36.私の守り方
鉄塔の森に降り立つと、後ろにサクヤさん、コウタ、ソーマが同じく降り立つ。
討伐対象はサリエルという、まだ対峙したことのないアラガミ。この任務が終われば正式にリーダーとなると思うと、神機を握りしめる手に自然と力が入った。
「レイン、貴女緊張してる?」
「え、そ、そんなことないじゃないですか!」
「そう……ならいいけど」
サクヤさんの鋭さには舌を巻く。
でもリーダーになるのだから弱さを見せてはいけない。私がしっかりしないとと気合を入れる。
「おい、いたぞ!」
後方で周囲を見ていたソーマが彼方を見る。言われた方向を見ると、数体のザイゴートと、見たことのないアラガミが浮遊していた。
妖しく舞う女神の如く、人と蝶を合わせた美しくも禍々しいアラガミーー。
「あれが、サリエル!」
「毒鱗粉と追尾型レーザーに気をつけて!」
「分かりました! サクヤさんとコウタはザイゴートを先に撃ち落としてください、ソーマはーー」
サクヤさんとコウタが動くより先、私の視界にソーマのパーカーが翻るのが見えた。
「またソーマは!」
相変わらずの単独行動っぷりを咎める間もなく、振り上げられたバスターブレードがサリエルの胴をえぐる。
ザイゴートの方を見ると、サクヤさんとコウタが相手をしていた。
「援護するよ!」
一人で突っ込んで行ったソーマの援護にと、小手調べに銃をサリエルに向ける。
弱点部位である頭と両足を狙うと、怯みながらもクルクルと舞うように辺りを浮遊し始め、レーザーを撃ってきた。
「おっと!」
ホーミングするレーザーを避けて剣に切り替える。一気に間合いを詰めるとジャンプして頭を攻撃する。続けざまに叩くと、サリエルが紫色の鱗粉を撒き散らした。
「これが毒粉!?」
後ろに引いて鱗粉から逃げると、嘲笑するかのようにサリエルが突進してきた。
「おわっとっ、ソーマ!」
装甲でガードしながら耐えると、座り込むように着地したサリエルの頭上からソーマがバスターブレードを振り落とした。
結合崩壊したのか、サリエルが逃げるように舞い上がり叫び声を上げる。空気が振動したかと思うと、サリエルの周辺を光の柱が包みだす。
「危ないっ!」
直感が警鐘を鳴らす。
サリエルに一番近いソーマの前に踊りでて装甲を展開する。だが、装甲が耐えきれずに後ろに吹き飛ばされた。
「ああっ!」
「っ、お前!?」
右腕に鋭い痛みが走る。
装甲が弾かれた時にサリエルの攻撃が腕に掠ったのか、血が流れてきた。
吹き飛ばされた衝撃でソーマに覆いかぶさっていると、起き上がったソーマに肩を掴まれた。
「いつ庇えって言った!!」
「っ……言ったでしょ、絶対に死なせないって。これが私の守り方だから」
「なんーー」
「大丈夫、ちょっと血が出ただけ」
ソーマに血が見えないように痛みを我慢しながら立ち上がる。同時にサリエルの光の柱が止んでこちらに攻撃をしかけてきようとした時、ザイゴートを落としたサクヤさんのレーザーがサリエルを貫いた。
「レイン、無事!?」
「大丈夫です!」
「みんな来るよ!!」
コウタの声に前方を見ると、毒鱗粉を撒き散らしたサリエルがレーザーを撃つ。
ステップで回避して銃形態で足を狙う。
サクヤさんとコウタが援護に回りサリエルを撃ち落とすと、ソーマ渾身のチャージ攻撃がサリエルの体を叩いて、美しきアラガミが倒れた。
「ふう、終わった……」
倒れたことを確認してコアを捕食する。
「よし帰ろっか」
ヘリへ戻ろうとすると、ソーマの厳しい視線が追いかけてくる。
慌てて逃げるようにヘリへ急ぐと、サクヤさんとコウタが心配そうにしながら苦笑していた。
* * *
「全員、よく帰ってきた」
アナグラに帰ると、ツバキさんが優しい微笑みを浮かべて待っていた。貴重なツバキさんの笑みに見惚れていると、グイとソーマに左腕を引っ張られズルズルと引きずられる。
「え、ええ!? ちょっ、何するのソーマ!?」
「…………」
「まてソーマ、レインをどこに連れて行くつもりだ。彼女は支部長に呼ばれているんだぞ」
ツバキさんの台詞にピタリとソーマが立ち止まる。
「医務室に連れていく」
「何? 怪我をしているのか」
ツバキさんが確認するように私を見る。
しぶしぶ頷くと、大きな溜息が聞こえてた。
「……酷いのか?」
「いえ、腕を切っただけです……」
「そうか、なら支部長には私が伝えておく。その代わり早く済ませろよ」
「はーい……」
ツバキさんに許可をだされたら従うしかない。そのまま無抵抗にズルズルとソーマに引きづられる。
「…………」
「ねえ、ソーマ」
「…………」
「おーい、聞いてる?」
「…………」
「怒ってるの?」
「…………」
ことごとく無視。清々しいまでの無言は肯定というわけで、確実にお怒りモードである。
「……装甲ぐらい強化しろ」
エレベーターに乗り込むと、ぼそりと呟き声が聞こえた。
「……ごめん。剣とか銃を強化してたら忘れてた」
正直に言うと長い溜息が吐かれる。
今絶対馬鹿にしてるでしょ。
無言の状態のままエレベーターを降りて医務室まで引っ張られる。
「……もう俺のことは庇わなくていい」
「え?」
一瞬何を言われたのか分からずにソーマの背中を見ると、振り返った彼の力強い腕に引かれ医務室のドアが開いたと同時に突き飛ばされる。
「ソーマ!?」
振り返った時には既に遅く、ドアは冷たく閉ざされ私は医務室に一人取り残された。
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