37.重責
軽く医務室で手当てを受けて急いで支部長室へ急ぐ。
居合わせた医者に「しっかり治療しないと痕に残る」と言われたけれど、そんなのお構いなしに逃げてきた。
支部長室前に辿り着き、一つ深呼吸する。
よしっと気合いを入れてノックすると声が返ってきた。
「入りたまえ」
「失礼します」
静かに扉を開けて中に入る。
まず初めに遅れた事を詫びると、フッと一笑された。
「私の愚息を庇って怪我をしたそうじゃないか。キズは、大丈夫なのかね?」
「はい、それは問題ありませーー……え、愚息……?」
「そうか、それは良かった。だがリーダーとなる者が簡単に怪我を負ってはならない。隊の士気、すなわち生存率に関わることだからね」
私の疑問を知ってか知らずか支部長が話を進める。
(支部長の愚息? 誰が? ソーマが!?)
「えっ、ちょっと待ってください支部長! ソーマは、貴方の息子さんなんですか!?」
「ああ、知らなかったのか。てっきりライナスあたりから聞いていると思っていたが」
(聞いてないよライナス!!)
「確かにアレは私の息子だ。が、中々手に余るものでね。……だが、君になら、手懐けられるかもしれない」
「手懐けるって……」
まるで動物を扱うような言葉に二の句が告げなくなる。
何を考えているか分からない冷たい瞳に見つめられると、強い既視感に襲われた。
(この目……そうだ、ソーマに似ているんだ)
黙っている私に支部長は含むように目を細めて口を開く。
「愚息の話は終わりにして、先ずは祝辞を述べさせて貰おう。リーダー就任おめでとう」
「……ありがとうございます」
「さて……足を運んでもらったのは他でもない、リーダーの権限と義務について触れておこうと思ってね」
業務的な話に変わり支部長が両手を組む。
「まずは権限の強化だ、君にはリーダー専用の個室が与えられる。前リーダーであるリンドウ君が使用していた部屋だ」
「え、リンドウさんの部屋を……」
一瞬サクヤさんの悲しげな顔が思い浮かぶ。
「ああ、その際ターミナルにアクセスして使用者権限を更新しておくように。今まで閲覧が許可されなかった資料が確認できるようになっているはずだ。情報を開示、共有するということは我々が決断した、この意味を良く理解しておいてくれ」
「……はい」
「これは我々フェンリルからの信頼の証し、願わくば裏切らないでほしいものだ」
(裏切らないでほしい……か)
リンドウさんとアリサの件で違和感を感じているこちらとしては、少し慎重に動かないといけないかもしれない。
私が支部長を不審に思っていることを悟られてはいけない。
「さて、次は義務の方の話だが君には通常の任務の他にリンドウ君が遂行していた特務を引き継いでもらう」
「特務、ですか?」
「細かい指示は追って伝える。今日は君も疲れているだろう、ご苦労だったこれからもよろしく頼むよ」
支部長に一礼をして部屋を出る。
重たい息を吐くと、怪我した腕の痛みが疼いた。
「……リンドウさん、私頑張れますかね……」
あの大きな背が無性に懐かしく思えてきて、辛くなってくる。あの人が背負っていたものがこんなに重たいなんて……。
「私がしっかりしなきゃ」
そう自分に言い聞かせるように頬を両手でペチンと叩いて、エレベーターへと足を進めた。
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