51.歌
無事にシオをアナグラに連れ戻すと、ライナスと榊博士は大わらわでラボの修復をしていた。
この様子だとシオを部屋に匿うことができないと判断した博士が、四角い小さな箱を四つ私達に手渡してくる。
「それは偏食場探知ジャマーでね、悪いがこれを使ってソーマの部屋でシオを匿ってほしい」
「……冗談は顔だけにしろ、おっさん」
「私は常に大真面目さ。じゃ、後は頼んだよ!」
用意周到すぎる博士にソーマが何か言いかけるが、それよりも先に私達はラボから閉め出されてしまった。
「仕方ないね、さーてソーマの部屋に行きますかー!」
「いきますかー!」
「おいそこ、はしゃぐな」
シオを連れてきた時と同じように、偏食場探知ジャマーのついたコンテナにシオを乗せて、私達は一人を除いて意気揚々とソーマの部屋を目指した。
「……わー、結構散らかってるね」
「うるさい、悪かったな」
部屋に入れば、そこはソーマの所持品で溢れていた。最初に視界に入ったのは壁にある銃の的で、人型をしたそれは何発も弾痕らしきものがある。
取り敢えず博士から渡されたジャミング装置を部屋の四隅に設置して、シオをコンテナから出してあげると、部屋を見渡したシオがベッドに駆け寄った。
「おいてめ! そんなもん喰うな!!」
「へ?」
コンテナを隅っこに退かしていた私が振り返ると、そこにはベッドに散らばっていた銃の一つをシオが口にいれようとしていた。
「ちょっ、シオ! ダメだよ!」
間一髪でソーマが銃を取り上げてベッドに戻す。そのベッドの上もソーマのコレクションなのか、銃やら刀剣やらがほったらかしにしてあった。
「ね、ソーマ、今度私が部屋を片付けてあげようか?」
笑いながら話しかければ、不機嫌そうなソーマに断られてしまう。結構片付けは得意だよと力説していると、シオがある機械に興味を示した。
「ソーマ、あれ、なんだ?」
「それは音楽を聴くもんだ」
「おんがく?」
棚の上にある黒い機械をキラキラした目でシオが見上げている。
「へぇ、なにか聴いてみたいなー」
シオも聴いてみたいよね聞けば、首を傾げて考えこみながら大きく頷いた。多分意味はわかっていないだろうけど、目を輝かせて機械を見ている姿が可愛くてしかたがない。
「……はあ、仕方ねぇ」
溜息をつきながらも、ソーマは棚からCDを選んでプレイヤーに入れてくれる。ボタンを押すと、透明な女性の歌声が聴こえてきた。
「おお?」
突然流れてきた音楽にシオが驚いたように耳を寄せる。
女性の綺麗な声とピアノの音が合わさって美しい旋律が流れた。
「ソーマ、これなに?」
「歌だ」
「うた……うたか」
ソーマが歌詞カードを私に渡してくれる。
開いてみれば、そこには儚くも悲しい歌の詞が綴られていた。
「シオ、一緒に見よ?」
歌を聴いていたシオとソファに座って歌詞カードを見る。紡がれる旋律にゆっくり声をのせれば、つたないながらもシオと一緒に歌を歌った。
いつか別れが来るなら美しくさよならを伝えたいーー。
そんな、悲しくて切ない歌をシオと共に歌っていると、こつんと肩になにか寄りかかってきた。
「…………」
はしゃぎ疲れたのか、歌っていたシオがいつの間にかすやすやと眠っている。
「ったく、世話のかかる……」
ソーマがそう呟きながらソファの私の隣に腰を下ろす。ちょうど音楽も終わり、辺りに静寂が落ちた。
「こうやってみると普通の女の子みたいだよね」
「ああ」
「こんな時間もいいなぁ」
ゆったりとした、戦いを忘れてしまうようなこの時間がとても幸せに思えてしまう。
この平和な時間が続けばいいのに。
「ソーマ、肩借りるね」
「は?」
次に流れてきた落ち着きのある旋律に瞼が重くなる。こつんとシオを真似てソーマの肩に寄りかかれば、驚いたように肩が揺れた。
「なっ……!」
「ごめん、私も眠くなって……きた」
瞼を閉じれば、ソーマの匂いがする。
どうしてだろうか、さっきの歌を聴いて胸が締め付けらるような、ほろ苦い気持ちが溢れてくる。
「ソーマ……いなくならないでね……」
ふとそう呟けば、大きな手が私の手を握りしめた。
剣を握り慣れた無骨でいて温かい手。
その優しい手に握り返しながら、私は眠りに落ちた。
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