求めるのは



 カツカツと王宮の廊下を歩く銀仮面卿は、忌々しそうに舌打ちをした。

「パルス王国がいったん滅びたいまも、あの女は生きているとは」

 ルシタニア国王イノケンティス七世がタハミーネに一目惚れした。
 あの美しき人妖に心奪われるなど甚だ滑稽なことだ。ルシタニアを滅ぼした暁にはあの人妖も一緒に首をはねてやると意気込み、回廊を進む。

「更にあの男までタハミーネにうつつを抜かしそうになるとは……悪趣味な」

 先ほどまで顔を合わせていたルシタニアの王弟を思い出す。愚鈍な兄王が惚れた女に興味を持ち、王妃を覗き見するとは。銀仮面卿が忠告しなければどうなっていたことか、想像しただけで腸が煮えくり返る。

「あの忌々しい女め」

 勢いよく自室の扉を開ける。
 外套を外して長椅子に放り、寝室の扉を無造作に開けるとぴたりと立ち止まった。

「…………」

 波のある金色の髪が寝台から光って見える。
 すやすやと眠る女を一瞥してああ、と呟く。そういえば攫ってきたのだ。
 ふつふつとした怒りが何故か一瞬で掻き消えた。

 静かに寝台に近づき眠る女の髪をさらりと触る。手入れの行き届いた絹糸のような髪は肌触りが良く、ずっと触っていたくなる。
 寝台に手をつくとギシリ、と音が鳴った。
 起きるかと思ったがいまだ眠り続ける女の寝顔を見つめ、そっと寝具をめくった。

 猫のように寝台に潜り込み、思い出したように銀色の仮面を外す。
 そっと、起こさないように、壊さないように、眠る女を抱きしめる。柔らかい温もりに無意識に息を吐いて瞼を閉じた。


「今は……このまま……」


 触れられる温もりを手放したくない。
 たとえそれが偽物の身代わりでも。
 すがれるものが、欲しかった。

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