18.溶けない氷



 旧市街地、別名・贖罪の街の高台にヘリで降り立った私は後ろについてきた二人に振り返る。
 アリサとグレイはそれぞれロングブレードの神機を片手にここから見える街を眺めていた。

「ここからが贖罪の街だよ。今日の任務はシユウ二体の討伐、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 相変わらず無表情なアリサを見て私とグレイは顔を見合わせる。と、後から来たリンドウさんが合流した。

「お……今日は新型三人とお仕事だな。足を引っ張らないように気をつけるんで、よろしく頼むわ」

「旧型は、旧型なりの仕事をしていただければいいと思います」

 ツンと顔をそらすアリサを見て私とグレイがまた顔を見合わせる。

「はっは、ま、せいぜい期待に沿えるように頑張ってみるさ」

 そんな発言も大人な余裕でかわしたリンドウさんがアリサの肩を叩くと、ビクリと目を見開いた。

「キャア!!」

「え、アリサ?」

「おい、大丈夫かよ」

 悲鳴を上げて飛び退くアリサに私達が驚いていると、リンドウさんが居心地悪そうに頬を指で掻いた。

「あーあ……ずいぶんと嫌われたもんだなー」

「あ……すみません! なんでもありません、大丈夫です!」

 肩で息をつきながら急いで否定するアリサに、リンドウさんが笑った。

「フッ……冗談だ。んー……そうだなぁ、よしアリサ。混乱しちまった時はな、空を見るんだ。そんで動物に似た雲を見つけてみろ落ちつくぞ。それまでここを動くな」

「ど、動物?」

 まだ息を整えているアリサを見ながら私が聞くと、リンドウさんは頷いて次にグレイを指差した。

「ついでにグレイはアリサについてやれ。これは命令だ、その後でこっちに合流してくれ。いいな」

「な、何で、私がそんなこと……」

「てか、俺も?」

 不満気な二人を綺麗に無視してリンドウさんが私に合図する。どうやらついてこいということらしい。

「ま、まあこれを気に仲良くなろう。じゃ!」

 手を振って急いでリンドウさんを追う。

「リンドウさん! 本当に二人とも残して来てよかったんですか?」

 やっと追いつくと、リンドウさんは何か考える素振りをして私をジッと見つめてきた。

「アリサなんだがな……どうもいろいろワケアリらしい」

 普段の軽い表情から一変して真剣な顔をするリンドウさんに私は立ち止まってしまう。

「まあこんなご時世、皆いろんな悲劇を背負ってるっちゃあ、背負ってるんだが……」

 いつも明るい光が見えるリンドウさんの瞳に、微かな影がさした気がした。

 誰しも悲しい過去はある。
 アリサやリンドウさんにも。
 この壊れた世界では皆悲しみを背負って生きているんだ。

「同じ新型のよしみだ、あの子の力になってやれ、いいな?」

 肩を叩かれて一緒に頭も撫でられる。いつものリンドウさんにホッとしながら、私は噛みしめるように頷いた。

「……はい」

 私の力で守れるなら全力で。

 あの人形のような表情のアリサから、はにかむような、少女の顔を見てみたいと私は思った。


 * * *


「…………」

「なあ……おーい」

「……なんですか」

 ずっと空を見上げているアリサに声をかけると、無愛想ながらもやっと返事が返って来た。

「なんか見つかったか?」

「……いえ」

 だよなー。
 意外と真面目にリンドウさんの命令をきくアリサに思わず笑っちまう。

 綺麗とは言えない空を俺も見上げると、横から小さな声がかかった。

「……貴方は、見つかったんですか?」

「俺? 俺は別にリンドウさんに雲を見ろとは言われてねぇけど……あ、レインっぽいのみっけた」

「は?」

 思いっきり軽蔑するような声が聞こえる。ジョークのつもりだったんだが。

「…………ドン引きです」

「はは、冗談だって。んで、そっちは見つかった?」

「……いいえ」

「んじゃ、あれなんてどうだ? アリサから見て右側の、あのうさぎっぽい雲」

 指をさしてやるとつられるようにアリサがそっちに向く。

「……確かに、うさぎと言われればうさぎな気がします」

「だろ? ちょっとアリサに似てるよな」

「ど、どこがっ」

 慌てて怒った表情のアリサの頬に赤みがさす。お、珍しい表情。

「なーんてな。どう、落ち着いたか?」

「っ……動物を見つけたので、行きましょう」

 ふいっと背を向けて神機片手に、アリサは冷静に街へ降りて行く。

「……あれがいわゆるツンドラか?」

 溶けることのない永久凍土アリサに俺は息をつきながら、口元は笑みが浮かぶ。
 まあ今はゆっくり見守るとしよう。

「さーて、俺も行くかな」

 アリサの氷が溶けるかどうかを楽しみにしながら、俺もアリサを追いかけて街へ降り立った。


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