15.暴れ馬はいったいどっちか



 ヒルメスがアルスラーン王太子捕縛にルシタニア兵と、ザンデ一団をともなって山道を進む。

 今はすっかり愛馬の扱いになれた私もついて行くように、手綱を操って木々を抜けて行った。

「ここから二手に分かれる」

 前を進んでいたヒルメスが地図を片手にこちらに振り返った。

「ホディールの手の者が森に火をかけ、アルスラーンめらは個々に分断されている。ここで俺とザンデに軍を分けて追うぞ」

 斥候の報告と地図を確認してだした作戦にザンデが「はっ!」と頷く。さて私はどちらになるのか。

「レインはザンデにつけ」

「ザンデに?」

「ザンデはルシタニア兵との連携ははじめてだろう。おぬしが補佐してやれ」

「わかった。じゃあザンデ、よろしくね」

「銀仮面卿のご命令なら仕方あるまい。では我らはこちらに進軍いたします」

 ヒルメスの地図の一箇所を指したザンデに、彼が頷く。こうして二手に分かれた私達は一路山道を進んだ。


「っ、結構こっちは険しい道が、多いね」

 急な上りをぐんぐんと進んで行く。私の言葉にザンデがちらりとこちらをいちべつして、ふんと鼻を鳴らした。

「当然だ。家臣たる者、主人に酷な道は行かせん」

「なるほど……」

 どうやらヒルメス達はわりかし緩やかな、水場の多い場所を進んで行ったらしい。
 くっ、ずるい……とザンデを恨むと、前方から剣撃の音が聞こえてきた。

「あたりか!!」

 ザンデが腰の大剣を引き抜いて肩に担ぐ。木々の間を抜けると、先に向かわせていたルシタニア兵が黒と白の騎馬に蹴散らされている。

「嘘っ、あれダリューン!?」

 二騎の内、白い女性は知らないが黒馬を操る顔を見つけて一番会いたくない人物に当たってしまったと悟ってしまう。

「あれがダリューンか!!」

 私の言葉にザンデの闘志が燃え上がっている。カーラーンさんの仇に会えた幸運に私は反対に喜んでいた。

「むっ」

 だが、ザンデの目が剣呑になる。
 先に進んでいたルシタニア兵がダリューンを見てこちらに逃げてきたのだ。

「なんたるザマか!!」

 ザンデの怒号が鳴り響き、逃げるルシタニア兵の頭を片手で掴んで投げ捨てる。

「逃げる奴は俺が斬る!! 引き返して戦え!!!」

 爆発したザンデにルシタニア兵が怯むと、目の前に迫ったダリューン達が驚いたようにこちらを見やった。

「レインか!?」

「っ、ダリューン」

「なんじゃ、知り合いか」

 黒髪の美女の視線が私に移る。瞬間、ザンデが我慢できないというように吼えた。

「貴様がダリューンか!!!」

 ザンデの大剣がダリューンを襲う。砂を撒くような大振りの攻撃にダリューンが目を見開いた。

「俺はカーラーンの息子ザンデだ! 貴様に殺された父の無念を晴らす! 潔く俺の刃にかかれ!!」

「ちょっ、ザンデ!!」

 無策に突っ込むザンデに頭が痛くなってくる。仕方なく剣を抜くと、黒髪の女性が弓を引き絞る姿を見つけた。

 ザンデに迫る矢を叩き折り、女性に向き直る。真っ白く濁りのない手が弓をつがえた。

「っ!」

 手綱を引いて放たれた矢を避けるが、下手くそな私の技術じゃかわしきれずに頬にかすった。

「仕方ないっ!!」

 愛馬の鐙から足を引いて鞍に跳び上がる。瞬時に鞍を蹴って女性の真上に跳んで、剣を振り下ろした。

 怜悧な月のような瞳が私を射抜くように見つめて黒髪がひるがえる。弓から短剣に替えた女性が剣を受け止めて、流れるように手綱を操った。

 横に逃げるように引く女性に舌打ちして地面に着地する前に剣を薙ぐ。白馬を斬ると、彼女は落馬する前に宙を舞った。

 女性の白いマントがはためく。
 さっきと真逆の立場になって、短剣が真上から襲って来た。

「はあっ!!」

 突き刺すように襲ってくる短剣を剣の腹で流して落下してくる女性を真横から蹴りとばす。

「ぐっ!!!」

 ルシタニア兵ごと吹き飛んだ女性が口から血を流して起き上がる。巻き込まれたルシタニア兵の馬を奪うと、備え付けられていた矢を奪い、弓を構えた。

 満月のように引かれた弓から矢が放たれる寸前に、止まっていた愛馬に跨って逃げる。と、女性の口に笑みが浮かんで後ろから馬のいななきが聞こえた。

「ごあっ!!」

「しまった!!」

 女性が自分ではなくザンデを狙ったと理解して振り返った時には、馬に矢を射られて落馬したザンデが目に映った。

 ダリューンの剣がザンデめがけて振り上がる。

「ザンデ!!!」

 私の悲鳴に一瞬ダリューンの腕が止まり、振り上がった剣が強かと兜に落とされた。

「ダリューン卿!!」

「おう!!」

 強烈な一撃に目が眩んだザンデに駆けつけると、ダリューンがすれ違って駆け去って行く。

「くっ、みんな追って!!!」

 ルシタニア兵に指示を出して馬から跳び下りる。

「ザンデ! ザンデ!!」

 攻撃の衝撃に兜が吹っ飛んでいて、額から血が流れている。

「ぐうっ、大丈夫だ」

 起き上がったザンデが、流れる血を舐める。闘志に燃える瞳の炎がよりいっそう強まった。

「覚えていろダリューン……貴様の首と心臓は俺のものだ!!」

 再戦に燃えたぎるザンデに苦笑する。
 とにかく無事だっから良かったと安堵して、二騎が去って行った方向を見つめる。

 私は疲れたように溜息を吐いた。


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