■ ふざけあった影は独占欲を孕む

「やらしい女だなぁなまえ。そんなモンで、そんな気持ちよくなっちまうとはなァ」

 クククと笑ったゲンスルーは、私の頭を掴むと力任せに引き起こした。ああ、なんて酷い扱いだろう。けれど息も絶え絶えの私にはそれを非難する余裕もない。ただただ、どうしようもないと知りながらも諦めきれない呻き声を漏らす程度の意思表示がやっとだ。

 着ている服のあちこちは無残としか言いようがない程に破かれてしまっているし、だらんと力の抜けた足の間では透明な液体がぬらぬらと光っている。どこをどう見ても"そういう意味で"乱暴を受けたようにしか見えないだろう私は、けれども今日に限ってはこのゲンスルー相手に泣かされたわけではなかった。
 尤も、なす術もなく揉みくちゃにされる私を、少し離れた場所からにやにやと見つめていたこの男の責任は重いのだけれど……それはまた別次元の話になる。

「なあ、見てみろよ。急に獲物が居なくなったもんだから、こいつらも慌ててやがる」

 無理やり頭を捻られた先には、数秒前まで私の身体ををまさぐっていた無数のツタがうねうねと蠢いている。
 グロテスク極まりない光景を前に、知らず知らず顔が引きつる。そんな私の反応を確かめた上で、より衝撃を与えようかとでも言うようにゲンスルーが耳にふぅと息を吹きかけてきた。

「起きてるな。よし、まだまだ休むんじゃねぇぞ……お楽しみは、これからだろう?」

 ほらよ、可愛がってもらえ。普段より幾分乱暴に言い捨てられた内容を理解する間も無く、ゴミのように投げられた身体は一直線にツタたちに向かって落ちていく。
 受身も取れない私がそれでも固い地面に叩きつけられる衝撃を感じなかったのは、つまりそういうことだ。まるで目でも持っているかのような的確さで私をキャッチしたツタたちは、今度こそ逃がすものかとでも言うように一斉に群がってくる。
 ただの樹木とは一線を画す滑らかさと素早さで服の裂け目から侵入してきたツタは、私の肌という肌を撫でまわり、擦りあげ、突起を締め上げる。そして極め付けとばかりに、慣れない刺激にどろどろに溶け切ってしまった秘部に容赦なく攻め入るのだ。

 そう、もはやこれは私の知っている "植物のツタ"などではなく──意志を、目的を持って生き物を嬲る"触手"だった。


 細い触手が幾重にも連なって足の間を這いずり回れば、敏感な部分が擦りあげられるわけで。
 悩ましい身体が否応無く反応してしまえば、一体どこまで理解しているのか……触手たちはより念入りにそのポイントを狙い始めた。そして、じんわりと綻び始めた穴を次なる攻略ポイントとされたことに手遅れになる前に気が付けたとしても、最早何度も絶頂を迎え溶けきった私にはなす術もなく。むしろくぱくぱと疼くそこを指したゲンスルーが、「待ち構えてやがる」と揶揄したくらいに呆気なく、私は陥落してしまった。


 他とは少し違った先端を持つ触手が、ずるりと降りてくるの視界の隅で捉えてしまう。
 雄しべ(生殖器官)か、もしくは口(捕食器官)か──推測しようにも答えは見つけようがないし、仮に正解したとしても何も変わらないだろう。確かなのは、今からあれが押し入ってくるということだけだ。

 代わる代わる出入りを繰り返していた細い触手たちがずるりと一斉に去り、空いた穴を埋めるように間髪入れずおかしな形状の触手が入ってくる。ごりごりと内部を抉っていく刺激は、けれども充分過ぎる程に慣らされた今では痛みの代わりに脳天に響く快感となり私を苛む。
 そして私が一際激しく内部を締め付けたタイミングで、びゅくびゅくと生暖かい液体が噴射されたことにより……私はようやくソレが正しく生殖器官であったことに気が付くのだった。と言っても、もちろん触手の体液は私を孕まそうとしてのものではない。いくら不条理がまかり通るこの世界でも、そこは変わらない"常識"だ。
 ずるりと抜かれた触手の後に続いて、体液に混じって排出された"何か"がぽとぽととこぼれ落ちたのを目にし、これが胚だと直感する。ああそうか、私は苗床にされるのか。きっとまだまだ埋め込まれているだろうソレらを吐き出してしまいたくて反射的に下腹部に力を入れるも、当然ながら上手くいかない。
 けれど絶望する間も無いまま……新たな触手が次なる種を蒔くために、再び穴をこじ開け始めた。


