44.渇き
「え、サクヤさん達も一緒に、ですか?」
榊博士に呼ばれて任務の依頼を受け、意外な人選に私は首を傾げた。
「そう、サクヤ君にアリサ君、それにコウタ君を連れて行ってもらう。ああ、心配いらないよ、ちょっぴり細工して通常任務に偽装してあるんだ」
偽装って大丈夫なのだろうか。
まあ支部長からこそこそしている時点で何も言えない気がした私が快く受けいれると、榊博士はニンマリとした笑みを浮かべていた。
「……なんですか?」
「そういえばあれからソーマとはどうなったかと思ってね」
ニヤニヤ笑っている博士が顔を近づけてくる。思わず後ろに引くと、思い出したように頬が赤くなった。
「ソーマが……優しくなりまして」
「ほう」
「任務で単独行動しなくなったし、私が突撃しても逃げなくなったんです」
そう、あの任務以来ソーマが私に優しい。
前はこっちから話しかけても無視していたのに、時たまソーマから話しかけるようになってきた。しかもこの前はジュースまで奢ってくれたし。
「あと、名前で呼んでくれるようになったんです」
思わず頬が緩みそうになる。
なんで急にソーマが優しくなったのか分からないけれど、凄く凄く嬉しい。
「うーむ、思った以上の惚気話になったね」
「の、惚気?」
「こちらとしては嬉しい限りだよ」
優しく笑う博士に「さあ任務をよろしく頼むよ」と急かされて部屋を出る。
エレベーターを待っていると、ドアが開いて中からソーマが出てきた。
「あ、ソーマ。榊博士に呼ばれたの?」
「ああ、お前もか?」
「うん。任務を依頼されてね」
「そうか、なら俺も急いで合流する」
「うーん、それがソーマはいないんだよねぇ」
「は?」
「今回はサクヤさんにアリサ、あとコウタで指定されたの」
「何考えてやがんだアイツ……」
「さあ?」
博士の考えていることは私達にはサッパリ分からない。
「じゃあ私は行くね」
「おい」
エレベーターに乗ろうとした私の腕をソーマに掴まれて引き寄せられる。
「一人で突っ込むんじゃねぇぞ」
耳元でそう囁かれたと思ったら、くしゃりと頭を撫でてすぐに離れる。
そのまま博士の部屋に入ってしまったソーマを見つめて、私は呆然と立ち尽くした。
「……な、なに、あれ……」
今、私は物凄く顔が赤い気がする。
(あんなの反則だよ……!)
* * *
「あら、レインどうしたの?」
「へ!?」
鎮魂の廃寺で先に待機していたサクヤさんに声を掛けられて変な声を上げてしまう。
「顔が赤いですね」
アリサにじいっと見られて顔をそらすとコウタに笑われた。
「最近やたらソーマと仲が良いからそれが原因じゃない?」
(コウタのクセに鋭い!)
「お互い避けてたのが嘘みたいですね」
「うふふ、二人ともお似合いだと思うわ」
「お、お似合いとか、なんですかそれ。も、もう置いて行きますよ!」
プイッと顔をそらして先に進む。
なんで私こんなにドキドキしてるんだろう。
笑いながら付いてくる三人を確認しながら先を目指すと、音も無く雪が降ってきた。
白く冷たいそれを手のひらで受け止めると、後ろにいるコウタが不満そうにしている。
「うわー、雪降ってきた。寒いから苦手なんだよなぁ」
「そう? 私は好きだな、雪」
ほたほたと降る雪を眺めていると、ぞわりと悪寒が全身を駆け巡る。
どうしようもない渇きに思わず喉に指を這わせる。ああ、きっとアラガミが近い。
意識を落とさないように頭を振ると、周りが騒がしいことに気がつく。
ばさりと地に降り立つアラガミ、シユウにサクヤさんが銃を構える姿が視界に映る。
(あのアラガミが食べたい……)
いったいこの渇きは何回目だろうか、ズキズキと痛む頭を手で押さえて呟く。
「いや……食べたくなんか……ない」
「レイン、避けて!!」
アリサの叫び声に目が醒める。
前を見ると、シユウがこちらに突っ込んできた。
「くっ!!」
急いで装甲で身を守りシユウから一旦距離を取る。すかさずサクヤさんのレーザーがシユウの頭部にヒットして、続くようにコウタがトリガーを引いた。
「大丈夫ですか!?」
「ごめん、ボーッとしてた!」
アリサと合図を送って二人同時に地を蹴る。
誘惑を振り切るように、私は剣を振りかざした。
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