25.放っておけない
リンドウさんを残してアナグラに戻ってきた私達はアリサを医療班に託し、急いで装備を補充して旧市街地に戻ろうとしたところをツバキさんに止められた。
「待て! リンドウの捜査は調査部が行う。第一部隊はアナグラで待機だ!!」
「そんな! リンドウさんをアラガミの群の中に置いていけというんですか!!」
私が叫ぶとツバキさんが厳しい目を向けてくる。
「お前達が対峙したアラガミはプリティヴィ・マータ、接触禁忌種だ。ヴァジュラ討伐とプリティヴィ・マータの群から逃れて疲労しているお前達を、これ以上戦わせるわけにはいかない」
「っ……」
正論だ。消耗している私達が戻ってもあの異様なアラガミの群に遊ばれるのが関の山、リンドウさんを助ける前に全滅してしまう。
「いいか、これは上層部の命令だ」
ツバキさんの言葉に顔を上げると、悔しそうに唇を引き結んで静かに私を見ていた。
「……わかり、ました……」
そうだ、一番助けに行きたいのはツバキさん自身であるとやっと理解する。
泣き崩れるサクヤさんに、項垂れるコウタ。ソーマはどこかに行こうとしてツバキさんに話しかけている。
グレイに近づくと遠くを見るような目で呟いた。
「……あの時アリサの異変に気が付いていたのに、止められなかった」
「グレイ……」
「いや、あの時に俺がリンドウさんとあの場にとどまっていればなんとかできたのかもしれないのにな……」
自分を笑うように両手を見つめる。
「気が付いたらアリサと瓦礫の向こうだ」
「それでも、アリサを助けたことに後悔はないんでしょ」
「……ああ。……後悔は、していない」
顔を上げたグレイは私から離れるように身を引いて後ろを向く。
「ちょっと頭冷やしてくる」
振り返らずに出て行くグレイの背中を見送って、私はどうしようも出来ずにその場に立ち尽くした。
* * *
翌日、プリティヴィ・マータの群れは教会周辺から姿を消した。
調査部の手で瓦礫は撤去されたが、教会内部にリンドウさんはいなかったという。
それから数日が経ってもリンドウさんの行方は分からず、私達は希望を捨てきれずに日々任務を遂行していた。
今日の任務であるシユウとグボロ・グボロを討伐した私とグレイは、アリサの容体の確認に病室に向かっていた。
エレベーターを降りて病室の前に立つと、中からアリサの叫び声が聞こえてくる。
『こないで! もうほっといてよ……来ないで……。私なんか……私なんか!!!』
『鎮静剤を、クッションは交換しておけ』
ツバキさんが中でアリサを抑えているのか、中でバタバタと人が動く音もする。
『ああ……ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ。パパ……ママ……私……違う! ちがうの!!!』
『私だ……分かるか? アリサ』
『そんな! そんなつもりじゃなかったの!! 違うの!! 私じゃない!! 私のせいじゃない!!!!』
アリサは何度も自分じゃないと叫んでいて、まるで誰かに言い訳をしたり必死に謝っている風に聞こえる。
グレイが扉を見つめて動かない中、私はゆっくり扉に近づいた。
『ほっといてよ!! 私なんかほっといてくれればよかったのに!!』
ほっとけるわけ、ないじゃない。
私が中に入ろうとした時、知らない人に声を掛けられた。
「ああ、君か」
振り返るとアリサの主治医という大車先生が、扉を指差した。
「今は会わない方がいいだろうな。薬が切れるとあの調子だ、日を改めたほうがいいぞ」
「でも」
『イヤアアアアアアアア!!!』
私の言葉を飲み込むほどの叫び声に何も言えなくなる。
「彼女だって、今の様子はあまり見られたくないだろうしな」
私達を置いて病室に入って行く大車先生を、私はただ見ているしかなかった。
「……また、落ち着いたら来ればいい」
後ろにいたグレイに声をかけられて頷く。
ずっと響いていたアリサの叫びが『助けて』と言っているようで……。
「アリサ、またくるね」
アリサに聞こえていなくてもいい。
また絶対来るからと扉に呟いて、私達は踵を返した。
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