33.訓練
(何をやっているんだろう……私は……)
アナグラの訓練室で一人ぽつんと立った私は手持ちぶたさに俯く。
復帰早々レインに戦い方を教えてほしいと言ったはいいのに、何故かそれがグレイになってしまった。
「よっ、待たせたな」
訓練室に現れたグレイを見て「いえ…」と愛想がいいとは思えない態度で応えてしまう。今日は折角グレイがついてくれるというのに、私は思った以上にグレイと二人きりということに動揺してしまっていた。
(そんなの、もう何回もあるのに)
なんでだろう、病室でグレイに過去を語ってから私はグレイを意識している……。
「いきなり実戦は無理だろうから、体力作り兼近接攻撃の訓練をしよう」
そう言ったグレイがポケットから何かを取り出して私に放り投げる。慌てて受け取ると、それは折りたたみ式のナイフだった。
「それは刃を潰した訓練用のナイフだ。それで俺を殺す気で向かってこい」
「えっ……」
フェンリルで神機使いになるために受けた訓練の中では対人訓練なんてしたことがない。それに刃を潰してあると言ってもら当たりどころが悪ければ重傷を負う。それなのにグレイはいつもの人の良い笑みを浮かべて、ただそこに立っているまま。
「アリサは銃での戦いは得意だよな。そしてそれに比べて剣はあまり得意じゃない。そうだろ?」
「……はい、そうです」
「今のままではアラガミと戦えない。だから覚悟を決めろ」
「覚悟……?」
頷いたグレイが掛かってこいというような目をする。
私は唾を飲み込んでナイフを構えた。
(……どこにも隙がない)
ただそこに立っているだけなのにグレイには隙がない。
(グレイを倒す? どうやって……っ、とにかく、膝をつかせれば!)
キッとグレイを睨んで踏み込む。
肩口を狙ってナイフで突くが涼しい顔で軽く躱される。
「そう、相手を早く倒すには弱点部位を仕留めろ。アラガミの場合は結合崩壊して倒しやすくなる」
次々と攻撃していくのにグレイは解説をしながら躱していく。
「ああ、あと」
ふと思い出したようにグレイが立ち止まる。今だと思いナイフで払おうとした瞬間ーー。
「アラガミの攻撃を躱す反射神経も大切だっ」
「えっ」
ガクンと私の膝が落ちる。
足払いをされたと気づいたときには床に倒れていた。
「こんなもんじゃないだろ、アリサ。本気で掛かってこい」
「っ、はいっ!!」
今までのアラガミと戦った経験を全てグレイにぶつける。容赦ない蹴りや、壁に叩きつけられたりしてボロボロになっても私は立ち上がる。
(私は大切な人を守る力が、欲しい!)
吹き飛ばされた拍子に帽子が飛んでも目もくれず、グレイに突っ込んで行く。
あんなに飄々としていたグレイの表情も、いつしか真剣になって私を叩き伏せていた。
「はあ、はあっ……」
肩で息をする私に比べグレイはまだ余裕そうだ。ずっと病室のベッドで寝ていた私の体力はもうない。
最後の力を振り絞ってグレイの懐に入ろうとしたその時、足がもつれてそのまま床に崩れ落ちた,
「アリサ!」
床に倒れる寸前に力強い腕が私を抱きとめた。荒い息をつく私を抱きしめ優しく背中を撫でてくれる。
「ごめんな……女の子にこんな辛いこと」
「はあっ、はっ……いいんです……私が決めたことだから」
背中を撫でていた手が、ぽんぽんと頭を撫でる。
(ああ……私はこの手が好きなんだ)
心地いい感覚に身を任せるように、私の瞼はゆっくり落ちた……。
* * *
あれからアリサの訓練を数回して早数日、俺の厳しい訓練に泣き言一つせず食らいついたアリサは、前よりも確実に強くなった。
今、アリサと共に実戦でシユウとグボロ・グボロを倒した俺は、その帰りにツバキ教官を見つけて声をかける。
「ツバキ教官、お話があります」
「グレイか、どうした?」
いつもピシッとしたツバキさんに俺は姿勢を正す。
「アリサのことなんですが、近々実戦の復帰をしてもいいと判断しますがどうでしょうか?」
「なるほど。確かにお前に手ほどきを受けているというのは聞いている。実戦に出て足手まといにならないんだろうな?」
「はい、俺が保証します」
「そうか、検討しよう」
頷いたツバキさんが、ふと考える素振りを見せて俺を見る。
「……なんでしょうか?」
「一度私もアリサに稽古をつけているお前を見たが、戦闘訓練はどこで身につけた? お前のソレはフェンリルで受けるものとは違うな」
「……レインの親父さんに教えを受けたんです」
「レインの? 軍人関係者なのか」
「んー、まあ元そうらしいです。あまりいい思い出はないんですよねぇ」
「……そうか。では、アリサの件は確かに預かった」
そう言って立ち去るツバキさんの後ろ姿を見送る。
「もう、あれから一年か……月日は早いなぁ。……さてと、アリサの訓練に行きますか」
懐かしい風景を思い出しながら、訓練室へと歩きだした。
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