22.前兆
痛い……息が、苦しい……。
どんなに訓練をしても、どんなに良い成績を残しても、あの人は手を緩めずにどんどんとハードルを上げていく。
とうに子供ではおこなえないようなことも、平気でおこなわせる。
みんないつになったら解放されるのかわからなくなっていた。
『甘えなど赦されない。強くなれ、強くならねば生きていく資格などない』
真っ暗な世界で声がしたかと思うとツンと、鉄の臭いが鼻につく。
真っ赤な返り血に濡れた銀色の髪が、あの人の頬に張り付いている。
『その手を血で汚せ。血で血を洗え。お前の敵はーーこの世界だ』
ああ、さっきまで笑顔で話していた幼い仲間が血の海で倒れている。彼を殺したのはーー。
「おーい、レイン?」
パチリと目を開く。
一瞬私はいったいどこにいるのか分からなくてなっていると、コウタの心配そうに顔を覗き込んできた。
「……え、あ。……コウタ」
「大丈夫か? なんかうなされてたけど」
「……ごめん、変な夢見て」
周りを見渡すとヘリの中だった。
コウタとサクヤさんが心配そうに、ソーマは腕組みをしながら視線だけこちらに向けている。
「嫌な夢でも見たの?」
「……もう、大丈夫です」
無理に笑みを作って笑うと、サクヤさんはとても心配そうな瞳で「そう……」と言った。
ゆっくりと小さく息を吐いて手を頭に伸ばす。指がサラリと髪に触れると、思わず安堵の吐息がもれた。
大丈夫、ただの夢だ。
今日の任務は旧市街地でのヴァジュラの討伐。サクヤさん、ソーマ、コウタと私はヘリで贖罪の街に降りたった。
「なあなあ、ヴァジュラってどんなやつ?」
目標を探す中コウタが場を明るくしようとソーマに話しかけていた。ソーマは「それくらいノルンで調べろ……」と言いながら、ちょっとだけ考える素振りをして口を開く。
「雷撃を撃ってくるアラガミだ。見た目はトラで猫のような身軽な動きをするから気をつけろ。……俺の足だけは引っ張るんじゃねぇぞ」
「見た目トラ……や、やっぱりデカイんだよな。こえー」
「今の私達なら大丈夫よ、自信を持って」
「サクヤさん……おっしゃー! 余裕で倒すぞー!!」
サクヤさんに元気づけられて意気込むコウタを見ながら、ソーマがこちらに振り返った。
ソーマの冷たい目が私を捉える。
「お前も、ボケっとして足引っ張んなよ」
「わ、わかった」
ソーマの言う通りだ。少しでも隙を見せたら私が喰われる。
気を引き締めるように片手で自分の頬を引っ叩くと、すこし目が覚めた気がする。
すると後ろで見ていたサクヤさんが私に耳打ちしてきた。
「ソーマは貴女を心配してるのよ」
「え?」
(ソーマ、が?)
「ヘリで貴女がうなされていた時も、今も、凄く心配そうな素振りをしているのよ。さっきの忠告も、言い方は悪いけど『無茶はするな』って言ってるようなものなんだから」
「サクヤさん……ありがとうございます」
微笑むサクヤさんに、私は夢のせいで冷えていた心が温かくなった。
「おい、いたぞ!」
ソーマの声で全員が神機を構える。
「みんな行くわよ!」
「おう!」
「はい!!」
贖罪の街の広場で咆哮するヴァジュラ目掛けて駆ける。
サクヤさんとコウタの銃弾が放たれた。
銃弾の間を縫うようにソーマがヴァジュラに突っ込んで、顔面にバスターブレードを振り落とす。
怯んだヴァジュラに私は地を蹴って跳び、頭上からショートブレードを突き刺した。
「グオオオオオオオ!!」
攻撃を受けたヴァジュラが私を振り落とそうと暴れだす。すかさず頭から飛ぶと、力を込めていたソーマは神機に赤紫色のオーラを纏わせ強力なチャージ攻撃をヴァジュラに叩きつけた。
結合崩壊して大きなダメージを受けたヴァジュラが雄叫びを上げる。
「来るぞ!」
ソーマが跳び退き、私が装甲を展開すると同時にヴァジュラがマントを広げて雷撃を放つ。
「うわああホントに撃ってきたー!!」
「次、来るわよ!!」
後ろからコウタとサクヤさんの声が聞こえる。装甲から剣に替えるとヴァジュラが飛びかかってきた。
「っと!」
横に回避して足を斬りつける。
煩わしそうにヴァジュラが前足を振り払おうとすると、サクヤさんのレーザーが目を貫いた。
「いただきっ!」
呻くヴァジュラのマントの下、背中を横から捕食する。
バーストモードになった私は背中を横薙ぎに斬り裂き、返す刀で尻尾を斬った。
絶え間無く降るコウタとサクヤさんの銃弾でマントが破壊され、ヴァジュラが怯む。
これを好機に私は背中を横薙ぎに、ソーマは突進して首にバスターブレードを突き刺した。
「ガアアアアアアアアア!!!」
唸り声を最後に、ヴァジュラは土煙りを上げて倒れた。
「よっしゃああっ! 楽勝だったね!」
「ええ、みんないい動きだったわ」
ヴァジュラを倒して一息ついた私達はそれぞれ笑顔を浮かべて戦果を喜び合う。神機を担いだソーマもふっと笑っていた。
「ソーマが笑うなんて珍しい」
私が駆け寄るとソーマはふいと顔を逸らされた。
「さっさと帰るぞ」
「うん、そうだね」
みんなでヘリに向かおうとすると、突如耳鳴りが頭を揺さぶり悪寒が全身を駆け巡った。
「!?」
顔を上げると、同じタイミングで隣のソーマも顔を上げどこか遠くを食い入るように見ている。
(えっ)
同じ反応に私が目を見開くと、ソーマが警戒するようにバスターブレードを構えた。
「……おい、まだ何かいやがるぞ」
ソーマのただならぬ雰囲気にサクヤさんとコウタも緊張をはらんだ目で辺りを警戒する。
「何がくるかわからないわ。慎重にヘリまで戻るわよ」
珍しくサクヤさんが眉を寄せて神機を構えながらソーマに合図をする。
「行くぞ」
ソーマを先頭に私とコウタが続いてサクヤさんが後ろを警戒しながら進む。
悪寒の余韻が絡みつくように体に残る。
何か凄く嫌な予感がして私は神機を握りしめた。
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