47.シオ
白いアラガミの少女を榊博士のラボで匿うことになって早数日、何故か私はこの子の遊び相手になっていた。
「レインー!」
ラボに入るといつものごとく女の子が駆けてくる。ぼふっという音がして下を見ると見事に転けていた。
「あー……大丈夫?」
「むー」
頭を手でおさえている姿は微笑ましくて思わず笑みが浮かぶ。って相手はアラガミ、なに呑気に見ているの。
「ライナスは? 今いないの?」
女の子の手を引っ張って起き上がらせると、首を傾げて左右に揺れている。
「らいなすイナイー」
「そっか……」
ソファに座って女の子を見ると、なにが楽しいのかニコニコしながら私を見ている。
「……なに?」
「オナカスイタ?」
「すいてないよ」
「イタダキマシタ!」
「……うん、まあ、そうかな?」
ダメだ、なんか調子が狂う。
幼児みたいな見た目で判断しちゃいけないだろうけど、警戒心ゼロになってしまう。
なんとなしに頭を撫でてみると女の子は嬉しそうに目を細めている。
(……やっぱり可愛い)
ふとラボのドアが開いた音がしたと思ったら、不機嫌そうな顔のソーマが現れた。
「あれ、ソーマ」
「そーま!」
「チッ……」
女の子を見て早々舌打ちするソーマに苦笑する。
「博士に呼ばれたの?」
「……ああ、騙された」
なるほど、だから博士もライナスもいないのか。
どうやら女の子と関わりをもとうとしないソーマに焦れて強硬策にでたようだ。
「……お前は、そいつのこと……」
「ん?」
騙されても出て行かずに、少し離れたソファにすわったソーマは女の子を忌々しそうに見て口を開いた。
「どう思う」
「どうって……そうだなぁ、なんかさ、見捨てられないんだよね」
同じような存在だからだろうか、こんなにちっちゃな体をして独りで生きているこの子を外に放るなんてできない。
「確かにこの子はアラガミで、人を襲うかもしれないけど……。この子を見捨てたら私は……」
自分を捨てることと同じに思ってしまう。
「レイン?」
続きを言えない私にソーマが訝しんでいる。まだ私はソーマと同じだと言いたくなくて、話題を変えるように女の子を手招きする。
「んー?」
ゆらゆらときた女の子を膝の上に座らせて後ろから抱きしめる。ソーマが眉を寄せると、私は笑った。
「ね、この子の名前どうしようか?」
「は?」
「だからさー、名前ないと不便だし、ソーマつけてよ!」
「……帰る」
「ってこら帰らない! ねー、いいでしょソーマ!」
「テメェで考えろ」
「いいの? 私ネーミングセンスないよ」
たとえばそうだな、全体的に白いし…ぴょんぴょんしてるし。
「”ぴょん子"!!」
「…………」
「あ、うさぎからきてるよ?」
「知るか」
「もーいいよ、グレイあたりに聞いてみるから!」
ぷんぷんしている私をよそに、ソーマはじっと女の子を見たあとに呟いた。
「……シオ」
「シオ?」
「子犬って意味だ」
「なるほど! ね、シオだって」
女の子を見ると「シ、オ?」と首を傾げたあとに満足そうに頷いている。
「シオ!」
「うん、シオ!」
戯れている私達をよそにソーマは煩わしそうに息をついている。
と、私の携帯端末が鳴り響いた。
「やば、コウタと任務があった。じゃあソーマ、シオを頼んだ!」
「タノンダ!」
「は!?」
膝に乗っていたシオを抱き上げ、ひょいとソーマの膝に乗せる。なかなかに可愛い絵だ。
「そゆことで、じゃねー!」
「おい待て!!」
ソーマの呼ぶ声を無視して、私は逃げるようにラボを後にした。
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