15.一歩ずつ



(何も考えずに神機を振り回していられれば、楽なのかもしれねぇ)

 特務に赴いた俺は、贖罪の街と呼ばれている旧市街地の一角で神機を片手に索敵をしていた。

 特務の目的はとあるターゲットを探すのが仕事だが、どうも今日は身が入らない。こんなことだとアラガミに奇襲されれば終いだが、昨日のあの新型の顔が頭から離れなかった。

 手を伸ばされた時、思わず条件反射で振り払ったが、思った以上の強さで叩いていた。

 アイツの目が傷ついたように俺を見ていて……居た堪れなかった俺はその場から逃げ出した。

「チッ……」

 舌打ちしながら地面を睨みつける。
 リンドウの言葉に苛立ったとはいえ、アイツにあたったのはおとなげなかったかもしれない。

 そもそも、アイツは人へのスキンシップが多すぎるきらいがある。
 初任務のあと抱きつかれてひどく驚いたが、気を許した相手にアイツは躊躇なく抱きつくようで、今朝見かけた時はコウタを驚かそうと後ろから抱きついていた。

「……調子が狂う」

 俺に関わるなと警告して壁を作っても、アイツは構わずに壁を壊そうと俺に近づいてくる。
 しかもアイツを真似てコウタまで俺に馴れ馴れしくしてくる始末だ。

 それが少し心地いいと思ってしまうのは、きっと能天気なアイツらに感染しただけだ。

 雑念を払うよう頭を振る。
 一度深呼吸をした後、索敵を続けると、教会跡の入り口の一つに人影が入っていくのが見えた気がした。

「……人影……か?」

 思考が冷静になり頭がクリアになる。ゆっくり息を吐いてそろりと教会に近づいて行く。

 内部に入るとステンドグラスに陽が差してキラキラ輝いている。
 周りを見渡しても人影はおろか人の気配もしない。

「気のせいか……」

 携帯端末を取り出してある人物へとかける。

「こちらソーマ、特務目標との接触はなし……索敵を続ける」

 通話を切って光るステンドグラスに背を向ける。
 バスターブレードを担いで教会から出て行くと、相変わらず空は曇り空だった。


 * * *


「え、新型の適合者が第一部隊に?」

 リンドウさんに呼ばれて部屋に行くと、驚くことを聞かされた。
 第一部隊に新たな新型の適合者を配属させる事が決まったそうだ。

「ああ、しかも新型二人だ」

「新型が二人も!?」

 貴重な新型適合者を三人も第一部隊に入れるなんて、いったい極東支部ーーシックザール支部長は何を考えているのだろうか。

「そこでレインに頼みがあるんだが……。貴重な新型を支部長はここに集めている気がするんだ。だから、もしその事で支部長に何か言われたら」

「リンドウさんにこっそり教えろ、ということですか」

「ま、そんなもんだ。飲み込みが早くて助かる。ちゃんと礼もするから、な?」

「まあ私も少し気になるんでいいですよ。じゃ、報酬はぶどうジュースで!」

「お前ぶどうジュース好きだなぁ。この前も飲んでただろ」

「えへへ、小さいころから好きなんですよ。リンドウさんの分横流ししてくださいねー」

「へいへい。……そういやソーマもぶどうジュースが好きだったな」

「え、ソーマもですか?」

 ソーマの話題にドキリとする。
 あれ以来ソーマとは会っていない。というか多分、避けられている。

「サクヤから話は聞いたが……アイツは人一倍素直じゃないからな。あまり考えすぎんな。そのうち仲も縮まる」

「リンドウさん達みたいに?」

「ああ。ま、俺としてはそれ以上を期待してるんだが……まあ、まだ無理だろ」

「は?」

「ま、そういうことで、さっきの話は頼んだぜ。報酬はぶどうジュースな」

「はい、了解しました!」

 それ以上うんぬんのリンドウさんの言葉に疑問は残るが、まあぶどうジュースが多く手に入るから置いておこう。

 それよりもソーマと好きな物が被るのは少し嬉しい。後で突撃してみようかな。

「でも、迷惑かな」

 リンドウさんの部屋から出てエレベーターへ向かう。
 馴れ馴れしくするなと言われたばかりだし、自重した方がいいのだろうか……。

 なんて考えていると、エレベーターが開いて中からソーマが出てきて目が合った。

「あ」

「……」

 互いに無言になってしまう。

「あ、あのね、ソーー」

「お前、どこからか視線を感じたことはないか?」

「へ?」

 思い切って話しかけようとして逆に聞かれてしまった。人に馴れ馴れしくするなと言うわりには、ソーマはたまに自分からきませんか……?

 言いたいことをいろいろ飲み込んで、ソーマが聞いてきたことを考える。
 視線は確か旧市街地でーー。

「昨日の、コンゴウを倒した時に……確か感じたような……」

「……そうか。……やはりあれは気のせいじゃなかったのか……?」

 ソーマが考えるように黙ると、私達はまた無言になってしまった。

「…………」

「……あの、ソーマ? それがなにかーー」

「昨日は……」

「えっ」

「昨日はリンドウに苛立ってお前に言い過ぎた……すまん。それだけだ」

 ソーマはふいっと顔を背けて私を追い越して行く。

「…………」

 唐突な話に私は呆然と立ち尽くす。
 ソーマが、謝った?

「ソーマ待って!」

 くるりと振り返ってソーマの背中に声をかける。ソーマが振りかると同時に、私は突撃、もとい思いきり抱きついた。

「二度も謝るなんてソーマはホント照れ屋さんだね!」

「ばっ、抱きつくなっ!」

「破壊力ありすぎだよー、もー」

「お、お前は抱きつきすぎだ!」

 下からぎゅーっと抱きしめていると、ソーマの照れた顔が見える。
 嫌がられていないようで、心の中でホッとした。


「あ、そだ。私、ぶどうジュース好きなんだけど、ソーマも好きなんだってね。いやー、奇遇だね!」

「全然嬉しくねぇ!」

「またまたー!」

 私が笑っていると、リンドウさんが部屋から少しだけ顔をだしてきた。

「おーい、お前らー、イチャつくなら廊下じゃなくて別でやれよー。ご近所さんに迷惑だからなー」

「はーい!」

「イチャついてねぇ! てかお前はどこのオヤジだ!?」


 
 一歩進んで、また一歩進む。

 ちょっとわかりにくくて、ぶっきらぼうなソーマだからこそ、少しずつでいいからこの距離が縮まればいいなと私はソーマを見ながら笑った。


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