5.諦めるな



 リンドウさんとの初任務に、私は贖罪の街へとヘリで降り立った。

 アラガミが出現した直後に、多くの人々が集まり身を寄せ合っていた都市の一角。アラガミの捕喰によって巨大な陥没が点在する、都市機能を停止した街……。

 どこか物悲しい雰囲気があるのは、廃れた教会があるからなのだろうか。


「ここもずいぶん荒れちまったな」

 神機を持ったリンドウさんが贖罪の街を眺めている。

「……荒ぶる神に壊された、神を崇める教会……か」

「ん? 何か言ったか?」

「いえ、なんでもないです。……少し、緊張して」

 この胸に渦巻く気持ちは一体なんなのだろうか……。
 私は神機のショートブレードを握りしめて、なんとか笑みを浮かべようとする。

「……あんまり、根を詰めすぎるなよ」

「え……」

 リンドウさんがぽんぽんと肩を叩いて私の神機に指さす。

「そんなに強く握りすぎんな。肩の力を抜いて、深呼吸しろ」

「……はい」

 脳裏に、同じことを私に言った人を思い出す。

『力みすぎると、緊張してパニックを起こすぞ。目を閉じて深呼吸しろ』


 目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
 リンドウさんの言う通り、肩にだいぶ力が入っていたみたいだ。
 目を開けると、リンドウさんと目が合った。

「もう、大丈夫です。ありがとうございます」

「よし、ならこれから実地演習を始めるぞ。命令は三つ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、運がよければ不意をついてぶっ殺せ。あ、これじゃ四つか?」

 リンドウさんの言葉に思わず笑みが零れる。

「なんですかそれ、本当に危ない時は結構キツい命令ですね」

 人の命を何よりも大切にした命令。
 今まで言われたことのない類の命令に嬉しさが込み上がる。うん、この人になら背中を預けられる。

「ま、とにかく生きのびろ。それさえ守れば、あとは万事どうにでもなる」

「はいっ」

「さーて、おっ始めるか!」

 目の前の荒れた街に視線を向けて地を蹴る。


「いたぞ! オウガテイルだ!!」

 鬼の顔をした、尾を持つアラガミ達が私達を認識して襲ってきた。

 粟立つような耳鳴りが身体中を駆け巡る。跳躍してくるオウガテイルにステップで回避し、神機を振り上げる。

「はああっ!」

 神機がオウガテイルの腹部を薙ぎ、赤い血が噴き出た。

(アラガミも、赤い血なんだ……)

 肉を断つ感触が、神機から手に伝わる。手を止めずにさらに神機を深く突き刺し、抉っていく。

 オウガテイルの断末魔の叫びを他人事のように聞きながら、神機を引き抜いた。

「さあ、いくよ」

 神機を捕食形態にし、神に喰らいつく。

「絶対美味しくなさそう」

 倒れ伏すオウガテイルを見て、次はリンドウさんの方へと加勢する。

 新型神機特有の切り替えで、銃形態のブラストに変形させオウガテイルに攻撃を浴びせる。

「おっと、助かるぜ。新型は便利だな!」

 二体のオウガテイルを相手していたリンドウさんが、一瞬こっちに振り返りニヤリと笑う。
 流石ベテラン、動きに無駄がなく隙がない。

「リンドウさん、こっちは私が!」

「ああ、頼んだぜ!」

「喰らえっ!」

 オウガテイルに銃弾を喰らわせ、倒れたところを剣形態に切り替えてさらに捕食する。


 最後のオウガテイルを倒し、コアを抜き取り終えると、肩で息をついた。

「はあ、はあっ」

「初陣にしては上出来だな」

「ありがとうございます……」

 胸に手を当てて高ぶる気持ちを鎮めていると、リンドウさんがじっと私を見ていた。

「リンドウさん?」

「これからいろんなアラガミと戦うことになる。けどよ、絶対諦めんなよ」

 ぽん、と頭を撫でられる。

 絶対諦めるなーー。
 
【生きること】を諦めるな。
 そう、言われているみたいで、泣きなくないのに、泣きそうになった。


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