23.突然の別れ



 リンドウさんとアリサとの任務で旧市街地に来た俺は、背後に注意しながら神機を構えてついて行く。
 何やら訳ありな任務らしいがリンドウさんが新人の俺たちに言うわけもなく、一向にアラガミと遭遇せずに索敵し続けていた。

「これは、いよいよキナ臭くなってきたな」

 リンドウさんがそう呟く。
 確かに何か嫌な予感がする。こういう勘は、何故か当たっちまうから嫌になってくる。

「おいグレイ、近いかもしれないから気をつけろよ」

「わかってますよ」

「おう、アリサもーー」

 リンドウさんがアリサに声をかけようとすると、後ろのアリサがピタリと立ち止まった。

「アリサ……?」

「どうかしたか?」

 訝しんだ俺らにアリサは目が覚めたように我に返り、少し上ずった声で答えた。

「い、いえ問題ありません。側面、後方共にクリアです」

「そうか……進むぞ」

 アリサを見て何か考えている風に見えるリンドウさんは、一度俺に頷いて足を進める。

 やっぱり何か嫌な予感がする。

(当たってくれるなよ……)

 そう祈りながら教会付近まで行くと、向かいからここにいるはずのないソーマが現れた。

「何?」

「お前ら?」

 ソーマとリンドウさんが驚いていると、コウタとサクヤさん、それにレインまでいた。

「あれ? リンドウさん何でここに!?」

「別の任務についていたはずじゃ……」

「レイン達も違う任務だったよな?」

 レインと顔を見合わせて首を捻ると、サクヤさんの怪訝そうな声がする。

「どうして同一区画に二つのチームが……どういうこと?」

「考えるのは後にしよう、さっさと仕事を終わらせて帰るぞ。俺たちは中を確認お前たちは外を警戒、いいな」

 リンドウさんの指示に皆が頷く。
 レイン達が外を警戒している中、リンドウさんとアリサ、俺で教会内に入る。

 一番はじめに見えたのはステンドグラスの輝き、そして次にその輝きに照らさた不釣り合いな巨体に視線がいく。
 そこには見たこともないアラガミが悠然と獲物を見つめていた。

「下がれ!! 後方支援を頼む!」

「了解!!」

 直ぐさま状況判断したリンドウさんが剣を構えると、アラガミが咆哮を上げ飛びかかってきた。

 白いヴァジュラのような身体に人間のような顔をしたその存在は、今まで見てきたどのアラガミとも違う異質さを持っているように見える。

 リンドウさんの援護をしようと銃形態で弾丸を放つ。デカイ図体の割に身軽な動きをするアラガミに苦戦していると、斜め後ろから小さく震える声がした。

「パパ……? ママ……!?……やめて……食べないで……」

「アリサ!?」

 その声がアリサだと気づいた時には、アリサは震えながら後ろに下がっていた。

「アリサぁ! どうした!」

 こちらを振り返りながら戦うリンドウさんに俺は慌てて意識を戻すと、アラガミがリンドウさんを前足で払うように投げ飛ばした。

「リンドウさん!」

 リンドウさんに襲いかかろうとするアラガミの前足に銃弾をお見舞いして、次に後ろ足を狙う。

 目の前の獲物に気を取られてこちらに胴体を向けているアラガミに、弾丸を浴びせ今度は顔面に銃口を向ける。

 すると、後ろのアリサがロシア語で小さく呟く声が聞こえた。

「アジン……ドゥヴァ……トゥリー……」

「アリサ! アリサどうした!?」

 アラガミを捉えた視界の端に、アリサの神機が見える。異様に震えた銃形態の神機はふらふらと銃口が定まらずアラガミとリンドウさんと間を往復する。

「おいアリサ無理するな、引け!!」

「アジン……ドゥヴァ……トゥリー……」

 もう俺の声すら届いていない。
 ふと、ふらふらしていた銃口がリンドウさんに向けて止まった。

「アリサ、止めーー」

「いやあああああああっ! やめてええええええええ!!」

 取り乱したように叫んだアリサは銃口を上にして銃弾を撃つ。
 教会の天井が崩壊して瓦礫がアリサの上に落ちようとするのが見えると、考えるより先に身体が動いた。

「アリサっっ!!!」

 神機を片手で持ちながら目一杯腕を伸ばしてアリサを抱き寄せる。転がるように瓦礫を避けると、俺達とリンドウさんを阻むように瓦礫が通路を塞いでいた。

「……嘘、だろ……」

 へたり込むアリサを庇うように抱きしめると、背中に小さな瓦礫がパラパラ降ってくる。

「グレイ何があーーこれって!?」

 天井が崩壊する音に気がついたレインとサクヤさんが駆けつけて目にした惨状に言葉を失った。

「あなた! いったい何を!!」

「違う……ちがうの……パパ……ママ……私、そんなつもりじゃ……」

 サクヤさんが問い詰めるも、アリサは呆然と焦点が合わない目で呟くままで何を聞いても無駄だった。
 諦めたサクヤさんが瓦礫に向かって神機を構える。スナイパーが火を噴くが、瓦礫は崩れず通路は塞がったままで外からはアラガミの咆哮が聞こえた。

 背後でコウタがアラガミに吹き飛ばされ、そこからアラガミが現れる。そいつはリンドウさんが戦っているアラガミと一緒だった。

「グレイ、アリサを頼んだ!!」

 レインがアラガミに突っ込む。呆然としたままのアリサにアラガミが狙いをつけないよう、注意を逸らした。

「早くしろ! 囲まれるぞ!」

 外でもう一体と戦っているソーマが焦れたように声を上げると、瓦礫の奥からリンドウさんの声がした。

「命令だ! アリサを連れてアナグラに戻れ!」

「でもっ!!」

 サクヤさんが諦めきれないように叫ぶと強い声が耳朶を打つ。

「聞こえないのか! アリサを連れてとっととアナグラに戻れ! サクヤ! 全員を統率! ソーマ、レイン、退路を開け!!」
 
「リンドウも早く!」

「わりぃが、俺はちょっとこいつらの相手して帰るわ……配給ビール、とっておいてくれよ」

「ダメよ! 私も残って戦うわ!!」

「サクヤ……これは命令だ!! 必ず生きて帰れ!!!」

「イヤあああああ!!」

 サクヤさんの悲痛な声が響くと、コウタがなんとかサクヤさんを連れて行こうと肩を掴んで引っ張る。

「サクヤさん! 行こう、このままじゃ全員共倒れだよ!」

「いやよ! リンドウ!!」

 コウタが俺に目配せしてアリサの神機を取ってサクヤさんを無理矢理引きずって行く。

 サクヤさんの叫び声が耳について離れない中、放心状態のアリサを抱き抱えると、瓦礫の向こうからリンドウさんの声が聞こえた。

「グレイ、お前まだいるか?」

「はい、リンドウさん」

「すまんがアリサのこと、頼んだぞ」

「……わかりました」

 アリサを抱えて走ると瓦礫の向こうから地鳴りが響いてくる。


 生きて帰ってきてくださいと言えれば、どんなに楽か。

「っ……クッソ!!!」

 絶対に振り返らない。
 振り返ると後悔するから。
 この腕に抱いたあたたかな命の為に、俺は必死で走った。


- 25 -

*前次#
表紙
ALICE+