3.休息
ライナスに連れられてペイラー・榊博士の部屋に入室する。
部屋にはメガネを掛けた癖っ毛の男性と、いかにもしっかりしたような金髪の男性がいた。
金髪の方は適合試験の時にガラスの向こうにいた真ん中の男性に見える。過保護なライナスは私がいらないと言っても、メディカルチェックを見届けると言って部屋に残っていた。
「ふむ……予想より726秒も早い。よく来たね新型君。君のことは友人のライナスから聞いているよ」
室内の中央にある機械に囲まれて、癖っ毛メガネさんが目を細めて笑った。
「私はペイラー・榊、アラガミ技術開発の統括責任者だ。以後、君とはよく顔を合わせることになると思うけど、よろしくたのむよ」
「レイン・アーヴェルクラインです。よろしくお願いします」
私が一礼すると彼はさらに目を細めて頷いた。
「さて、と。見ての通り、まだ準備中なんだ。ヨハン、先に君の用事を済ませたらどうだい?」
機械をいじりながら隣に立つ金髪の男性に話を振ると、金髪さんはあまり表情が変わらない顔で榊博士をたしなめた。
「榊博士、そろそろ公私のけじめを覚えていただきたい」
榊博士に注がれた視線が、次いで私に向けられる。冷たい氷のような瞳が私を捉えた。
「適合テストではご苦労だった。私はヨハネス・フォン・シックザール、この地域のフェンリル支部を統括している。改めて適合おめでとう。君には期待しているよ」
「あまり俺の可愛い姪をいじめないでくれよ?」
後ろにいたライナスがひょっこりと顔を出してきた。
「たとえ君の姪だろうが、私は差別などしないさ。医療開発室長殿」
「彼も元技術屋なんだよ。ヨハンも新型のメディカルチェックに興味津々なんだよね?」
「貴方がいるから技術屋を廃業することにしたんだ……自覚したまえ」
「ホントに廃業しちゃったのかい?」
「君が凄すぎるんだよ。こっちの身にもなってほしいな、スターゲイザー」
ライナスの言葉に、榊博士の口がニンマリと三日月型になっている。
なんなのだろうか、この三人は。
ライナス曰く古い友人らしいが、癖がありすぎる。
私が置いてけぼりをくらっているのに気づいたのか、支部長が不思議な笑みを浮かべていた。
「ふっ……さて、ここからが本題だ。我々フェンリルの目標を改めて説明しよう。君の直接の任務は、ここ極東地域一帯のアラガミの撃退と素材の回収だが、それら全てはここ前線基地の維持と、来るべきエイジス計画を成就するための資源となる」
「エイジス計画……?」
私が首を傾げると、機械を触っていた博士が「この数値は!?」と一人で盛り上がっている。
「ペイラーのことは気にしなくていい。いつものことさ」
「……はあ」
「……エイジス計画とは、簡単に言うとこの極東支部沖合い、旧日本海溝付近にアラガミの脅威から完全に守られた楽園を作るという計画なのだが……」
「おおー!」
榊博士がまた盛り上がっている。
支部長を見ると完全無視を決め込んだのか、話を続けている。
「この計画が完遂されれば、少なくとも人類は当面の間滅亡の危機を遠ざけることができるはず……」
「凄い! これが新型か!!」
「ペイラー、説明の邪魔だ!」
「はは。ペイラー、あまり熱くならない」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと予想以上の数値で舞い上がっちゃったんだ」
この三人、見てるとちょっと面白いかも……。
「ともあれ、人類の未来のためだ、尽力してくれ。じゃあ私は失礼するよ。ペイラー、ライナス。後はよろしく、終わったらデータを送っておいてくれ」
最後は真面目にカッコよくキメた室長が、振り返りもせずに部屋から去って行く。
「ペイラー、そろそろ準備終わるかい?」
「ああ、もうすぐだ」
「ならレイン、そこのベッドに横になって。少しの間眠くなると思うけど、心配しないでいいよ」
ライナスに背中を押される。
ベッドに横になると、榊博士の満足そうな声がした。
「よし、準備は完了だ。レイン君、次君が目を覚ます時は自分の部屋だ。戦士の束の間の休息というやつだね。予定では10800秒だ。ゆっくりおやすみ」
「おやすみ、レイン」
久しぶりにライナスに頭を撫でられて、瞼が自然と落ちてくる。
緊張が切れたような脱力感に身を任せて、私は眠りについた。
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