52.特務
「ふんふんふふ〜ん」
鼻歌混じりにアナグラの廊下を歩く。
どうしてこんなに上機嫌かと言うと、シオに可愛い服ができたのだ。
アラガミのシオでも着れるその服は花のように可愛らしく、嫌がらずに着替えたシオの姿はまさに天使みたいに可愛い。
思わず榊博士に頼んで第一部隊のみんなとシオを囲んで笑顔で写真を撮ってしまった。ソーマは相変わらず仏頂面のままだったけど。
「って、だめだめ、今から支部長に会うんだからシャキッとしないと」
ヨーロッパに出張していた支部長が極東に戻ってきて早々、第一部隊隊長の私を呼んでいるという。
一体何の用なのか、もしかして以前支部長が言っていたリンドウさんの特務について何かあるのか。
「気を引き締めますか」
支部長室の前で立ち止まり、気合を入れるためにパチンと両手で頬を叩く。
深呼吸をして、支部長室の扉をノックした。
「入りたまえ」
「失礼します」
扉を開ければ、何を思っているのか分からないいつも通りの支部長が椅子に座っていた。ヨーロッパ出張という長旅の疲れも感じさせない涼しい顔に、こちらの表情も引き締まる。
「やあ、ご苦労。しばらく留守にしていたが、ヨーロッパ出張中君の活躍を良く耳にしていたよ。どうやら期待通りの働きをしてくれているようだね、極東支部長としても誇りに思うよ」
「ありがとうございます」
「さて、あまり時間もないので本題に移ろう。君を呼び出したのは他でもない、今後リーダーとして特務についてもらう」
「特務……」
「特務の内容は様々だが、いずれにしても一つの原則が設けられている。『特務は全て私自身が直轄管理する』という原則だ。無論、任務中に得られた物品もその例外ではない。なお特務は全てが最高レベルの機密事項であると心得てくれ。その性質上、殆どの特務はチームではなく単独でこなすことになる」
リンドウさんも一人で、誰にも知らせずに特務をこなしていたんだろうか。
「見返りとして、入手困難な物品と相応の金額を提供させてもらう。君ならたとえ単独でも、困難な任務をこなすことができる−−私がそう判断したと思ってくれ」
「……はい」
「特務の発注はさらなる信頼の証でもある。前リーダーだったリンドウ君……彼もよく私に尽くしてくれた。彼ほどの男を失ったのは実に大きな損失だった……。だが、今は彼に勝る逸材がここにいる、ということだな。君には期待しているよ。くれぐれも裏切るような真似はしないでくれたまえ。……君もアラガミの殲滅の仕方は熟知しているだろう?」
「……ええ、ゴットイーターがいます」
「いいだろう、下がりたまえ」
一礼をして支部長室から退出する。
「……あんにゃろ」
最後に支部長は私に脅しをかけた。
『裏切ったらゴットイーターがお前を排除する』と。
これで分かった、あの人は私にアラガミの偏食因子があるのを知っている。
溜息を付きながら顔を上げると、目の前にソーマがいた。
「あ、ソーマ」
「とうとうお前も呼ばれたのか」
「……うん、お前もってことはソーマも支部長の特務を?」
「……アイツには深入りするな」
多分ソーマは私を心配してくれてる。
それがなによりも嬉しくて、頬が緩んだ。
「ありがとう、ソーマ!」
さっさと背を向けようとするソーマの腕を掴んで引っ張る。
「よーし一緒にごはん行こう!」
「……仕方ねぇな」
「ソーマの奢りね!」
「てめぇで払え!」
「はーい」
こんなささいなことがなによりも楽しい。
他愛のない掛け合いをしながらエレベーターに乗った。
- 54 -
*前次#表紙
ALICE+