32.復帰



「なあ、アリサ大丈夫そう?」

「うん。昨日お見舞いに行った時は大分落ち着いてたし、そろそろ復帰するって言ってたよ」

 グレイとアリサの見舞いに行ってから数日後、最近のアリサはこの前よりもずっと心身共に安定していてもう病室生活をする必要もなさそうに思う。

 そんな風にコウタとエントランスでお喋りしていると、入院着じゃない私服のアリサが俯きながら入ってきた。

「アリサ、もう大丈夫なんだね!」

「はい……本日付で原隊復帰になりました。また、よろしくお願いします」

「実戦はいつから復帰なの?」

 安心したようなコウタがアリサの顔を覗き込もうとすると、ふっと顔をそらす。

「まだ……決まっていません……」

「そうなんだ……」

 どうもアリサはまだコウタと話すのが難しいみたい。私とグレイはもう普通に話せるけれど、他の人にはまだ一線を引いている。

「あのさアリサ、コウタにもーー」

 そろそろ気兼ねく話したらと、言おうとした時エントランスに現れた他の神機使い達の喋り声が聞こえた。

「おいおい聞いたか例の新型の一人、やっと復帰したらしいぜ」

「ああ、リンドウさんを新種のヴァジュラと一緒に閉じ込めて見殺しにしたやろーだろ」

 あまりにも友好的じゃないセリフに自然と口を引き結ぶ。アリサを見ると大きく目を見開いて動けずにいた。

「ところが、あんなに威張り散らしてたくせに結局戦えなくなったんだってさ」

「はははっ! 結局口ばっかりじゃねぇか!」


「……あなたも、わらえばいいじゃないですか……」

 アリサが俯いてコウタに呟く。

「俺たちは笑ったりしないよ」

 アリサの肩が微かに震えているのにコウタが気づいて、いたたまれない空気になる。
 それなのにまだあいつらは大きな声で笑っていた。

「っーー!」

 我慢の限界がきた私が拳を握りしめて詰め寄ろうとした時、神機使い達の後ろから見慣れたシルバーグレイの髪が視界に映った。
 瞬間、グレイの拳が空を切るーー。

 ドガン! と壁からいい音が鳴った。

 アリサとコウタが驚いて音の方を見ると、そこには神機使いの横にある壁を殴りつけたグレイがいた。俯きがちの顔は髪で隠れて見えないが、壁は見事に陥没している。

「お、お前っ、なにすーー」

 一人がグレイに食ってかかろうとした瞬間、サラリと髪が揺れてグレイの顔が見えた。

「邪魔なんだけど」

 顔を上げたグレイは満面の笑みでそう言った。
 いや、笑ってはいるが目が全然笑っていない。まるで絶対零度の笑み。

「ひっ……」

 寒々とした威圧がひしひしと伝わる中、笑みを浮かべたグレイに神機使い達は二の句も継げづに逃げていった。

「はあ、こんなんで怖気付くとは」

 ふっとグレイの表情が変わり普段の人の顔に戻る。

「いやあれは誰だって怖がるだろ俺も怖かったよ!」

 もっともなコウタのツッコミにグレイは苦笑しながら歩み寄ってくる。ちらりとアリサを見るとホッとしたように息をついていた。

「アリサ、あんな奴ら気にすんな」

「……ありがとうございます」

「あー、ええと……それよりリンドウさんがやられた新種のヴァジュラ……」

 話題を変えようとしたコウタにアリサが息を飲む。それに慌てたコウタがまくしたてるようにしゃべる。

「欧州支部からも目撃報告があったみたいだね! ここにきて新種との遭遇例が増えてきてるねは何かの兆しなのかも知れないねー、なんて……スマン、後は頼んだ」

 私の両肩を叩き脱兎のごとく逃げていくコウタ。

「敵前逃亡かよ」

 グレイの言葉にハハっと笑うが、アリサは敵じゃないと思うよ。
 そんな一部始終を見ていたアリサが何か言いたそうに私を見ていることに気がついて、首を傾げる。

「どうしたのアリサ?」

「レインにお願いがあるんです……」

 言いずらいのか、言葉を探して一瞬黙る。

「あの……その……私にもう一度ちゃんと戦い方を教えてくれませんか!」

「へ」

「今度こそ本当に、自分の意思で大切な人を守りたいんです」

「うーん、でも私が戦い方を教えるっていっても私人に教えるのは苦手で……あ!」

 いい事を思いついてグレイをアリサの前に出す。

「うお!?」

 驚くグレイに私はにっこり笑った。

「グレイにしなよ、人に教えるの上手いし、相性良いかもよ!!」

「え!?」

「は!?」

 私の言葉に二人とも驚いて絶句している。
 アリサに関しては少し顔が赤い気がするよ。

「え、でもレインーー」

「そゆことでグレイ、頑張れ!!」

「はあ!!??」

 さっきのコウタを真似るようにグレイの背を叩いてエントランスから逃げる!

「レインーーーーっっ!!」

 アリサとグレイの声が聞こえても私は笑いながら華麗に無視をした。



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