 壊れきった世界の中で、いっそ気持ち悪いと思えた方がずっと正常だと自嘲する。
 こんなもの相手にこんな状況に陥って、いいように喘がされてイキまくって、その上もっと欲しいと願っているなんて……屈辱的な快楽にどろどろに溶かされながら、私はそれでも自己を手放せない。
「ゲ、ン……スルー……」
 それというのも全て、この男の存在のせいだった。
 触手に全身まさぐられ、秘所を犯され、いいように種付けされ……それを紛れもない快感と感じている浅ましい姿を、ゲンスルーは目を逸らしもせずに見ていた。
 待ち望んだその手がやっと伸ばされたのは、そんな延々と続くのだろうかと恐ろしくなりそうな快楽の最中、「もういい加減に全て投げ出してもいいかな」と僅かに残っていた理性が完全にかき消える直前だった。

「あー……全く、イっちまった目しやがって。そんなに、バケモンに犯されるのがイイってかぁ?」

 口腔内でぐじぐじと蠢いていた触手たちを一息で引き抜いたゲンスルーは、代わりとばかりに彼自身の昂りを捩じ込んできた。
 歯列をなぞり舌の根まで絡みとるような触手の動きとは違う刺激に霞がかっていた意識が反応する。非日常のど真ん中にやっと見つけた感覚に縋るように懸命に舌を動かし始めるが、これは愛とかいう美しい心の機敏などではなく単なる慣れにすぎない。乱暴に押し込まれているこの形はもちろん、色に、匂い。果てはそれこそ裏筋の浮かび上がり方に、喜ばせ方や怒らせ方まで。ぜんぶぜんぶすっかり身体に覚え込まされてしまっている。
 そして当然ながら、仕込んだ男もそれをわかっているに違いない。
 つまり、どう見てもまともな思考力を持たない私がそれでも的確に舐めあげているという事実が示す意味に、気が付かない男ではないのだ。

「ハッ、バケモンなんかにくれてやるにゃ、惜しい玩具だなっ……と」

 欠片の遠慮も見せない力で、いきなり頭を掴まれた。
 とっくに自由も選択の余地もなくなっていたけれど、これは限度を超えていた。ゲンスルーに望まれるがまま、まるで本当に物言わぬ玩具のように身勝手に扱われる。道具を使って自慰に興じるかのように乱暴に揺さぶられようとも、ただただ受け入れるしか出来ない。
 こうしている間も相変わらず触手により膣壁を擦られ続けているわけで……息もまともに出来ない状態で上も下も犯されて、いよいよ私は正気を遠く手放してしまう。
 身の丈を過ぎる快楽に身体を震わせながら、ただの命ある肉穴として男の精を待つしか出来ない。そんな恥辱にまみれた現状も、認識する頭がなければ何の感慨も生みはしない。


  ***


 いよいよ、また触手が噴射する……そんな予感を覚えた瞬間……今度は本当に、触手が爆発した。
 この状況にあって私の秘所から力任せに引き摺り出した触手を一体誰がどうやって爆発させたかなんて、わざわざ確かめるまでもない。そんなことをできるのは常に一人しかいないのだから。
 しかしながら、生憎と現在の私にはまともな思考も視界もなにひとつとして残ってはいないわけで。反撃に興じようとした触手たちの根元、つまり本体を狙って力を放ったゲンスルーの姿も、爆発音に混じって何かを口汚く罵る声も、当然ながら半分も理解できずにいた。気がついた時には、触手の殆どがただの残骸となり地面に散らばっていたのだ。

 けれど。あらかたの触手を恐ろしいほどに手際良く片付けたゲンスルーが次にしたことは、未だくっぱりと開ききった穴を晒して倒れこむ私を介抱することでもなく、いたわりやねぎらいの言葉をかけることでもなく、滾りきった怒張で犯すことだったのだから──やはり彼は外道の中の外道だと断言できてしまうのだ。

「おいこら、いつまでもバケモン相手に蕩けてんじゃねーぞ……って、聞こえてねぇなこりゃ」

 拒みもしない秘所に自身を埋めかけたゲンスルーは、中に詰まっていたどろどろの液体とぷちぷちとした胚の感触に眉を顰めた。彼の腰の動きに合わせて押し出され、ぼとぼとと地面に落ちていく残滓たち。それらを舌打ち混じりに踏み躙ったゲンスルーは、よりいっそう荒々しく中を抉り始める。

「知ってっかァ? こいつらの体液は、タネを留める役割だけじゃねぇ。メスの中に残ってる精子も残らずブチ殺して、自分のタネで腹一杯にしちまう為に出てんだとよ」
 応えない私がそもそも聞いてすらいないのだと気づいているゲンスルーは、構うことなく独り言を繰り返す。
「雑草の分際で、随分生意気だよなぁ。なのにお前ときたら、まんまとこんなに注がれやがって」
 不愉快そうに舌打ちされたって、私に非があることだとは思えない。むしろ助けてくれなかったあんたの方が……と言えるものなら言うのだけれどこの状況では無理だった。理性なんて儚いものだ。

