■ こっちの蜜も甘いぞ

本日の缶詰:続・いきなり母乳編〜男だって出るんです〜


 本日の缶詰の中身は、なんとまた、あの母乳系だった。
 が、何より笑えるのは、それを開けたのがゲンスルーだったという事だ。


「おい! やめろって……おいこらっなまえ!!」
「んーふーふ、いいじゃないの。男で母乳噴出なんて、そうそう経験出来ないことなんだから。このファンタジーを、せっかくだし堪能しましょう?」

 効果が判明するなり、そのままトンズラここうとしたゲンスルーをうまいこと言いくるめて無事拉致軟禁し……と言うとさすがに言い過ぎだけれど、まあそんな感じで馬乗りになった私は、いつぞやのお返しとばかりにウキウキと男の胸へと手を伸ばしていた。
 わざわざ"母乳"なんて言葉を使ってみれば、案の定ぎろりと睨まれる。ああ、でも微かに朱が差した眼差しで見つめられても、怖くなんてないのですよ。むしろ、楽しさに震えるばかりで。

「ね? 絶なんて使う余裕ないでしょ? 張って疼いて堪らないでしょ? 思いっきり弄りたいでしょ? 出したいでしょ? ふふふ、私だってそうだったもの。ねぇ、意味の無い我慢なんて止めて、さっさと観念してそのおっぱいを先輩に任せちゃいましょう?」

 最初はあくまでも軽く。けれどシャツ越しの胸にツンと触れるだけで、びくりと震えてくれる身体が可愛らしくてゾクゾクする。
 その様子ではうっすら滲み出しているのだろうが、そんなんじゃまだ足りない筈だ。もっと直接的な刺激で出さなくては、あの疼きは慰められない。尤も、一度噴射してしまえば、次はその出る快感そのものに翻弄されることになるわけだけれど……。抗いがたいあの感覚に覚えがある分、今日の私の優位は確定している。

「ほーら、まずは上を脱ぎ脱ぎしましょうねー……って、非協力的ですねぇ。まあいいけど、シャツが皺になっちゃいますよー」

 壁のコートをちらりと見た後、さあ今着ているシャツも脱ごうと誘うもゲンスルーは動かない。ということで、ならばこれは彼が選んだ展開だ。この先シャツがどうなろうとも、私に一切の非は無いということだ。誘導成功とほくそ笑みつつ硬い身体に体重を預ける。
「おいっ!」
 裾から手を入れ割れた腹筋を手の平で撫でまわしていると、すぐに私の身体を引きはがそうと大きい手が伸びてくる。だが、首を伸ばしてちゅっと疼いているだろう彼の先端に服越しのキスを落とせば、それだけでふにゃりと力は抜けてしまう。

「なっ、こら……! マジで怒るぞ!」
「いいじゃないですか。こないだのお返しに、今日は大人しく私に身を任せて下さいよ」
「……ざけんなよコラ」

 それ以上は付き合わず、布越しに膨らむ突起へと舌を這わすことに集中することにした。
 男の小さくてぷっくりとした乳首を一心不乱に、それもシャツ越しに舐め上げるなんて。私ったらまるでサービス精神の塊じゃないのと自画自賛する間にも、舌先に誘われて溢れ始めた蜜が、私の味覚を奪って行く。

「へぇ、溢れてきた。ゲンスルーのオーラ、甘くて、美味しい」

 わざわざこれを言う為だけに口を離してにっこりと笑いかければ、チッと舌打ちされた。
 けれど意外にもされるがままというこの態度と、先ほどから荒くなっている息と、そして何より先ほどから意味深に早まり続けている鼓動が、まんざら不愉快なだけでもないのだと伝えてくれている。
 尤もそれを言い出せば、彼の様な男がこんなに簡単にベッドに転がってくれること自体が"そういう合図"なのだけれど……お互いにそこは気づかない振りをするのが様式美というものだ。
 ごっこ遊びは、徹底してこそ意味がある。

「ほら、先に脱がないからべとべとになっちゃった」

 私の唾液と溢れる粘液のせいで、白いシャツの一部分だけが恥ずかしく透けてしまっていた。
 そこだけ濡れて質感が変わったシャツというだけでも大した光景なのに、乳輪と乳首の色がうっすらと見て取れるのが堪らなく情けなくて、扇情的で、いやらしい。ぷっくりと膨らんで染みを広げ続けている先端に生地を食い込ませるように触ってやれば、喉からはひゅっと音が漏れる。
 その反応に気を良くした私はにんまりと笑ってもう一方の乳首へと口を寄せ、今度は少し強めに吸い付いた。
「──ッ!」

 眉間に皺を寄せながら、抗いがたい快感に震える男のなんと色気のあることだろう。
 しかも今回は、有り得ない筈の乳首からの分泌物という状況の為いつもよりもずっと羞恥の色が強いというのもポイントだ。

