42.出生の秘密



「いやー、あの蠍のアラガミ凄かったよなぁ!」

 アリサ、コウタ、ソーマと一緒にボルグ・カムランを討伐した私達は無事にアナグラに戻ってきた。
 初めて対峙したアラガミは厚い甲羅と盾に守られた蠍のような存在で、長い尾が繰り広げる攻撃は凄まじかった。

「それにしてもソーマ、今日はいつもより調子悪かったよな。行く時も寝こけてうなされてたみたいだし、大丈夫か?」

「……うるさい」

「んだよ人がせっかく心配してんのに」

 バッサリとソーマに切り捨てられコウタがブーブー言っている。

「レインもなんか言ってくれよー」

「えっ!?」

 思わずソーマを見て、慌てて目をそらす。
 あのディスクの中身を見てから私は、ソーマを避けるようになってしまった。
 私と同じ存在であるソーマとどう接すればいいか分からないのと、私が同じ存在であるとソーマにだけは知ってほしくないと思ってしまう。

「レイン……?」

 私の態度にアリサとコウタが不審そうな顔をする。
 フード越しにソーマの視線を感じて、私はいたたまれず理由をつけてその場から逃げだした。

(リーダーの私が逃げたしてどうするの!)

 頭の中でぐるぐると自分を罵倒しながら自室に戻る。

「落ち着け私」

 自分を落ち着かせる為に今回回収した素材の確認をしようとターミナルを開くと、新着メールが届いているのに気がついた。

「榊博士から……?」

 メールを開いて中身を読む。
 するとそこにはあるディスクを見たことないかというメールだった。拾ったら届けてほしい、もちろん中身は見ずにという内容に、引き出しに入れていたディスクを思い出す。

「……行くしかないか」

 引き出しからディスクを取り出しながら思う。博士はいったい私に何を期待しているのだろうかと。


 * * *


「いやー、ごめんごめん。君が拾ってくれたのか! 助かったよ、もちろん中身は見ないでおいてくれたよね?」

 榊博士のラボでディスクを渡す。
 相変わらず何を考えているのか分からない表情でそう言われると、私は隠さずに話した。

「いえ、見ました」

 この人は私が見ているとわかって言っている。なら逆に隠さずに言ってみよう。

「……おや、見てしまったのかい。じゃあ丁度良い、私の若かりし頃の話を聞いてもらえないかな」

「は?」

「大人の昔話に付き合ってほしい」

 そう言うと、博士はいきなり昔語りを始めた。

「マーナガルム計画というのは知っているね? 私はその計画が原因で友人夫妻と袂を分かち、ある女性と一緒にアラガミから人類を守る研究をすることとなった。名をシェリルと言ってね、綺麗な亜麻色の髪をした女性さ」

 博士の言葉にディスクで見た私のお母さんの顔が脳裏に蘇る。

「私とシェリルが研究したのは対アラガミ装甲。今では無くてはならない存在だが、当時は身を守る物が無くてね。シェリルと共にいかにアラガミの攻撃を防げるかを日夜研究し、対アラガミ装甲の基礎を作ることが出来たのさ」

 懐かしそうに昔を語る博士は狐目をさらに細くさせて天井を仰ぐ。

「……だが本格的な耐久実験を試した時に、ある事故が起こってしまった」

「事故……」

「度重なるアラガミの攻撃から研究施設はガタがきていてね。実験の際に大きな崩落事故が起こり……私をかばってシェリルが崩落に巻き込まれてしまった」

 天井を仰ぎ見るままの博士の表情は私からは見えない。でも声音からは後悔と悲しみの念を感じた。

「急いで助けだしたが、既に意識はなくシェリルは遷延性せんえんせい意識障害、俗に言う植物状態となってしまった」

「!」

 思わず息を飲む。今までライナスにすらお母さんの事を話してくれたことはなかった。それがまさか榊博士から聞くことができるとは。

「当時シェリルは恋人の子を身籠っていてね。直ぐにお腹の子を取り出さなければ危険な状態だった。だが……病院のベッドで寝かされていたシェリルが、突然行方不明となってしまった。まさか自分の足で歩ける訳がない。さらわれたと判断した私は必死で探した。そして……」

 すっと博士が振り向く。
 そこには悲しそうな目が私を見つけていた。

「数週間後、シェリルの恋人が赤子を抱いて私の元にやってきたのさ。そして彼はシェリルにP-73偏食因子を投与したと私に言った」

「……」

「植物状態のシェリルを助け出したいと思ったのだろう……。ライナスに頼み込んでP-73偏食因子を入手し投与したが、マーナガルム計画同様失敗に終わり、シェリルは死亡して、お守りにまもられた君と君の父親が生き残った」

 私自身知らされていなかった事実に何も言えなくなる。

「私は君にずっと謝罪したいと思っていた……。そもそもの原因はあの崩落事故で君の母親を守れなかったことだ……本当にすまないことをした」

「顔を上げてください、博士。もう、いいんです。話を聞けて良かった」

 吹っ切れたような私の顔を見て、博士は私を誰かと重ね合わせて見るような目をした。

「私は君に恨まれても仕方ないことをしたと思っている。それは君と同じ存在であるソーマも一緒でね、出来れば彼と仲良くしてほしい」

「そんな……だってソーマは自分のことを化け物って呼ぶんですよ。もしも私が同じ化け物だって知られたらと思うと……ソーマを避けてしまって」

 自分の正直な気持ちを告げると、博士は丁度良いと何かを思い出したような顔をする。

「実はソーマと一緒にとあるアラガミのコアを入手してきて欲しいんだ。必然と二人きりになるだろうし、これを機会にいろいろと話してみたらどうだね?」

「ソーマと二人きりですか!?」

「もちろんこれは支部長や教官、他のみんなにも口外無用だよ。ソーマと二人でなんとかしてほしい」

「ふ、二人きり……」

 なぜか二人きりというだけで顔が赤くなってしまう。若干パニック気味な私に、詳しくはミッション受注に紛れ込ませておくよと言われていつの間にか決定事項になっている。

「ああ、そういえば君はリーダーになったんだっけね。おめでとう」

 いつもの狐顔の博士の笑みに私は頭を痛くしながら、ラボから出て行った……。

「……ライナス、やっと言えることができたよ……ああ、本当に君の姪は驚くほどシェリルに似ている。……さて、頭を切り替えて例のこと、協力してくれるかい?」

 電話越しで苦笑する声がする。
 私は本当に友に恵まれている。そう実感した、榊博士だった。

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