14.少しの笑み
「うわー! ザンデ久しぶりー!!」
館に騎馬の一団が来訪してきたという報せを聞いて、ヒルメスの後ろからひょっこり顔を出した私は久しぶりにザンデと再会した。
「うお、レイン!?」
「……知り合いか」
大広間にずらりと並んだ騎士の中央にいるザンデに抱きつく。久々の感触に相変わらずムキムキだなと感動すらしていると、なにやらヒルメスが新調した仮面から私をじっと見つめていた。
そういえば新しい仮面、蝶みたいだよね。
「え、ザンデはね、カーラーンさんの−−」
「いい、レイン。自分で殿下に名乗りをあげるから離れろ!」
鬱陶しい! と突っぱねられて、しぶしぶヒルメスの後ろにちょこんと座る。
ザンデはやっと名乗れる事がそんなに嬉しいのか、誇らしそうにヒルメスの前に跪いた。
「はじめて御意を得ます、殿下! カーラーンの息子ザンデと申します! このたび、亡き父にかわりヒルメス殿下にお仕えするため領地より参上いたしました!!」
「そうか、おぬしはカーラーンの息子か! ……だからレインと面識があったのだな」
「そうだよ、召使い修行の時に一緒に住まわせてくれてたの。私にとって手のかかる弟みたいな感じかなー」
「むっ、こんな姉はいらんわ」
「またまたー!」
笑う私に、ザンデがにやりとする。
そんなやり取りを見てか、ヒルメスはじゃれた子犬達を見るような目つきで口元に笑みを作った。
(あ、笑った……)
ザンデに抱きついた時はちょっと不機嫌そうだったのに、今は少し楽しそう。
「俺はパルスからアンドラゴラスを追い払い、ルシタニア人共を一掃して正統の王位を回復する。おぬしの父上には大将軍としてパルスの全軍を指揮してもらうつもりだった。そのカーラーンが死んだ今は、おぬしにその役を果たしてもらわねばなるまい」
「ありがたき幸せ! 父もあの世で喜んでくれましょう! このザンデ、必ずやアルスラーン、ダリューン、ナルサス三名の逆賊の生首を殿下の御前に並べてごらんにいれまする!!」
「それは頼もしい。だが、俺のことを殿下と呼ぶなりここではまだ出自のことを秘密にしているのでな」
「はっ! 失礼いたしました!!」
「ぷぷっ、殿下〜!」
思わず笑うと、ザンデがギョッとする。私の言動にヒルメスが怒るかとおもいきや、呆れるように溜息を吐かれた。
「レイン、貴様は少し黙っておれぬのか」
「……はーい」
珍しくたしなめられるだけで終わって拍子抜けする。ヒルメスとのじゃれあいは結構楽しいのに。……まあ流石にこれ以上堪忍袋の緒を切らないようにだんまりを決め込むと、ヒルメスは満足したように頷いた。
「して、ナルサスと言ったな。あやつは何者なのか」
「かつてトゥラーン、チュルク、シンドゥラの東方三か国同盟が攻め込んで来たおり、五十万の大軍を口先ひとつで追い返した策士でございます」
「口先ひとつで……」
まさかあの自称画家がそんな策士だったとは……。この前の出会いを思い出していると、ヒルメスが苦々しそうに呟いた。
「……俺はおぬしの父にアルスラーンの捜索を申し付けておいたが、非業の最期を遂げてしまった。ダイラムへ抜ける北の山岳地帯までは追跡できたのだが……。おぬし、奴らがどこに隠れているか心あたりはないか」
「それについてご報告できることを嬉しく思います!」
ザンデが懐から地図を取り出して床に広げる。ヒルメスの後ろから地図を見ると、南のところにまるく印が付いていた。
「奴らはまず南に向かいました」
ザンデの言うところによると、王太子一行はホディールという者のいる城・カシャーン城へ逃げ込んだという。そこで助けを求めたかと思えば、ホディールは自分の私欲の為に王太子の後見役となるために、ダリューンとナルサスを害そうとして逆に返り討ちにあったらしい。
そして今はカシャーンを出て、東に向かっているという。東にはペシャワールという城があるけど、ルシタニアとホディール兵に追われながら逃げているので、かなり回り道をしているようだ。
「おぬし、情報収集に長けておるな」
「はっ! 光栄でありますヒルメス殿下!」
「殿下はよせと言っている」
「あっ、は! 申し訳ありません!!」
やってしまったというザンデの顔がオロオロしていて面白い。私が口を押さえて笑っていると、ザンデが面白くなさそうにこちらを見た。
「あははっ、殿下じゃなくて、銀仮面卿って呼べばいいと思うよ」
私の言葉にザンデがヒルメスを見ると、黙って頷いた。
「はっ! 銀仮面卿!!」
どうやら王太子一行はペシャワールまでの六十ファルサング山中にいるらしい。
ザンデの説明を受けて、ヒルメスは王太子捕縛のために立ち上がった。
「狩にでるぞ、ザンデ。アンドラゴラスの小倅を捕らえに行く」
「御意!!」
「ちょっ、ちょっとまって!」
ザンデを伴って出ようとするヒルメスの前に出る。まさか私を置いて行く気なのか。
今まで一緒だったのに、放っておかれたくない!
「なんだ」
「私も、私も行く!」
「……当然だ。置いて行くつもりはない」
「!!」
「何をするかわからない馬鹿娘を置いて行くよりは、連れて行く方がまだましだからな」
「酷っ!!」
ちょっと待て今感動しちゃったのにどういうこと!!
身支度を整えるのか広間から出て行くヒルメスに、むうとしながら付いていく。ふと顔を見上げると、やっぱり楽しそうに笑っていた。
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