 何より、興奮しすぎたせいで実は早々に軽々と"暗黙の了解"で済ませられる範囲を飛び越えてしまっていた私の暴走にすら、なし崩しで付き合ってくれる辺りが最高だ。
 柄にもなく羞恥と困惑と乳汁にまみれて、快楽に流される受け身なゲンスルー──考えるまでも無くレア過ぎる光景に、ごくりと喉が鳴る。珍しいものは大好きだ。そして、遭遇したチャンスは全力で捕りに行く。たとえ後でどれだけド変態と罵られようが、構うものか。
 今この時の己の欲求に素直になり、自身の欲望を追求してこそのプロハンター、なまえ様ではないか!

「ね? 吸われると好いでしょ。でも……そろそろ、服越しじゃあ物足りないかなぁ」

 それに、私だってもっともっと味わいたい。
 裾から手を滑らせ服をはだければ、逞しい腹筋と可愛い乳首がいよいよ眼前に現れる。
 いつもと違いテラテラと濡れた突起に目を細めながら、今度は直に吸い付く。反射的に発せられる拒否の声は、当然無視だ。無視はするけれど、可愛い声を聞き逃しはしない。
 ああ、それにしても。甘くて不思議な味だけでも充分過ぎるほどに魅力的なのに、それがゲンスルーから出ている、ゲンスルーのオーラだというのだから堪らない。精液、唾液、血液……そんな昨日今日食べた物に左右されるような、"命ある肉体"を感じさせるものも好きだけれど、でもこれは、そう言う意味では禁断の果実だ。いや、果汁か。
 ゲンスルーが纏う"生命エネルギー"そのものであるオーラを今、摂取している。それはある意味、この男そのものを"食べている"と言ってもいいのではないだろうか。そう思うと、なんだかとても罪深いことをしている気がして増々身体が熱くなっていく。
 しかし、さすがに男だと私の時のようにはいかないようで。かなり意識して吸い上げても、自分の時と比べるとどうにも細く、勢いも無いままだった。このままでは口が疲れてしまいそうだと打開の術を探るものの、熱い胸板では揉みしだくことも出来やしない。
 しかし、運は私を見離してはいなかった。
 気が付いたのは、胸に吸い付いて片手でわき腹を撫でながら、勿体ぶった手つきで下腹部へともどかしい刺激を送っている時だった。
 すでに充分硬く熱く主張している存在自体には、気が付きながらも敢えて無視していたのだけれど……でも、こっちの刺激とあっちの刺激を連動させたら……?


 結論として、その発想は間違っていなかった。
 しかし、結果としては失敗だった。


 見事、いっそ反則に近い程に正解中の正解を叩き出したところまではよかった。けれど予想に反して、私の天下は長くは続かなかった。目論見通り、両方同時という刺激は度を越えていたらしくゲンスルーはあっさり恥も理性もかなぐり捨てて陥落した。上からも下からもどろどろと溢れさせ乱れる男というのは見ものだったし、実際とても美味しかった。
 けれど、そんな彼を余裕の顔で翻弄できたのはほんの一瞬だった。

 理性が無くなるという事は即ち、加減も"ごっこ"も効かなくなるということで。

 間抜けな私がそれに気が付いたのは、呼吸も休憩もタイミングもお構いなしに押さえ付けられて、「突き破る気かこいつ」と顔を顰める程に好き勝手に抉られている最中だった。ああそうか、とあんな最中に理解してしまっても何もできやしない。制御を失くした男を、この細腕じゃどうやったって押さえつけておけるわけなど無いってことに、もっと早く気が付くべきだったのだ。



「あーもう、腰って言うか体全体が痛くてだるくて起き上がれないわけですが」
「……そうか」
「お風呂も入りたいけど、その体力すら残ってないわけですが」
「……なまえ、自業自得って言葉知ってるか?」
「酷い! あんなにむちゃくちゃした癖に! あーなんか中から痛いんだけど。おまけに腕とか腰とか本気で掴むしさぁ……って、うわ、ほら見てよ青くなってる!」
「はぁ? ……あー……生憎、記憶にねぇな」
「記憶が有ろうがなかろうが、ゲンスルーしか有り得ないでしょうが。うわー乙女の柔肌が痛々しいなぁ! これは今すぐ果物か、甘いケーキを食べなきゃ癒えないレベルの心の傷だなぁ!」
「……いや、ルームサービスくらい頼んでやるけどさ……お前、安過ぎだろう」
「勿論、その後はお風呂で髪も洗ってもらうわよ。本気でしんどいし腕上がらないもん」
「……へいへい」



(2014.07.10)(男の乳に需要はあるのか……と思いつつも)