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オマケ

■1(帰らないでいてくれて嬉しい)

 よかったら、コーヒーでも飲んで待っててよ。そう言って湯気の立つカップ一つを残し、なまえがバスルームへと消えて数十分。

 途中何度か物が落ちるガチャンとした音が聞こえたり、バシャバシャと切羽詰まった水音が聞こえたりする度にメレオロンは気が気ではなかった。それでもなんとか無事にリビングへ戻ってきた彼女が、そのまま支度を済ませて出かけようと言うのをなんとか押し留め、説得すること十数分。
 誘った立場で言えることではないが、さすがにこんな状態の彼女にとって外食などむしろ負担にしかならないだろうと思うのは当然のことだろう。
 せっかくのお誘いなのにー!と駄々を捏ねていた唇は、けれどもデリバリーを頼もうと提案してみるとあっさり笑みの形に変わった。

「じゃあじゃあ、何にしよっか。あ、こないだのあの黄色いロゴのお店なんて、どうかな」

 妙に嬉しそうな彼女の、弾む声の理由に気がつくまでは数十秒。



■2(つまりはすべて君とのために)

 デリバリーの青年が置いていったのは、大きなパッケージにぎっしり詰められた料理たちで。
 取り分けようとなまえが用意し始めた食器を見て、メレオロンはいつかのことを思い出す。

「……つーか、全部ふたり分はちゃんとあるんだな」

 皿もフォークもティーカップもコーヒースプーンもソーサーも、全てがきっちりふたつずつ。
 より正しく言うなら、来客用ならもっと個数が揃っていてもよさそうなものですら、ふたつしかない。みっつでもよっつでもなく、ふたつあったら充分だと言わんばかりに。いや、実際、ふたつで充分だったのだろう。

「えへへー、もっと褒めてくれてもいいよ。絶対にメレオロンとご飯を食べようと思って、丸二日かけて揃えたんだから」

 ……一瞬、何を言われたのかはわからなかった。
 けれど、すぐに胸にストンと落ちてくる。

 屈託無く放たれた言葉が示している可能性も事実も、きっとただひとつ。
 まさか誰かの影を感じていたなんてことは今更言えもしないので、ただ「暇人だなぁ」と呆れた顔で笑うことにした。



(2014.12.21)
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