39.白き雪



 雪がほたほたと降っている。
 さっきまで降っていなかったのに、急に降り出した雪は、鎮魂の廃寺周辺を白く染め上げていた。

 今日の任務は鎮魂の廃寺に徘徊するグホロ・グホロとシユウの討伐。
 メンバーは私とコウタとソーマ。
 遅れて到着するらしいソーマを待っていると、コウタが雑談混じりに話しかけてきた。

「何かさー、最近支給品の質が目に見えて落ちてない?」

「確かに美味しいとは言えないよねぇ。けどこのご時世食べれるだけ有難いと思うよ」

「いや、贅沢言ってらんないのは分かるんだけどさー、プリンのレーションとかもろに体に悪そうな味じゃん? あのザラッとした甘さ耐えらんないんだよね……」

「あー、それは分かる! 私もプリンのレーションは苦手だわ」

 せめてレパートリーを増やしてほしいよねぇ、と話していると背後から床の軋む音がした。コウタと同時に振り返ると待ち人ソーマがいつもの如くバスターを担いで来た。

「あ! ソーマ! 今度の休みに全員でレインのリーダー就任祝いでもやろうかと思うんだけど! どう?」

「……断る」

「えー、そう言わずにさ」

 相変わらずの冷ややかな目をしながらコウタに冷たいソーマ。それでもコウタがしつこく話しかけると苛立ってきたのか、コウタを振り払い冷え冷えとした言葉をぶつけた。

「馴れ合いたいならお友達同士で勝手にやれ」

 私達に振り返ろうともせず出撃地点に降りていく。その背にコウタが不機嫌そうにむすりとした。

「くっそー、ちょっと腕が立つからってエリート気取りかよ! 遅れて来て偉そうにすんなよな! だからアンタは友達が少ないんだよ! バーカ!」

「相変わらずだなぁ、ソーマ」

「んだよー、人がせっかくさぁ……暗すぎだろー、アイツ」

「いいよコウタ、来ないなら私が引きずって連れて行くから。この前の借りもあるしねー」

「あー、アレか。自分から行くとか凄いよなぁ」

 この前ソーマに引きずられて医務室に連行された借りがある。首根っこでも引っ張って行ければいいなーと思いながら、出撃地点への降りる。

 雪が音を吸い込んだような無音の世界が、私達を待っていた。


 * * *

「コウタ、そっち行ったよ!」

「OK! こいこいっ!」

 捕食に逃げるグボロ・グボロが後方で攻撃しているコウタ目掛けて突っ込む。

「かかれっ!!」

 すかさずコウタがトラップを設置すると、罠に掛かったグボロ・グボロの動きが止まった。

「はあああああっ!!」

 素早く私は高く跳躍して神機を振りかぶり、頭を突き刺した。

「ガアアアアアアッ!!!」

 断末魔の叫びを上げ、グボロ・グボロが倒れた。

「よおっし、楽勝!」

「うん、良い動きだったね」

 コアを抜き取って戦勝を喜びあうと、コウタが辺りを見渡して首を捻った。

「さーて、全然連絡寄越さないソーマは大丈夫なのかー?」

「ソーマのことだから無事だと思うけどね。案外直ぐに倒して見回りでもしてるんじゃないかな?」

「あーそれありそうだよな。ったくどこほっつき歩いてるんだか」

 仕方ないから探しに行くことになり雪道を進む。サクサクと白い雪を踏みしめながら歩くと廃寺が見えてきた。


『誰だ……姿を見せろ!』

「ん?」

 ふと、寺の中からソーマの声が聞こえた。
 コウタの肩を叩いて中を指差すと、奥にいるソーマに気がついた。

「えーっと、コウタ先に行ってくんないかな」

「いいけど、なんで?」

「……極東の寺って、なんか苦手で……」

 仏像がどうにも好きになれなくて、苦手なのだ。

「へー、レインにも苦手なものあるんだ」

「もうっ、早く行ってよ!」

 ニヤニヤ笑うコウタの背中を押す。
 コウタを先頭に寺の中を見渡しているソーマに近寄り、声をを掛けようとしたその時、ソーマのバスターブレードがコウタの目の前に勢いよく突きつけられた。

「ソーマ!?」

「ちょっ、ちょっと待った! 俺だって!」

 殺気を込めたソーマの目に怯んだコウタが慌てる。

「チッ……なんだ、お前か……」

 コウタの目の前に突きつけられた神機を私が手で降ろさせると、ソーマは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「お前かじゃねーよ! いつまで経っても戻ってこないから捜しにきたんだぞ!」

「余計なお世話だ……俺は俺の好きにさせてもらう」

「俺ら同じ部隊の仲間だろうが! 勝手ばっか言うなよ、リーダーのレインが迷惑するだろ!」

 単独行動ばかりするソーマに私が手を焼いていたのは皆が知っている。私のために声を荒げるコウタに、ソーマは冷笑した。

「……フッ……仲間か……少し小突かれたくらいで死んじまう、おちおち背中も預けられないような仲間なら……いない方がずっとましだ」

「コイツ! ああ、分かったよ! アンタは"特別"だよ! 大したヤツだよ!! お高く止まりやがって……好きにしろよ! 俺は先に帰るからな!」

「コウタ!」

 我慢の限界がきたコウタが踵を返して帰っていく。
 ソーマを見ると、決して私を見ようとはしてくれない。

「ソーマ、コウタはソーマと仲良くなりたくてーー」

「馴れ合いなんて要らねぇ」

「ならせめて任務で単独行動するのは止めて、ソーマのことが心配なんだよ」

 医務室の件からずっとソーマに避けられていた。さらに任務では常に単独で行動して、アナグラでは決して目を合わせてくれない。

「……お前は俺みたいな化け物に関わるな」

「ソーマ!!」

 手を伸ばすよりも早く、ソーマが私の横をすり抜ける。

「なんで……ソーマ」

「…………」

 呟いた言葉にソーマは答えず、去って行ってしまう。



 手を伸ばせば伸ばすほど、するりとすり抜けられる。
 守りたいと願っても、守らせてくれない。
 ソーマが分からなくなっていっていく……。


 ゆっくりと外に出て空を見上げる。
 ほたほたと降る真っ白な雪が私の髪に落ちていく。

 吸い込まれるように溶けていった雪と混ざるように、白銀の髪がサラリと揺れた。


 この時私は気がつかなかった。
 ずっと私達を見ているモノが、いたことに。

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