45.現れた少女
レインと榊博士の部屋の前で出会ったソーマは、これから任務に行くという彼女と別れて部屋に入って行く。
眼鏡の奥でなにを考えているのか分からない瞳がソーマを捉えた。
「おや、君が一番ノリだったか」
「なんのことだ」
「まあもう少し待てば分かるよ」
飄々とした風の榊博士に若干イラっとしながらも、黙って待っていると部屋のドアが開いて亜麻色の髪がひらりと揺れた。
「待たせたね、ペイラー」
「あれ、ソーマもいんのか」
現れたのはライナスとグレイで、俺を見つけたグレイが首を傾げている。
グレイもこれから何をするのか聞いていないのか、父親のライナスと榊博士のやり取りを聞きながら俺の隣に歩み寄った。
「よ、ソーマ。レインとは良い感じみたいだな」
「なんのことだ」
「ハハッ、隠さなくてもいいんだぜ?」
「……」
ムスッとした顔のソーマを面白そうに見てグレイが笑っている。何もかもお見通しというような顔がものすごく癪にさわった。
「お前は、アイツのこと……」
「ん?」
「どう、思ってるんだ?」
キョトンとしたような顔からグレイは何がおかしいのか、くつくつと笑ってきた。
「そーいう質問をしてきたってことは、少なからず自覚はしてるんだな」
「は?」
「ああごめんごめん、こっちの話し。んでなんだっけ、俺がレインのことどう思っているかって? 勿論好きだぜ、でもそれは家族としてだ。今は他に目が離せない女の子がいるからな」
腰に手をあてたグレイに真正面から見つめられる。青色の瞳と目が合い、お互い本心を探るように見つめ合う。
「俺じゃアイツを救えないから、ダメなんだ」
そう言って一瞬悲しそうに笑ったグレイが、これで話しはおしまいとばかりに背を向ける。グレイの言葉をはかりかねていると、榊博士とライナスが話しを終えたのかこちらに向きなおった。
「さて、二人に頼みたいことがあるんだ」
どうやらグレイとの会話は聞こえてなかったようで、榊博士が眼鏡を上げて神機使い二名を交互に見ていく。
さて何をされるのかと身構えていると、ライナスが爽やかな笑顔でとんでもないことを言い放った。
「私達を鎮魂の廃寺まで連れ出してほしいんだ」
『…………は??』
珍しくグレイと言葉が揃った。
* * *
鎮魂の廃寺でシユウと対峙していたレインが高く跳躍した。
後ろからサクヤさんがシユウにレーザーを当てて援護する。怯んだ隙を見逃さず頭上からシユウの頭を叩き斬った。
「でりゃあああああっ!」
地面に足をついてすぐさま突進し、胴体を真一文字に斬りつける。
大量に血を噴き出したシユウが両翼を広げるように雪の上へ倒れ伏す。
アリサとコウタが倒れたシユウを見て私とサクヤさんに頷くと、緊張の糸が切れたのか深く息を吐いた。
「はあ……はあ……」
「レイン、具合が悪いんですか? さっきから様子がおかしいような……」
「ごめん、アリサ……大丈夫だよ」
頭が酷く重たい。
アリサ達に気づかれないように小さく息を吐き出す。
私の中の存在がシユウを喰らえと誘惑してくる。頭を揺さぶる耳鳴りに、鼻につく鉄の臭い。ふらりとシユウに近づくと意識が遠くなっていく。
なんとかシユウのコアだけでも取ろうとした時。
「レイン、待ちなさい!」
落ちかけた意識が覚醒して後ろを振り向く。ここには居るはずのない人達がそこにいた。
「……ライナス、にグレイ……ソーマ、榊博士……」
「説明は後だよライナス。皆とにかくそのアラガミはそのたまにして、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
呆然とする私達四人に榊博士が手招きをする。全員物陰に隠れ、私がグレイの隣にいこうとすると、ソーマに腕を引っ張られた。
「そ、ソーマ?」
引き寄せられてソーマの隣に立つと、不機嫌そうな目と視線が合う。
「……顔色が悪いぞ」
「え、うそ」
ぺたぺたと顔をさわってみると、確かに冷たい。試しにソーマの手を触ってみるとほんのり温かかった。
「いつもと逆だね」
思わずソーマの手を頬に当てるとなかなかにぬくい。いつもは私よりソーマの方が手が冷たいのに、これはなかなか貴重かもしれない。
「お、おいっ」
ソーマの手を頬にすりすりして熱を奪っていると、顔を赤くしたソーマが珍しく慌てている。
「ん? どしたの?」
首を傾げていると、後ろから笑う気配がして振り返る。そこにはにやにやとと笑みを浮かべたみんなが私達を見ていた。
「あらあら熱いわね」
「あのソーマが顔を赤くしてる……」
「いやぁ青春だねぇ」
「私はどことなく複雑だよ、ペイラー」
「アリサも寒かったら手繋ぐか?」
「さ、寒さには慣れてるので結構です」
全員から視線を向けられてやっと状況を理解する。一気に頬が熱くなりパッとソーマの手を離した。
「み、みんな何見てるの!?」
「お、レインの顔色が良くなった」
グレイにからかわれてふんっと顔をそらすと、榊博士が声を上げた。
「きたよ!」
一斉に、視線が倒れたシユウに向けられる。
そこには小さな白いものが、シユウを喰らっていた。
ソーマが先に駆け出して私達も遅れて走る。謎の白い存在を包囲すると、両手を血に染めたソレがこちらに振り向いた。
「オナカ……スイ……タ……ヨ?」
銀色に光る満月を背に、白い髪が揺れる。
白磁のような青白い肌に、金色の瞳。
ぼろ布を小さなカラダに引っ掛けた少女は人外離れした雰囲気を纏っていた。
「いやぁ、ご苦労様! やっと姿を現してくれたね。ソーマ達もここまで連れてきてくれてありがとう、君達のおかげでここに居合わすことができたよ」
榊博士の呑気な声が張り詰めた空気を破る。
ソーマが苛立ったように博士を睨みつけると、神機を握りしめて吐き捨てた。
「礼などいい、どういうことか説明してもらおうか」
「そうだぜ、親父も一枚噛んでるんだろ?」
グレイがライナスを見るが、小さく笑みを浮かべたまま少女を見ているだけだった。
榊博士が代弁するように口を開く。
「”彼女”がなかなか姿を見せてくれないから、しばらくこの辺一体の”エサ”を根絶やしにしてみたのさ。どんな偏食家でも空腹には耐えられないだろう?」
「チッ、悪知恵だけは一流だな」
「ええーっと……博士、こっ、この子は……?」
コウタが恐る恐る少女を指差す。
「そうだね、立ち話もなんだし私のラボで話すとしようか」
博士がそう言うと、ずっと黙り込んでいたライナスが少女に歩み寄った。
「ライナス!?」
「大丈夫だよ、レイン」
雪を踏みしめて、シユウのカラダの上に乗っている少女を見上げたライナスが、手を差し出す。
「ずっと独りで寂しかっただろう、一緒に来てくれるかな?」
差し出された手をジッと見つめていた少女が満面の笑みを浮かべた。
「イタダキマス!」
「あ?」
脈絡のない言葉にソーマが眉間にシワをよせる。ライナスがクスクスと笑っていると、少女は意味がわからないかのように首を傾げた。
「イタダキ……マシタ?」
「うん、そうだね」
微笑むライナスを見つめて少女がヒラリとシユウから飛び降りる。逆に見下ろす形になったライナスが少女を抱き上げて小動物を可愛がるように、頭を撫でた。
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