24.欠落



 リンドウさん達が教会内に入ったのを見送り、私はソーマの隣で辺りを見渡す。
 連絡もなく同一区画に二つのチームはどういうことなのだろうか。拭いきれない不安が胸に淀む。

「何か引っかかる……。ソーマ、今回みたいなのってよくあることなの?」

 隣のソーマに聞くと、ちらりとこちらを見て少し考える素振りをした後に頭を振った。

「……いや、俺の周りではなかったが」

「そっか、ただのミスなのかな?」

「もしも親父のアレなら……」

「え?」

 ポツリと何かを呟いたソーマに聞き返そうとするど、突如教会の方から銃声と何かが崩れる大きな音がした。

「ーー!? ソーマ、私見てくる!!」

「おいっ!!」

「え、レインちょっとまーー!?」

「私も行くわ!!」

 コウタの制止を振り切って教会に足を踏み入れようとすると、通路が瓦礫で塞がっていた。

「グレイ何があーーこれって!?」

 上を見ると天井が崩壊していて、床にはグレイがアリサを庇うように覆いかぶさっている。

 瓦礫の向こうからはアラガミの咆哮が聞こえてきた。

(まさかリンドウさんが奥でアラガミと!?)

 ヴァジュラとの戦いが終わった後に感じた悪寒はこのアラガミだったのかーー!

「あなた! いったい何を!!」

「違う……ちがうの……パパ……ママ……私、そんなつもりじゃ……」

 追ってきたサクヤさんがアリサを問い詰めるが、錯乱状態のアリサには何を聞いても駄目だった。

 諦めたサクヤさんがリンドウさんを助けようと、瓦礫に向かって銃弾を撃つ。
 その時、キーンと耳鳴りがして悪寒が身体中を駆け巡った。

(まさかまたアラガミ!?)

 後ろを振り返ると、コウタがアラガミに吹き飛ばされ、見たことのないアラガミ現れた。

 白いヴァジュラに似て、人の顔をした異質なアラガミーー。

「グレイ、アリサを頼んだ!!」

 体が咄嗟に動いてアラガミに突っ込む。
 神機で胴体を真横から斬り、背後に回って後ろ足を斬り刻む。

 獲物をコウタから私に変えたアラガミが振り向いて咆哮を上げる。
 ビリビリと空気が振動するような咆哮に鳥肌が立ちながら、私はニヤリと笑った。

「ほら、来なよ」

 アラガミを引きつけると、視界の端にはソーマがもう一体のアラガミと対峙していた。

 教会の方からリンドウさんの命令が聞こえてくる。

「アリサを連れてとっととアナグラに戻れ! サクヤ! 全員を統率! ソーマ、レイン、退路を開け!!」

「っ、そんな!」

(リンドウさんを置いて行くなんて……! なんとか全員逃げられるように時間を稼がないと)

 歯を食いしばってリンドウさんの命令を聞くと、アラガミが迫ってきて私目掛けて跳んできた。

「っと!」

 なんとか避けると、私がさっきまでいた場所にアラガミが着地して周りが氷漬けになった。

「なにあれ! 氷属性なのか、よっ!!」

 再びジャンプしようとするアラガミから引き、ブラストに切り替える。火のバレットで顔面を狙うとアラガミが怯んだように顔を左右に振った。

「ビンゴ!」

 怯んだ隙に教会の方を見ると、コウタがアリサの神機を持ちながらサクヤさんを連れて出てきた。

「コウタ!! リンドウさんは!?」

 教会前に積みあがっている障害物を使ってアラガミから隠れると、コウタが悔しそうに口を引き結んで頭を振った。サクヤさんの方も見ると今にも泣きそうな表情で神機を握り締めている。

「みんな……逃げるわよ」

 振り絞るように呟いたサクヤさんがキッと顔を上げてスナイパーの引き金を引く。
 私が戦っていたアラガミを撃ち抜くとコウタに指示を出す。

「コウタは先にヘリに、私はグレイを援護するわ!!」

「はいっ!」

 アリサの神機を持ったコウタが先にヘリに向かうと、グレイが気を失っているアリサを抱えて教会から走ってきた。

「グレイ!!」

「俺は先にアリサを連れて行く!!!」

 一目見て何かあったんだと気がつく。
 多分リンドウさんと何か話したのだろうか、辛そうな瞳は私と目を合わせず真っ直ぐ前を向いていた。

「わかった!!」

 私は神機を握りしめ、返事と一緒にアラガミの顔面めがけて銃弾を浴びせる。

 ジャンプして後ろに引くと、同じく後ろに引いたソーマと背中が当たる。肩越しにソーマを見ると恐いほど冷たい眼光でアラガミを睨みつけていた。

「さ、行こうか」

「ふん……背中は任る」

 たったそれだけの会話だけなのに、何故か信頼されているようで思わず笑みが零れる。

「了解、任された!」

 アラガミを見据えて神機を握る。
 突進してくるアラガミに引き金を引き、銃から剣に直ぐに替えて跳躍する。

「ここから先は絶対に通さない」


 リンドウさんの後ろ姿が目に浮かぶ。
 そしてその後ろ姿は銀髪のあの人の背中と酷似していた。

 ああ、なんでこんな時に限ってあの人の事が思い浮かぶんだろう……。



 お願いですから私を置いていかないで。……リンドウさん、ーー。

「一人にしないで……」

 呟いた言葉はアラガミの呻き声に掻き消える。血の雨が降り注ぐ中、私の顔から感情が抜けていくような気がした。

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