| ■ 私を愛せない可愛そうなあなた 「メ……レ…オロ…ン……ねえ、もう──」 もうそろそろ、と向けられる熱い視線に応えてメレオロンはなまえの柔らかな足の間へと身体を滑り込ませた。せっかくの可憐な薄布はすでに意味をなさないほど、たっぷりと溢れた熱い蜜に浸かっている。甘い匂いがいっそう濃厚に香り、ただでさえ高揚している脳が掻き混ぜられるようだった。狙い澄ましてこれ見よがしに吐息をかければ、小刻みに震えていた身体がひときわ大きく跳ねる。本当に、いちいち反応が良くて癖になる。 さて、すぐにでも下着を剥ぎ取って蜜穴を舐めてやりたいが、がっつき過ぎるのはみっともない。それになにより──少しくらい焦らした方が、結局はイイしな。どうせならより欲しがってくれる姿を堪能したいじゃねェか。 口にする替わりに濡れた布地の上からべろりと舐め上げると、なまえは素直に嬌声を響かせる。それだけでも大した破壊力なのに、舌先から痺れるような甘味が流れ込み、喉へと落ちては身体の中から焼くようなのだ。焦らしてやろうと考えたばかりなのに、早くも思い直したくなってくるのだが。いやいや、さすがに全言撤回には早過ぎるとぐっと堪える。どうせ保たないにしても、せめて可能な限り格好をつけたいものなのだ。 下着をずらして、しかし肝心な部分は避けるように。なるべく焦れったく身悶えさせるように。ゆっくりと丹念に紫色の舌を這わせていく。 メレオロンの肩を健気に掴む彼女の望みは重々承知しながらも、いっそう意地の悪い愛撫を繰り返していたのだが、当然こんな意地悪はいつまでも続けられない。いよいよ指の力に遠慮がなくなり始めたのでそろそろ潮時だろう。この状況ではどちらの潮か期待しがちなところだが、残念ながら本来の意味である。基本的にはされるがままで任せてくれるとはいえ、元来どちらかと言えば短気かつ我の強いなまえなので調子に乗りすぎると手酷い返しをくらってしまう。ひんひんとねだってくれる様子に気を良くして食い込む指を無視した結果、どうにもやり過ぎたらしく念を纏った手刀で実力行使をくらいムードも何もない事態に陥ったことは記憶に新しい。 さすがに頃合いかと顔を上げると、なるほど限界間近だなというしかないくらい蕩けたなまえがいた。 「……焦らすの……やだぁ……」 ねえ、お願い。もっと舐めて。 普段のなまえからはとても想像できないような艶めいた懇願はメレオロンを的確に煽る。押せ押せとばかりに詰め寄ってくる強引といっても差し支えない普段ももちろん悪くはないが、こういう限定的な表情は格別だ。まして、それを引きだしているのは己なのだから。 「まったく、まだそんなに焦らしてもねェだろうが?」 嘘だ。むしろメレオロンの方こそ早くむしゃぶりつきたくて堪らない。 甘い甘い蜜の源流に今すぐ捩じ込んで思いっきり啜ってやりたい。 「へッ、仕方ねーな……そんじゃ、これ脱がすぞ」 するすると抜き取った下着をベッドの端に放り投げて、さてと顔を近づける。 散々焦らしていた甲斐あって、すでに可哀想なほどひくついていた花に舌を這わせてそれを一滴たりとも無駄にしないように舐めとり吸い取っていけば、なまえは喜びと共にますます蜜を溢れさせる。 メレオロンの場合、カメレオンという種の特性である舌先の粘液は獲物を捕らえようと舌を伸ばした時にだけ自動的に分泌された。 たとえば流暢に言葉を操れるように、たとえばなまえの小さな口内を蹂躙できるように、原型となった種の限界を超えて発達した舌は実に都合よく動いてくれた。だからこうしてなまえのひくひくと震えてはもっともっとと蜜を分泌させて甘えてくる性器も、人間と同じように舐めてやることができる。いや、むしろ。