28.揺れる瞳



 ソーマを捜してエレベーターに乗り込む。
 ソーマはきっと、リンドウさんを守れなったことに人一倍責任を感じている。

「誰のせいでもないのに……」

 静かに呟くとエレベーターが止まりドアが開く。
 ソーマの部屋があるベテラン区域に足を踏み入れると、自販機のそばにあるベンチにソーマが缶ジュース片手に座っていた。

「おい聞いたか、第一部隊のリンドウさんのこと」

(え……?)

 ソーマに声を掛けようとすると、前方から神機使いの男二人が話しながら歩いてきた。

「ああ……また、ソーマのチームから殉職者が出たよな。エリックに続いてリンドウさんとかありえねぇよ」

「死神と組むと実力者でも死ぬのかよ、俺アイツとはぜってー組みたくねぇわ」

「ハハ、ホントだぜ……お、おい!」

「やべっ、行くぞっ」

 ソーマが居たことにやっと気付いたのか、青ざめながら私のいるエレベーターの方へと駆け足に歩きすれ違う。
 ソーマを見れば、彼は微動だにせず無言で冴え冴えとした目を床に向けていた。

「……なんで……なんで何も言い返さないの……」

 小さく呟くと同時に、男達はエレベーターの中に消えて行く。
 何も言わずに黙っているソーマに、煮え滾るような怒りが込み上げてきた。

「……ソーマ」

「…………」

 ソーマの前に立てば無視をするように無反応。

「……なんでアイツらに言い返さないの?」

「…………めんどうだからだ」

 やっと口を開いたと思っても、視線は床に注がれたまま。

「言っても意味がないっていうの? ソーマは言われっぱなしでもいいの」

「俺に関わるなって言っただろ!!」

「っ、私達仲間なんだよ!」

「直ぐに死ぬような仲間なら俺はいらない」

 プツンと、私の中の何かが切れたような音が聞こえた。

「ソーマ、私を見て」

「…………」

「私をっ、見なさいっ!!!」

 相変わらず床と見つめ合うソーマの胸ぐらを掴み、無理矢理顔を上げさせそのまま私はソーマに頭突きをかました。

「っっーー!?」

 まさか私が頭突きをするとは予想していなかったソーマは、呆然としたまま私を見つめる。
 頭突きの威力でフードがはずれ、やっとソーマの顔が見れた。

「やっと、顔が見れた」

「おまえ!!」

 呆然としたソーマが目を覚ましたように私を突き放そうとして、私は胸ぐらを掴んでいる手を強める。
 ぐいとソーマの顔に自分の顔を近づけて、青色の瞳と目を合わせた。

「私は絶対に死なない」

「は……」

「決めたの、私は絶対にソーマより先に死なないよ」

「…………」

「ソーマは死神なんかじゃない。それを私が証明する、いい?」

「…………勝手にやってろ」

「うん」

 ぶっきらぼうな返事に小さく笑って手を離す。解放されたソーマが小さく息をついているのを見ながらくるりと背を向けた。

「用件はそれだけ。この後の任務に遅れないでね、じゃ」

 返事を聞く前にエレベーターに乗り込む。
 すっきりした胸に安堵を覚えながら壁によりかかる。

 今にも死にに行きそうな雰囲気のソーマ。
 前にリンドウさんが同じことを言っていた理由が、今身に染みてわかる。

「……絶対に死なないし、死なせはしない」


 最後だけ言えなかった言葉をポツリと呟く。
 ソーマを死なせないと決意すると同時に、私の《生きる理由》ができたような気がした。


 * * *


『私は絶対に死なない』

 そう言い放ったアイツの声と、目が頭から離れない。

 最後に小さく笑んだ真紅の瞳に、まるで吸い込まれそうな錯覚までおこして、おかしくなりそうだ。

「チッ……」

 女に掴みかかられたのに反応できなかった自分にムカついて、思わず舌打ちする。

 絶対に死なないと言い切ったアイツ。
 そんな話この世界では夢物語だと思う反面、少しだけ安堵している自分がいた。

「……なんなんだ、アイツは……」

 持っていた缶ジュースをベンチに起き、前髪を手で掻き上げるように握る。

 自分らしくないほど動揺していた。


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