50.じぶんさがし
シオのディナーから数日後、第二部隊との任務から帰ってきた私は榊博士のラボの惨状に開いた口が塞がらなかった。
「……ライナス、まさかこれって」
「シオが壁を壊して逃げ出してしまったんだ!!」
顔面蒼白のライナスに、ぶち壊された壁を見て慌てている榊博士。サクヤさんとアリサは申し訳なさそうにこちらを見た。
「実はシオちゃんにお洋服を着せようとしたら『チクチクいやー』と逃げてしまって……」
アリサの言葉にあちゃーと天井を振り仰ぐ。
脱走したシオを連れ戻さないといけないが、コウタとグレイは私と入れ替わりで任務にいってしまい、サクヤさんとアリサは壁をぶっ壊されて服が汚れているから先に着替えないといけない。
どうしたものかと唸っていると、ラボの隅で成り行きを見守っていたソーマと目が合った。
「ソーマ!!」
「チッ」
「あ、今、めんどうなのに見つかったって思ったでしょ!」
「ああ」
「そこ肯定しない! ほら、シオを捜しに行くよ」
「なんで俺がーーおい!」
「ライナス、博士、ソーマとシオを捜しに行ってくるので後始末よろしくお願いしますね!」
ソーマの腕を強引に掴んで引っ張ると、ライナス達は助かったというような顔でうんうん頷いている。
「後でコウタ君とグレイも呼んでおくから、シオのこと頼んだよ!」
「ラジャー!」
こうして、嫌がるソーマを無理やり引きずってシオを捜しに行くのであった。
* * *
ヘリで鎮魂の廃寺に着いた私達は物陰に隠れて辺りを窺う。
「……おい、本当にここにいるのか?」
「シオと出会ったのがこの場所だからなんとなく」
「なんとなくかよ……」
呆れ顔のソーマだったが、腹をくくったのか廃寺に徘徊するアラガミを睨みつけて神機を構える。
「捜すのはこいつらを倒してからだ。……背中は任せたぞ」
「うん、任された!」
先にソーマがアラガミに突っ込み、斬り伏せていく。
ソーマの取りこぼしを私が銃で落とすと、どこからか視線を感じた。既視感のあるこれはまさか。
「ソーマ、今」
「ああ、どっかにいるな」
「私の勘も捨てたもんじゃないね」
「言ってろ」
最後のアラガミを倒してついてにコアも頂戴する。シオからの視線を追うと、朽ちた寺にたどり着いた。
寺に足を踏み入れれば、辺りは静まり返っていて通常なら誰かいるとは思えない。でもソーマと私が感じる視線は確かにここからだった。
「シオー」
呼びかけてみても反応なし。これは相当だなと思っていると、隣のソーマが一歩踏み出した。
「おい、いるんだろ?」
「……いないよー」
仏像の後ろからシオの声が聞こえる。
「遊びは終わりだ、さっさと帰るぞ」
「ちくちくやだー」
まるで隠れ鬼みたいと私が笑うと、仏像の後ろからひょっこりとシオが顔を出してきた。
「レイン」
「ん?」
「そーま、まだおこってる?」
恐る恐るソーマの顔色をうかがうようシオが可愛らしくて、思わず抱きしめたくなる。
「さあどうだろう、シオがソーマに直接聞かないとわからないな」
非難の目を向けるソーマにふふんと笑い、私はさっきのソーマとは逆に一歩下がる。
「……そーま、もうおこってない?」
「…………」
「そーま、あのときおこってた」
あの時とはディナーのことを言っているのだろう。
「てめぇにゃ関係ねぇ」
「まったく素直じゃないんだからー……あ、すみません」
ボソッと言った言葉が聞こえたのか、ソーマが後ろを振り返って睨んでくる。
「あのとき、そーまにいやなことしたんだな。シオもちくちく、いやだもんな。シオ……えらくなかったな」
「……一丁前な口ききやがって。俺も、てめぇくらいに……自分のことなんか何も考えずに生きて入られたら、楽になれるかもな」
ここからはソーマの表情は見えない。でもポツリと立つ背中は少し悲しそうだった。
「そーま」
「あ?」
「じぶんってうまいのか?」
「ふっ」
「ぷっ」
ソーマと同時に噴き出して大笑いする。
きょとんとするシオがおかしくって、久しぶりに沢山笑った。
「てめぇも少しは自分で考えやがれ。ま、お互い自分のこともわからねぇ出来損ないってことだな」
「ふふ、私もいれると出来損ない同盟になりますな」
「おお、やっぱりいっしょか!」
「だから、一緒にするなと……」
「いっしょにジブンサガシだな!」
「自分さがしだ!!」
「や、やめろ」
ガッツポーズをして笑う私達にソーマがひるんでいる。私が隣に駆け寄ると、どこか照れたように顔をそらされた。
「おーい、レインー! シオを捜しにきたぞー!」
「シオー! どこだよー!!」
任務が終わったのか、グレイとコウタの声が聞こえてきた。
シオも聞こえたらしく、仏像の陰から降りて私に抱きついてくる。
「……考えてもみろ」
廃寺の外を見たソーマが呟く。
「あいつらも予防接種程度とはいえ、生きるためにアラガミの細胞を自ら望んで取り込んでるんだ。俺ら以上に、救われねぇ奴らさ」
「…………」
「うん、シオわかるよ。みんなおんなじ”なかま”だって、感じるよ」
「そうだね、私達はみんな仲間だ」
シオと頷き合うと、ソーマは気恥ずかしいのか、鼻をこすってそっぽを向いている。それを真似しようとシオがソーマに手を伸ばす。払いのけようとするソーマの腕は珍しく弱々しかった。
「さ、帰ろうか。みんなが待ってるよ」
そう笑えば、二人は頷いて歩き出す。
私とソーマの間に小さなシオを入れて三人で並ぶ。
止まっていた時計が動いたような気がした。
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