13.視線
世界が壊れても、空は青い。
この残酷な世界は今でも生き続けている。
青空を眺めていると、リンドウさんの声が耳朶を打った。
「あー本日も仕事日和だ、無事生きて帰ってくるように、以上」
「え? それだけ?」
「いちいちツッコンでると、身が持たないわよ」
「くだらん……」
そうだ、今日は珍しく第一部隊の皆が揃っていて、旧市街地でのコンゴウとザイコードの討伐任務を思い出す。
「一人を除いて、心が一つになっているようで何よりだ」
リンドウさんの声が聞こえたと思うと、四対の視線を感じて私は目を空から離した。
「え、あ、ごめんなさい。……考え事してて」
私が苦笑いをすると皆呆れたような笑みを浮かべる。ソーマは一人不愉快そうな顔をしていた。
「なんだ、疲れてんのか?」
「んー、まあそんな感じです」
「ボーッとしてると危ないぞー」
「そうね。気を緩ませないように」
「…………」
「気をつけます……」
反省しているのにソーマの視線が痛い。
「んじゃま、気を取り直して。このメンツでは初の四人任務だがまあ、いつも通りやれってことで」
「あれ? そういえばリンドウさんは?」
私の心を代弁するようにコウタが聞くと、リンドウさんは肩を竦めた。
「俺はこのあとちょいとお忍びのデートにさそわれているんでな、今から働くのはお前らだけ……っと」
リンドウが携帯を取り出して内容を確認している。
(お忍びのデート……?)
サクヤさんとソーマの顔をチラリと見ると、二人とも何か知っている風な様子で、サクヤさんはどことなく心配そうな表情をしている。
「早く来ないと、すねて帰っちまうとさ……ったく、せっかちなヤツだ。俺はそろそろ行く、命令はいつも通り、死ぬな、必ず生きて戻れ、だ」
「自分で出した命令だ……せいぜいアンタも守るんだな……」
アンタも守れ、ということはまさか別の任務に行くのだろうか。
「リンドウもあまり遅くならないように……ね」
リンドウさんが別の方向を歩いて行くのを見送り、心配そうだったサクヤさんの表情が凛とした顔になった。
「さあ、行きましょ!」
散らばりながら旧市街地を各々索敵していると、先に私がアタったようでコンゴウがのしのしと歩いているのが見える。
(見つけた!)
無線からはサクヤさんとコウタがザイコードを発見したとようで、ソーマがこちらに来てくれるという。
コンゴウ目掛けて駆けると、聴覚がすぐれたコンゴウが直ぐに気がついて、唸りを上げた。
アラガミを見つけると必ず起こる耳鳴りと悪寒がまた感じる。
この前コウタにそれとなく聞いてみたけれど、特にこれといって周りは感じ無ていないという。ライナスに相談して検査してもらうと、耳鳴りは私特有だと分かった。
(ホント、嫌になる)
ずっと考え事をしていたのもこの事で、そのせいで皆に心配をかけてしまった。
それよりも、皆がザイコードを倒してこちらに来られるまで、上手く立ち回らなけばいけない。
「そういえばアラガミと一人でぶつかるのは始めてかな?」
コンゴウに銃弾を当てて直ぐ剣に切り替える。
後ろに仲間がいるとはいえ、今までは必ず誰かが側にいてくれた。
背中に誰もいないのかこうも寂しいなんて……。
コンゴウが私に向かって転がるように突進してくる。
「おいでっ!」
コウタと戦った時に行動パターンは見切っている。素早く避けて後ろからジャンプし、コンゴウの頭に剣を突き刺す。
「グアアアアアアッ!!」
暴れるコンゴウから降りて顔に向けて斬りつけ、直ぐ様飛び退く。
腕を振り回したりするコンゴウに銃形態で弾丸を浴びせると、コンゴウが身を屈めてきた。
「来る!!」
コンゴウの背中にあるパイプ状の器官から真空波が飛んでくる。
ステップで回避するとまたコンゴウが転がってきた。
「まったく、転がるの好きだね!」
なんとか回避して斬りかかろうしたとき、コンゴウが真空波を打つ体勢を取るのが目に入った。
(ヤバっ!?)
もう私が振り上げた剣は止められない。このままだと真正面から当たる!?
「目を閉じてろ!!」
後ろから声が聞こえたと同時に私は意図を汲んで目を閉じた。瞬間、目の前でスタングレネードが炸裂した。
コンゴウが怯んだのを肌で感じ、目を開けると私の頭上で青色のパーカーが翻った。
「喰らえ!!」
バスターブレードがコンゴウの頭を粉砕する。
ヒラリと地面に降り立つソーマの姿に目を奪われながら、地面を蹴る。
「はああっ!」
勢い良く倒れたコンゴウをソーマと一緒に捕食。その間にザイコード達を倒したサクヤさんとコウタの援護射撃が撃たれた。
「これでお返し、だよ!」
「死ね!!」
バースト状態になった私とソーマが同時に剣を振り上げて、コンゴウを倒した。
「ソーマ、さっきはありがとう」
「今度からはもっと周りを見ろ」
「うん、気をつける。……あと助けに来てくれて嬉しかった」
凄く、凄く嬉しかった。
攻撃を喰らうと思った絶望から救ってくれたあの瞬間は、とてもゆっくりでいて一瞬で、思わず魅入ってしまうほどソーマはかっこよかった。
自然と笑顔になる私に、ソーマが目をそらす。
「お、ソーマ照れてる!?」
「ふふ、ソーマは素直な言葉に弱いのよ」
「うるせぇ」
コウタとサクヤさんにからかわれたソーマが、ふいっと背を向けて歩いて行ってしまう。
「あ、待てよソーマ!」
「もう、照れちゃって」
「照れてねぇ!」
ソーマに続いて二人が歩いて行く。
思わず笑いながら三人の後を追おうとした時、どこからか視線を感じた。
「……え?」
振り返ると視線の先には廃れた教会が見えるだけ。
「……気のせい、かな」
誰かに私が見られていたような気がしたけど、教会からは人の気配は無い。
「おーいレイン、置いてくぜー!」
「あっ待ってよみんな!!」
私は後ろ髪を引かれながら、皆の元に走って行った。
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