまた事実。さらに、もともと"爆弾魔"には興味が有ったこともありしおらしく拉致されてみたものの……この状態は非常にまずい。
 何がまずいって、あいつ等が揃いも揃って結構強そうで、あの慣れた感じといい本物の外道なことも明らかなのに意外と馬鹿で阿呆でなんか変に抜けてそうなところが一番まずい。

 どう考えてもあの状況で風呂に入って清潔にして待機なんて精神はありえない。さらにこうして早速、乞われるままにシャワーを使わせるのもどうなのよとしか言いようがない。私だったら捕獲・拘束の時点で徹底的に叩いて、痛め付けて、身ぐるみ全部剥いで、抵抗の意思を完璧に削ぐ程度のことはするぞ。

 ああもう。本当にこんなゲーム参加しなけりゃよかった……。

 何度目かの溜息を吐いてシャワーを止めて髪をかき上げて、そこでさらに気が付いた。この手には指輪が嵌ったままじゃないですか。カードを全部取り上げたという安心感による油断だろうが、それにしたって随分と詰めが甘くはないか。だって例えばこの風呂場のものだけでもカード化すれば十分武器になり得そうなのに。
 そこまで爆弾とやらが強力なのか、私が舐められているだけなのか……ってまあ、両方だろうけど。それでもやはり甘いとしか言えない。だってほら、やけっぱちの窮鼠は何をするかわからないってのにね。

 あちこちに認められる油断に呆れながらもざっくりと髪を乾かし、返してもらった化粧道具でさくっと肌を整える。ああ、言及するならこのドライヤーだってそうだ。この世界で電気がどう作用しているのかなんて仕組みは知らないけど、この感じからすると現実と同じ原理で感電させる事は出来るだろうし……まあ、それが無理でも首を絞める紐程度には使えるのに。
 言い始めたらキリがないけれど、そもそもこうしてよくわからないからって化粧ポーチを丸ごと返すのも正直どうかと思う。風呂に入るのに何故必要なのかと聞かれ、駄目もとで「え、女の子の秘密ですぅ」ってもじもじ答えてみたら希望が通ってしまった。私が言うのもなんだが、普通は渡さないだろ。
 まあ、さすがに面と向かってダメ出ししてやる程お人よしではないから言わないけど。


  ***


 備え付けのバスローブを羽織り、ガチャリと音をさせてドアから顔を覗かせれば待っていましたとはしゃいだ声が聞こえてきた。ベッドの上に陣取った男三人はバインダーを広げて楽しく過ごしていたらしい。口々にブックを唱え片付け始める姿は平和そのもので脱力しないようにするのが大変だ。

 だから、どうしていちいちそんなに仲良しなのだこいつらは。


 さてさて。
 そんな男共を懐柔すべく、お待たせしました……とはにかめば効果は抜群。

 なにせ、どこへ行ってもちやほやされるお隣宅のメイアーナちゃんとは違い、自分は至って人並みで特別扱いなど望めないのだと気付いた遠い昔のあの日から私の武器は愛嬌なのだ。そう言えばメイアーナちゃんはある日突然誰かに拐かされて消えてしまったっけ。突然の悲劇すら村のみんなは揃って「あの子は可愛いから」で説明をつけたものだからあの衝撃は大したものだった。
 まあ幼馴染未満の可哀想な少女のことは今は関係ない。私の自慢は愛嬌だという、ただそれだけのことだ。そして今日また、私は愛想で生き延びてみせようじゃないかと。そういう話だ。

 そしてここで必殺のはにかみ発動である。

 反応はまさに期待通りだった。目を爛々とさせたバラがうおおおおと雄叫びを上げ、彼ほどではないにしろ残る二人も顔つきを変えた。それでまあ、とりあえず私の自尊心は満たされる。続いておいでおいでと嬉しそうに手を揺らすバラにチラチラと視線を合わせながら、はにかみを崩さずもじもじとベッドへと歩き出したのも自画自賛していいと思う。
 ベッドに上がろうとするところで手を伸ばしてきたのはサブだった。
 うむ。お手をどうぞとは、なかなかに丁寧な男だ。
 思わず素でそんなことを考えながらそっと手を重ねたところ思いの外強い力でぐいと腕を引かれ……あれよあれよと言う間に、腰を支えられて抱きかかえるようにベッドの上に座らされた。
 ろくな抵抗も拒絶も見せずにぺたりと座り込めば、前から後からあっという間に三つの身体に覆い隠される。取り囲むように陣取った男たちは熱い息を吐きながら行為へと手を進めた。待ち時間が効いたのか、私の愛嬌が効いたのか、今回はゲンスルーも参加する気らしい。


 背後のゲンスルーは、そっとバスローブをはだけさせると肩や首まわりを中心に手と唇で撫で始めた。時折歯をたて緩急を付け、胸へと回した方の手でゆるゆると乳房を揉みしだくのも忘れない──というソツのなさを見せつけてくれるからやっぱりとんでもなくズルい男だと思う。
 前方右側からはバラが。固い手のひらで太ももを撫でまわしつつ、時折それとなく局部への刺激を混ぜるくすぐったい程の微妙な愛撫を混ぜてくるあたりなかなかにツボを心得ているとみた。身をよじる私の反応を楽しむ傍らで隆々と主張するペニスにそっと、あまりにもそっと優しく私の手を導き、握らせ、その手に自分の手を重ねて扱き始めた。
 その逆側に陣取るのはサブだ。空いている方の乳房とゲンスルーの指が触らない両の突起へと手を伸ばす彼は、なんというか凄く丁寧に胸を触っていた。触り続けていた。そして勿論手だけで済ますことはなく、先ほどのように舌先でたっぷりとねちっこく繰り出す愛撫も忘れてはいない。

 三者三様の愛撫に身悶えして熱い息を吐けば、彼らの熱もぐんと上がった。
 思わずバラ以外の二人にも手を伸ばし、代わる代わるさわさわと愛撫を返せばさらにいい反応が返ってき…て………………あれ?

 どうもおかしい。
 どう客観的に見てもこれでは合意の上だ。
 ていうか、幾ら狙ってみたからといって何だこの待遇の良さは。

 あの洞窟でのバッドエンドへのフラグが嘘のような激しくも緩やかな快感に包まれていることに気がつき、私もさすがに困惑した。だが、なんというかまあ、これもある種の"幸運"だろうかと思考停止するまで然程の時間もいらなかった。非常に都合のいい展開に警戒もするものの、滅多に身を置けない状況に好奇心が疼くのも事実なのだから私という女は救いがない。
 おいおい、さすがにこれはどうなのよ。そう制止を叫ぶ理性の声も聞こえるには聞こえるのだけれどそんなものはどんどん薄れていく。片方に自制心を乗せた天秤は、こうしてあっさりと逆側の好奇心に傾いてしまうのだ。ああ、そうだそうだった。多少揺らいでみたところで自分の本質はそうは変わらない。

 どうせなら、面白い方へ。
 どうせなら、興味の赴くままに生きていたい──だから、私はハンターなのだ。

 かくして、この先行き不安な、少なくとも現状では快楽最優先な展開をどれだけ楽しめるのだろうと期待した私の胸はひどく高鳴った。


 ……だから、全部彼らが悪いのだ。
 こんなに面白い展開に流されないなんて不可能なのだから。



(2014.01.12)
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