8.覚悟



「いやぁ、一日に何回も任務にでるなんて、流石ゴッドイーター。仕事熱心だなぁ」

 空を滑空するヘリの中で呟きながら、白い雲を眺める。サクヤさんに頑張れと気合いを入れられ、やってきました本日二回目の任務。

 向かっている場所は鉄塔の森と呼ばれる、発電施設跡。
 確かこの任務は第一部隊の一人と、違う部隊の人二人が先行して待機しているらしい。


 ヘリが鉄塔の森に到着し、神機を手に降り立つ。
 先には少年が二人。
 フードを被ったバスターブレードを担いだ少年と、赤毛で旧型遠距離型神機のブラストを持った少年が背を向けていた。

 私が近づくと赤毛の少年が気がついて振り返る。サングラスを掛けた彼は前髪を手でかき揚げ、歩み寄ってきた。

「お、君が例の新人クンかい? 噂にはきいているよ。僕はエリック。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ」

「レイン・アーヴェルクラインです。よろしくお願いします」

「うん。君もせいぜい僕を見習って、人類のため華麗に戦ってくれたまえよ」

 もう一人のフードの少年に挨拶しようとした瞬間、私の中のナニカが粟立ち、悪寒と耳鳴りが身体中を駆け巡る。

 フードの少年を見ると、急いだようにエリックに叫んだ。

「エリック、上だ!」

「!!」

「え? うわああああっ!!」

 オウガテイルが頭からエリックに喰いかかる。
 思わず飛び退ると、ゴキリと骨を砕く音がエリックの方から聞こえてきた。

「嘘っーー」

「ボーッとすんな!!」

 フードの少年がバスターブレードを構えてオウガテイルに斬りかかる。肉を断つ音が生々しく耳に入り、その強力な一撃必殺の技で、オウガテイルが地に伏せられた。

「っ……エリック」

 エリックを見ると、誰が見ても分かるほど、もう手遅れだった。
 オウガテイルを倒したフードの少年が、エリックに一瞥だけして私に振り返る。

「……ようこそ、クソッタレな職場へ……」

 真正面から見た彼は、光の加減で白く見える薄い金髪をしていて、瞳は冷たい海のような、青ーー。

「俺はソーマ……別に覚えなくてもいい。いっとくが、ここではこんなことは日常茶飯事だ」

 エリックを見て言う彼、ソーマに私は何も言えずにいた。
 これが、戦場なのだから。

 次の瞬間、ソーマがバスターブレードを私の目の前に突きつける。

「お前はどんな覚悟を持ってここに来た……?」

「……わたし」

 私の、覚悟?
 そんなの……。

「なんてな……時間だ、行くぞルーキー」

 私が答えを言えずにいると、ソーマは神機を担ぎ直し背を向ける。

「……とにかく死にたくなければ、俺にはなるべく関わらないことだ……」

 そう言ってアラガミがいる方へと歩いていくソーマに、私は声をかけることなんて出来なかった。


「……覚悟、なんて……。とうにしていたはずなのに……」

 ポツリと呟いた言葉は、誰に届くわけもなく風にかき消されてしまう。
 私は神機を握りしめて彼の後を追った。


 ソーマに追いつくと、既に数体のオウガテイル達と戦っていた。
 まるで何かの鬱憤を払うように戦うその姿に、私も神機を銃形態に変形させ援護射撃をする。

 障害物の上に陣取っていたコクーンメイデンが、私に気がついて砲弾を撃ってきた。

「うわっ!」

 紙一重でかわしてコクーンメイデンにお返しを喰らわす。数弾喰らわせて倒れるコクーンメイデンを見て、ソーマの方を確認する。

「はああっ!」

 高く跳躍してオウガテイルを斬り伏せ、次の獲物に向かって行っている。

「強いっ」

 あまりの強さに援護は不要と判断して、私は残りのコクーンメイデンを相手にする。

「たああっ!」

 銃形態から剣に切り替え、コクーンメイデン目掛けて振り上げる。何回か斬りつけ、針がでる瞬間に退いてすかさず捕食する。

 三体目、四体目を倒し終わった頃にはソーマは戦いを終えていて、私を見ていた。

「……帰るぞ」

「うん……」

 ヘリまでずっと無言だった私達は、エリックの亡骸をパイロットさんに任せてヘリに乗り込む。

「エリックは、お前のせいじゃないからな」

「えっ」

 ヘリに乗り込む際に一瞬聞こえた言葉に、私は思わず立ち止まってしまう。

「今、なんて……」

「おい、さっさと乗れ」

 鋭い眼光が私を射抜いて黙りこむ。何も言わずにヘリに乗り込むと、ソーマはそれ以来何も話すことはないと、口を閉ざしてしまった。

「…………」

 ソーマの視線はずっとヘリの床を見つめて、何を考えているのかわからない。

『お前はどんな覚悟を持ってここに来た……?』

 ずっと私の頭の中で鳴り響くソーマの声に、思考が沈む。


「私の、覚悟はーー」


 瞳を閉じると鮮明に思い出すのはあの情景。
 血の海に倒れた、私の……。

 あの時、二度と失いたくないと思ったのに、決意は現実の前に私を足止めする。

「ソーマ」

「……なんだ」

 もう一度決意しよう。 
 もう二度と目の前で人が死なないように。この手で救えるように。

「ありがとう。覚悟、できたよ」

 外を眺めると、空は嫌になるほど白く曇っている。

 決意と覚悟を固めて、私は空を見つめた。


- 10 -

*前次#
表紙
ALICE+