「仕方ねぇから、優しい俺が残らず掻き出してやるよ」

 爛々と輝く瞳でそんなことを言うゲンスルーの興奮の理由なんて、もちろん私が知るわけないことである。
 ただ……覚え込んでしまう程に犯されてきたけれど、思えばスキン越しでないゲンスルーを感じるのは本当に指折り数える程度のものだと、言及せずにはいられない。
 この外道を地で行く爆弾魔たちが、一体何を思ってそんな律儀なことになっているのか。明確な答えを聞いたわけではないけれど、それでもそれっぽい心当たりは幾つかあった。例えば、一回出すだけなら気にしないが何度もすると逆流したモノが自分にまでかかるのが面倒だとか、「お前はどんな潔癖だ」と言いたくなるような愚痴を聞いた覚えがある。あるいは体液を使って呪いめいた念をかけられることを警戒してという能力者としての真っ当な理由もあった。
 後は……ああそうだ、アレだ。することを済まして四人で倒れ込んでいた時に、もし「ガキが出来たら」とサブとバラが意外なまでに楽しそうに話す後ろで、ゲンスルーが見せたあの嫌そうな顔だ。孕ますことに重点を置くのではなく、生まれる子供やその成長過程を楽しみにする悪党なんてものを初めて見た私は、ただ呆れるしか出来なかったっけ。

 けれど、さすがのゲンスルーもこの場においてはそんな拘りはさっさと捨てることにしたようだった。あるいは、触手が持っているらしい殺精子力を信用しての戯れか。

 どろどろの異物で埋め尽くされた私の中を絶えず掻き混ぜ掻き出しながら、奥の奥まで洗い流すかのように何度も何度も精を吐き出すゲンスルー。散々注入された触手の体液よりもずっと熱い迸りを受ける度に、相変わらず使い物にならない頭はそのままなものの、身体の方が悲しいほどに本能的な反応を返してしまう。
 出入りする性器を小刻みに締め上げ、限界間近の動きを明確に察知して子宮を下ろし、出された精液を進んで飲み干し、歓喜に震える。

「……ッ、こいつ! あんなに注がれといて、まだ飲み足りねぇってのか!?」

 苛立っていた声は、けれども未だ無意識を漂う私の口から漏れた名前を耳にしたと同時にピタリとその怒りを治め……代わりに、ゾクゾクする程に征服欲に満ちた微笑みを浮かべた唇が私のそれに重ねられたのだった。


  だよなぁ、なまえ。
  あんなバケモンに幾ら出されたところで、満足したなんて言えるわけねぇよなァ?



  ***



 通行チケットを掲げて光を浴びれば、瞬く間に私の身体は出口(セーブポイント)へと移動している。
 毎度お馴染みの案内役の娘さんが相変わらずの調子でどの港にしますかと尋ねるのには答えず、代わりに最上級の笑顔を浮かべて感謝を口にする。

「……何がですか?」
「いやぁほら、前に言った"エロい触手"の実装! 早速楽しんだけど、もうきもちいいのなんのって。腰砕けたもん。なんかもう全部どうでもいいやってくらい全身性感帯で、あ……でもさぁ、あんなに激しくて……その、色々大丈夫なの? イイはイイけど良過ぎて生物兵器並みって言うか、普通の人だったらおかしくなっちゃわない?」

 生死の保証は初手から放棄しているゲームとはいえ、さすがにシャレにならないレベルの婦女暴行を助長するようなリクエストをしたとあっては寝覚めが悪い。
 快感の度合いが強過ぎなんじゃない?と恐る恐る尋ねてみれば、いつもクールなキャラクターらしくもない、大きく見開かれた瞳が私に注がれる。
「……そんなに、気持ちよかったのですか?」
「うん。上からも下からもで全身ぐちゃぐちゃで、底なしなのかなってくらいにお腹一杯植えつけられて、これで失神しなきゃ嘘ってくらいに激しかった」
 おかげで、その後の同行者とのセックスも盛り上がってさぁ、というところまではさすがに言わない。言えない。けれども私の赤裸々な報告を受け取ったプログラムさんは、自動対応から手動対応に切り替わったような表情で「はて」と首を傾げてしまう。
「そんなに危険な品種じゃ無い筈なんだけど。だって、普段はせいぜい小動物を相手にするようなもので……」
 ぶつぶつ呟く様子は演技というには手厚いもので、思わず「まさか」という予感が脳裏に閃く。他の人がそうでもなくて、私だけに"都合のいい"事態が起こること……これって、よくあるアレじゃ無いの?

「あ、あの、もしかして、私が当たったのってバグってやつ?」
「……ええ、多分。他にそんな報告も入ってきてないし」

 ごめんなさいね。さすがに今回は完璧にこっちの落ち度だし、次来るまでに補填を考えておくわ。
 ついに管理者権限を持ち出してきた彼女に、まさか私の体質が変に作用しちゃったかも? なんてことは言い出せるわけもなく。ただただ曖昧な笑みを浮かべるしかなかった私をどうか怒らないでほしい。



(2015.04.20)(タイトル:亡霊 )