26.過去に囚われる
あれからなんとか大車先生の許可を取り付けて、私とグレイはアリサのお見舞いに来ていた。
ベッドで横になっているアリサの顔が、人形にように白くなっていて不安になる。
「アリサ、お見舞いに来たよ」
声をかけても深く眠っているのか反応はない。
「話しても無駄だよ、効果の高い鎮静薬が届いたんでね当分意識は戻らないはずだ」
「……そうですか」
大車先生は諦めるようにと言うけれど、こんな状態のアリサを独りきりにしたくない。
グレイも同じ気持ちなのか、壁に寄りかかって静かにアリサを見つめている。
手のひらから砂が零れ落ちるような、あの感覚を私は決して忘れる事ができない。
「ねえ、アリサ。私ね、貴女と友達になれると思ったんだよ。……なのに、こんなに早くお別れなんて辛すぎるから、私はもう大切な人を失いたくないから、目を覚ましてよ、アリサ」
私がアリサの手に触れた瞬間、頭に直接映像が流れ込んできた。
漆黒の巨大なアラガミと、襲われる男性と女性、そしてこれはーー。
パチリと、アリサの青色の瞳が瞬く。
「あれ……ここは……私どうして……」
「アリサ!」
「……アリサ」
私が驚く中、グレイも壁に寄りかかっていた背を浮かせて驚愕している。でも一番驚いていたのは大車先生で、信じられないような目でアリサを見ていた。
「い、意識が回復しただと? ……まさか……し、失礼する!」
大慌てで病室から出て行く大車先生にグレイが目を細めている。
「今、あなた……の……」
ふっと落ちるように瞼を下ろしてまた眠りについたアリサに私は驚きながら、ぎゅっとアリサの冷たい手を両手で包むように握る。
視界の端には安心して息を吐いたグレイが音も無く病室から出て行くのが見えた。
「アリサ……」
アリサの手に触れた時に一瞬だけ見えたビジョンはなんなのか、そして同時にとても深い悲しみと恐怖が流れてきたアレはなんなのか。
「まさか、アリサの気持ちなの……?」
しんと静まり返った室内でポツリと呟いた言葉はアリサに届くことなく、静かに消えていった。
* * *
慌てたように出ていく大車を追うように、静かに病室から出た俺は大車から見えない位置で様子を伺った。
「……はい、ええ、まさか意識を取り戻すとは……詳しくはわかりませんが、ええ……例の……」
エレベーター前で隠れるように誰かと携帯で会話をしている。所々聞き取れないが、誰かに報告をしているのだろう。
「はい……新型同士の感応現象が起きたのではないかと……。はい、どうしましょう、隔離しますか……」
(隔離だと……?)
「そうですか、では暫くはこのまま……。はい、では私はこれで」
会話を終えた大車がエレベーターへ入って行くのを見届け、俺は思案するように壁に寄りかかった。
(感応現象……か)
後で親父に聞いてみるかと考え、アリサが眠る病室に視線を向ける。
大車は一介の医師にしては何かキナ臭い。
一見優しそうに対応はするが、その奥に見えない何かを飼っているような気がしてならない。
アリサとの関係も裏があるように感じる。
ふと、アリサが取り乱して悲鳴をあげた場面を思い出す。あの時俺は悲鳴を聞いて一歩も動けなかった。
泣き叫ぶ声が"あの時の"レインを思い出して足がすくんだんだ。
壁に寄りかかったまま、腕を顔に当てて上を向く。
「ホント、情けねぇ……」
リンドウさんにアリサを任されたのに、過去に囚われたまま動き出せない自分に無性に腹が立った。
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