11.死神
コウタと榊博士の講義を聞いた後、私はエントランスで一人の少女が誰かを呼ぶ声を耳にして、立ち止まった。
「エリック……エリック、どこ」
泣き腫らしたような目はウサギのように真っ赤になっていて、思わず声をかけてしまった。
「どうしたの?」
「え、エリックが、いないの!」
「エリックって……」
もしかしてこの子はエリックの……。
女の子と目線を合わせるように屈んで頬に触れる。
「ね、あなたのお名前は?」
「……エリナ」
「エリナちゃん、か。……エリックってエリナちゃんのお兄ちゃん?」
「うん…」
小さく頷くエリナちゃんに私は胸が押しつぶされるような感覚を味わう。
「エリナちゃん、エリックは……」
「わたしに服を買ってくれるって、約束……したのにっ。エリックが、いないと……わたし、さびしいよぉ!」
ポロポロとエリナちゃんの瞳から涙が落ちる。小さな体を抱きしめるとたかが外れたように泣き出した。
「ごめんね、エリナちゃん。ごめんね……」
エリナちゃんが落ち着くのを待って背中を撫でてあげる。
ぎゅっと私の服を掴む震えた小さな手が、少しずつ治まる。
「ね、エリナちゃん。今度私があなたに服を買ってあげる」
「……本当?」
「うん。私が可愛い服を選んであげるよ。……だから、笑って」
ゆっくり頭を撫でるとエリナちゃんが、涙で濡れた目で小さく笑う。
「うん……」
やっとエリナちゃんから笑顔が零れてくる。
屈んでいた体を起こすと、エリナちゃんのお父さんを探すと言って駆け行った。
背中を見送っていると視線を感じて振り返ると、ソーマがこちらを見ていた。
「! ソーー」
「なあ、あんた第一部隊の奴だろ? 用心しろよー、あそこには死神がいるからな」
ソーマに声をかけようとした瞬間、隣から逆に声をかけられる。
「えっと……」
「俺は小川シュン、んでこっちがカレル」
「……カレル・シュナイダーだ。噂は聞いてるぜ、新型」
帽子を斜めに被った赤髪君がシュンで、金髪癖っ毛がカレル。
二人とも私を不躾にジロジロ上から下まで見ている。……そんのに新型が珍しいのか。
「私はレイン・アーヴェルクライン。ねえ、死神ってなに……?」
「あんたんとこのソーマだよ。あいつと任務を組むと誰かしら死ぬ、だから死神」
「せいぜいお前も気をつけるんだな」
ソーマが、死神?
仲間の神機使いにずっと言われていたのだろうか。でも、だからと言って……。
「それは誰に限ってもそうじゃないの?」
「は?」
「なに……?」
ポツリと呟いた言葉がシュン達に聞こえたのか、二人とも眉を寄せている。
「この世界は死と隣り合わせ。他の誰と組もうと、一緒なんじゃないの? ソーマだけが死神って言われる筋合いはないはずだけど」
「んだよ」
「新人の新型風情が……」
「あら、私も同感よ?」
カレルに睨みつけられると同時に、深く落ち着いた声がした。
「ジーナ」
灰色掛かった銀髪に隻眼の女性が薄く微笑みながら歩いてくる。
「アラガミとの戦いは生と死の、命のやり取り。その人の運と実力で生死が決まるの……」
「ふん、勝手に言ってろ」
「そ、ソーマと組んで死んでも知らないからな!」
気圧された二人が立ち去って行く。ジーナと呼ばれた女性は二人の背中を見送った後、私に微笑んだ。
「ごめんさないね、あの二人が。私と同じ第三部隊なんだけど……手の掛かる子たちで」
「い、いえ。私も少し言い過ぎたし……」
「いいのよ。……私はジーナ。ジーナ・ディキンソン。よろしく」
「レイン・アーヴェルクラインです。よろしくお願いします」
「もしも仕事で組むようになったらよろしく。期待しているわ」
軽く手を振って去って行く姿が様になっている、正直、カッコイイ。
「そうだ、ソーマは」
ソーマがいた所を急いで見るが、そこにはもう誰もいなかった。
シュンが言った"死神"という言葉が頭にこだまする。
彼の、人を拒絶する冷たい瞳を思い出した。
『俺に関わるな』
あの時言われた言葉を思い出す。
本人も、自分を死神だとそう思っているのだろうか……。
ソーマの瞳が、頭から離れなかった。
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