6.存在意義
初陣が無事に終わって間も無く、休む暇も無く私は榊博士に呼ばれた。
部屋に行くと、先にコウタがソファーに座っている。隣に座ると、博士が待ってましたとばかりにメガネが光った。
「来たね。さて、いきなりだけど……キミはアラガミってどんな存在だと思う?」
突然の事に虚を衝かれて暫く黙りこむ。博士の視線が私を捉えて、支部長とはまた違う何を考えているのか分からない、にやけた顏に居た堪れずに身動ぎする。
「……世界を壊すモノ」
振り絞ってでた言葉に博士が満足そうに頷いた。
「うん。確かにそうだね。他には”人類の天敵””絶対の捕食者”、そして君の言う通り”世界を破壊するもの”と言われている。
これらは、認識としては間違ってない。むしろ、目の前にある事象を素直に捉えられていると言えるだろうね」
博士は講義をしながら部屋をうろうろするように歩く。隣のコウタは少しつまらなそうだ。
「じゃあ、なぜどうやってアラガミは発生したのか? って考えたことあるかい? キミ達も知っての通り、アラガミはある日突如現れて、爆発的に増殖した。そう、まるで進化の過程をすっ飛ばしたようにね」
「ふああああ……」
コウタが我慢出来ずに欠伸をした。
「なあなあ、この講義、なんか意味あんのかな? アラガミの存在意義なんかどうでもよくね?」
「こら、コウーー」
「そうかね?」
「げっ」
私がコウタを嗜める前に、博士がグイッとコウタの眼前に顔を近づける。……これはちょっと気持ち悪……怖いかも。
「アラガミには脳がない。心臓も、脊髄すらありはしない。私達人間は頭や胸を吹き飛ばせば死んじゃうけど、アラガミはそんなことでは倒れない。アラガミは考え、捕食を行う一個の単細胞生物ーーオラクル細胞の集まり……。そう、アラガミは群体であってそれ自体が数万、数十万の生物の集まりなのさ。そしてその強固でしなやかな細胞結合は既存の通常兵器ではまったく破壊できないんだ。じゃあキミたちは、アラガミとどう戦えばいいんだろうね?」
博士ドアップを脳内から振り払うように、コウタが考えながら口を開く。
「えーっと、それは……神機でとにかく斬ったり撃ったり……」
「そう、結論から言えば、同じオラクル細胞が埋め込まれた生体武器、神機をつかってアラガミのオラクル細胞結合を断ち切るしかない。だがそれによって霧散した細胞群もやがては再集合して、新たな個体を形成するだろう。彼らの行動を司る指令細胞群……コアを摘出せるのが最善だけど、これは中々困難な作業なんだ。神機をもってしても、我々には決定打がない。いつのまにか人々はこの絶対の存在をここ、極東地域に伝わる八百万の神に喩えて”アラガミ”と呼ぶようになったのさ」
八百万の神ーー意味は、数多の神。
世界各国の神々の名を持った荒ぶる神は何故、生まれてきてしまったのだろうか。
「さて、今日の講義はここまでとしよう。アラガミについてはターミナルにあるノルンのデータベースを参照しておくこと、いいね?」
「はーい。……はあ、やっと終わったぜ……。レイン、先に部屋戻ってるからなー」
「うん」
コウタが部屋から出て行くのを見送り、私もソファーから立ち上がる。
「ライナスから教育されていたレイン君には、少しつまらなかったかな? すまないけど新人君には皆、同じ講義をしてるんだ」
「いえ……」
部屋から出ようとして、ふと博士の方に振り返る。相変わらずの糸目が私を見ていた。
「……博士」
「なんだい?」
「もしも、アラガミに存在意義があるのなら、私は…私の存在意義は、なんなんでしょうね」
「…………」
最初から答えなんて求めてなんかいない。
博士が口を開く前に、私は部屋を後にした。
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