46.正体
「ええええええええっ!!!」
榊博士のラボに驚きの叫びが広がる。
突如現れた白い少女をラボに連れ帰った後、博士とライナスから聞かされた事実に私達第一部隊はただ驚く事しかできない。
「あの……今、なんて……!?」
サクヤさんが信じられないという表情をすると、ライナスがふわふわと笑みを浮かべてサラッと重大発言をする。
「うん、だから、この子はアラガミだよ」
ライナスの言葉にコウタとアリサが同時に身を引いた。
「ちょっ! まっ! あぶっ!」
「えっ、あ……」
「へぇ」
グレイは驚きながらもまじまじと少女を見てあんまり緊張感がない。そんな面々に博士は苦笑しながら説明した。
「まあ落ち着きなよ、これは君達を捕食したりはしない。知っての通り全てのアラガミはね”偏食”という特性をもっているんだよ」
「アラガミが個体独自に持っている捕食の傾向……私達神機にも利用されている性質ですね」
アリサが思い出したようにそつ言うと、博士は満足そうに大きく頷く。
「その通り、まあ君達神機使いにとっては常識だよね」
「……知ってた?」
「当たり前だ」
間髪いれないソーマの答えにコウタがまじかと驚いていると、少女は床に座り込んでライナスと楽しく遊んでいる。
「このアラガミの偏食はより高次のアラガミに対して向けられているようだね。つまり我々はすでに食物の範疇に入ってないんだよ。誤解されがちだが、アラガミは他の生物の特徴を持って誕生するのではない。あれは捕食を通して、凄まじいスピードで進化しているようなものなんだ。結果としてごく短い期間に多種多様な進化の可能性が凝縮されるそれがアラガミという存在だ」
「つまりこの子は……」
博士の長い解説を噛み砕くように、サクヤさんが少女を見る。
「うん、これは我々と同じ”とりあえずの進化の袋小路”に迷い込んだものヒトに近しい進化を辿ったアラガミだよ」
「人間に近い……アラガミだと?」
「そう、先程少し調べてみたのだが、頭部神経に相当する部分がまるで人間の脳のように機能しているみたいでね、学習能力もすこぶる高いと見える……実に興味深いね」
「先生!」
「はい、コウタ君」
「大体のことはわかったというか…まあよくわからなかったんですけどー。コイツのゴハンー、とかイタダキマスーとかってなんなんですかね?」
「ゴハン!」
少女が勢いよく言うと、コウタがビクつきながら少女を指す。
「コイツが言うとシャレにならないんですけど……」
「言った通り、アラガミの”偏食”傾向の基本として自分と似たような形質のものは食べないんだ。ただ、そうはいってもさっきみたいに本当にお腹が空いた時は、まずかろうとなんでもがっつり、だろうけどね」
がっつりという言葉にみんな一斉に身を引く。
少女が首を傾げていると、ライナスがおかしそうに笑っている。
「まあそれは例外さ。アラガミっていうのは知っての通り彼らの俗称だけど、実際にいくつもの個体が我々人間がイメージする”神々”の異称を取り込んでいる例が各地で報告されているんだ。いったい彼らが何を考えてそんな生態をとっているのか、どんな過程で”神”を語るに至ったのか……実に興味深いじゃないか。そんな中完全に”人”の形をしたこの子は、さらに貴重な一つのケースなのさ」
「ペイラー、話が長すぎて皆が追いついてないよ」
ライナスが少女の頭を撫でながら笑う。
「おっと、それは失礼。勉強会はこれくらいにしよう。……最後にこの件は君達第一部隊だけの秘密にしておいてほしい、いいね?」
「ですが……教官と支部長には報告しなければ……」
「サクヤ君……君は天下に名だたる人類の守護者、ゴッドイーターがその前線拠点のアナグラに秘密にアラガミを連れ込んだと、そう報告するつもりなんだね?」
「それは……しかしいったいなんのために?」
「言っただろう? これは貴重なケースのサンプルなんだ。あくまで観察者としての私とライナス個人の調査研究対象さ。大丈夫、この部屋は他の区画とは通信インフラやセキュリティ関係も独立させてあるんだ」
ふと、博士がサクヤさんの耳元で何かを囁いた。
「君だって、今やってる個人的な活動にも余計なツッコミを入れられたくはないだろう?」
こちらまでは聞こえないけれど、なにか博士はサクヤさんの弱みを握っているのか、急にサクヤさんが静かになった。
「そう! 我々はすでに共犯なんだ覚えておいてほしいね!」
「イタダキマス!」
「うん、そうだね」
なんだか楽しそうな少女とほわほわしたライナスに頭が痛くなる。これからいったいどうなっていくのか。
アラガミという少女を見ながら私が溜息をついていると、博士が私とソーマを見てニヤニヤ笑っている。
「レイン君、彼女と仲良くしてやってくれ。ソーマ、君も……一緒にね」
(博士!?)
みんなの前で含み笑いをしている博士を一発殴ろうかと物騒なことを考えていると、後ろにいたソーマが我慢できなくなったように叫んだ。
「ふざけるな!! 人間の真似事をしていようと……バケモノはバケモーー」
しまったというようにソーマが私を見る。
「え……?」
私を見る意味がわからないでいると、ソーマは舌打ちしそうな勢いで目を閉じてそのままラボから出て行ってしまった。
「……ソーマ……?」
状況がわからないみんなと呆然と立ち尽くす。
なにか視線を感じて振り返ると、少女がじっと私を見ていた……。
「さて……人が神になるか、神が人となるか、競争のはじまりだ」
誰かがそう、呟いた。
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