04.もう一つの出会い
休日の午後、買い物帰りにどこかでお茶でもしようとかとリンが駅で思案していると、後ろから声をかけられた。
「あれ、リンさんじゃないですか」
「蘭ちゃん」
制服姿の毛利蘭がリンを見つけて笑顔で近づいてくる。
「これからコナンくんとポアロでお茶するんですけど、リンさんもどうですか?」
「ポアロかー、最近ずっと行ってないしお誘いにのろうかな」
「やったー! ポアロのサンドイッチがすっごく美味しくなったんで、おススメなんですよ!」
「へぇ、サンドイッチ。食べてみようかな」
蘭と並んでポアロに向かう。
途中で連絡を取ったコナンと合流すると、ポアロの前で青年が掃除をしているのが見えた。
見慣れない褐色の青年は、箒とちりとりを持って、ポアロの周辺を掃いている。
「あ、安室さんだ!」
リンの後にコナンが青年に気がつくと、笑顔で彼に走り寄りなにやら話し込んでいる。
「安室さんって初めてみるけど、店員さん?」
「はい、最近ポアロでアルバイトするようななった人ですよ」
「ふぅん」
話し込んでいた二人に蘭が声をかけて、安室に店内を案内される。にこにことした安室さんという店員さんと目が合うと、驚いたように見つめられた。
「リンさんは何頼む?」
「え? ああ、コナンくんありがとう」
安室から視線を逸らしてコナンから手渡されたメニューを見つめる。
「じゃあ蘭ちゃんおススメのサンドイッチ−−このハムサンドと、ホットティーで」
注文をしている間もずっと安室からの視線が強い。
蘭とコナンの注文も終わって安室が背を向けてやっとホッと息を吐けた。
「リンさんって安室さんと知り合いなの?」
「うーん、私は初めての人だと思うんだけど……」
コナンの言葉に首を傾げると、蘭が意味ありげに笑った。
「リンさんって美人だから、安室さん見惚れていたのかも!」
「そ、そんなことないと思うよ!」
というか安室の方が顔が整っていてイケメンだとリンは思う。しばらく蘭達と他愛のない話をしていると、紅茶とサンドイッチがテーブルに置かれた。
「お待たせしました、ホットティーとハムサンドです」
「ありがとうございます」
微笑む安室が蘭とコナンの飲み物を置いて、またじっとリンを見つめた。
「あの……私になにか……?」
「ああすみません、どこかで会ったことがないかなと思って」
「私とですか……? いえ、ないと思いますけど」
「そうでしたか。すみません、不躾に」
「いえ」
「蘭さん達とはご友人同士ですか?」
安室の質問に蘭が自分の家庭教師だと紹介されて、リンが頭を下げる。
「リン・グレイです。前はよくここに通っていたんですけど、最近は来てなかったので……」
「リンさんですが。僕は安室透、毛利探偵に弟子入りしている探偵です」
「探偵さん、ですか」
目をぱちくりさせてリンが安室を見る。
端正な顔立ちの青年はそれこそモデルでもしていそうなのに、探偵をしているとは。人間は見た目じゃ分からないと思っていると、安室に冷めないうちに紅茶をどうぞと勧められた。
「いただきます」
ゆっくりと、濃い紅茶を口にする。
温かくて美味しい紅茶に思わず笑みが浮かぶと、続いてサンドイッチを手にした。
ひとくち食べるとシャキシャキとした歯ごたえに、ソースとハムが合わさってとても美味しい。
「んっ、このサンドイッチ確かに美味しい!」
「ありがとうございます。初めて僕が考案してメニューになった商品なんですけど、気に入っていただけたようで良かった」
「そういえば昔のサンドイッチとは違うかも。安室さんが考えたんですね」
凄いと言う蘭のセリフに安室が頷き苦笑する。
「でもまあ、そんなに難しいものではないんですよ」
「それでも考えてメニューになったのは凄いですね。また通うようにしようかな」
「是非! お待ちしております」
にこにこした安室の空気に静かな店内が明るくなったように錯覚する。それに引っ張られるようにリンも笑うと、ふとあるセリフが頭に蘇った。
『もしかして僕とどこかで会ったことがありませんか?』
(そういえば、沖矢さんにも初めて会った時も安室さんと似たようなことを言われた気がする……)
手にした紅茶を見つめながら沖矢との出会いを思い出して、首をひねる。
そんなリンの姿を見つめながら、安室は一人目を細めていた……。
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