人間より長く人間とは異なった仕様の舌を器用かつ自在に操れるのだから──それはもう、人間以上の愛撫と断言しても差し支えないだろう。 しかしそうやって行為に夢中になればなるほど、それが本当に"愛撫"なのかどうかがメレオロン自身にも区別がつかなくなってくるのだ。 最中のなまえが放つ香りを"美味そう"と感じ、蜜を"甘い"と感じるのは、オスとしてかそれとも──人を餌として好んだキメラ=アントの性質か? なまえと関係を持ったことにより、自身にとっての食欲と性欲が非常に近いものだと理解してしまった。 おそらく、人間として生きていた頃よりずっと両者は似た欲求として本能を刺激する。故に、初めて触れて以降、毎回どうしようもなく心地よい反面こわくて仕方がない。比喩でも思い違いでもなく、事実として甘露としか思えない蜜を味わいながら、この快楽の天秤がもう片方に傾いてしまったらと怯えずにはいられない。 我を忘れた瞬間にこの柔らかく旨そうな肉に食らいついてしまうのではないか……そう恐れるくせに、それでもメレオロンはなまえに触れることを求めてしまう。目の前の異形に対して警戒心など微塵も抱いてない様子で脚を開くなまえに、時折物足りなそうにしながらもそれ以上を強くは求めないなまえに、気づいていながらも。 そう、なまえもまたメレオロンの独りよがりな線引きを感じ取っているのだろう。聡明な彼女のことだ。いくら恋に目が眩んでいるとはいえ、自分が相手にしている存在がどんなものなのかを見誤ったりはしない。だからメレオロンとして生きることにした"蟻"を今も苛み続けている懸念も恐怖もとっくに見抜かしてしまっているだろう。 けれど。なまえに負担を強いていると承知したうえで、メレオロンは此の期に及んでまだ無様にも彼女の優しさに縋ってしまう。 舐めて、吸って、快楽を与え、与えられ、そうしながらもどうか"それだけで"満足してくれ満足させてくれと甘えているのだ。 枷が外れることを恐れるからこそ、メレオロンは決してなまえに身を埋めない。 兵隊蟻ならば、子孫を残す必要はなく、性欲は加虐性のうちだった。 女王蟻ならば、生殖は交わりではなく、食事という行為に集約されていただろう。 蟻の王ならば、種としての頂点に君臨し、種の繁栄を確固たるものにするための手段でしかなかったはずだ。 しかし兵隊蟻としての序列からも王を目指す野心からも解き放たれたメレオロンには、"蟻"が本来持たないはずの欲求が生じていた。純粋な生殖以外の意図で繋がりたがる心身は、眼前のただひとりを求める渇望は、皮肉なまでにヒトの業としてメレオロンを追い詰める。 どうせ抱けやしないなら、そもそも触れなければいい話。 そうと承知しながら、それでも手を伸ばさずにはいられない欲深い"蟻"。 決して本当には満たされることがないとわかっていながら、それでも一時の快楽と距離を埋める手段を欲しがる、愚かな"人間"。 メレオロンの貪欲な舌に追い立てられ、なまえの呼吸が一段と激しくなる。 奥から奥から蜜を溢れさせて、肉壁を犯すメレオロンの舌をきゅうきゅうと締めつける穴が絶頂が近いと訴える。微塵の余裕もない様子で快楽に溺れるなまえがうわ言のように繰り返す懇願に応えながら、舌を突き立て、押し広げ、舐めとっていく。 素直で可愛い最愛の女が懸命に求めてくれる状況で、いつまで保つかは正直不安でしかない。 柔らかくどろどろにとろけて収縮するこの部分に、自身を埋め込みたい。 甘い蜜の源泉にこの猛りを突き立てて、存分に掻き回したい。 なまえの中を、オレで満たしたい。 強欲な本能をどうにか誤魔化そうとメレオロンはひときわ激しくなまえの蜜を吸い、ごくりごくりと喉を鳴らした。 (2014.11.18)(タイトル:ロストブルー) |