ふあんににゃりまして
カーテンの隙間から日差しが入り込む
扉の向こうから人が動く気配を感じながら私は目を覚ました
慣れない体に意外と疲れていたのかまだ頭がすっきりしない
ガチャ
「おっはよ〜う」
「ふにゃ...悟くん...おはようございますにゃ」
気配の正体はもう起きていた悟くんだったようだ
ハッとして急いで体を起こした
「すみませんですにゃ!寝坊してしまったですにゃ!」
「大丈夫だよ、ほら時計見てみな」
言われるがままベッドボードに置かれた時計を確認する、時刻は7時00分を指していた
ここから高専までは20分ほどで着く、確かに朝の支度を思うとギリギリだがまだ問題ない時間のよう
それに悟くんはもう支度も済んでいるようでいつもの服に目隠しもつけている状態だった
「さて、朝ごはん食べようか」
「ありがとうございますにゃ、悟くんは朝ごはんも用意してくれたのに身支度も終わっているのですにゃね」
「ショートスリーパーだからね〜早めに起きちゃったからさ、だから君のかわいい顔も沢山見ておいたから!」
「それはすぐに忘れてほしいですにゃ!」
話していたら目も覚めてきた
悟くんが用意してくれたご飯を食べるためリビングに移動する
こうして私は悟くんの家で初めての朝を迎えたのだった
―
「そんじゃよろしくね」
「はいよ」
今日悟くんは午前中に授業がある為、その間は硝子さんのお世話になることになった
本当は授業にも悟くんは連れて行こうとしたが、私は普段会う事もある生徒さん達にこの姿で会うのは恥ずかしい事もありお断りした
多分良い子たちだからからかう事はしないと思うけれど、お手本となるべき大人の呪術師として情けない姿はなるべく見せたくない
「良い子にしてるんだよ夢子」
「分かってますにゃ、悟くんいってらっしゃいですにゃ」
「ん、いってきます」
悟くんはまだ少し納得いかない様子だったけれど渋々教室へ向かっていった
「それじゃ私は片づけなくちゃいけない書類関係があるから適当にくつろいでてよ」
「はい!ありがとうございますにゃ」
と言われても猫になって何もできない私はお邪魔じゃないようにただ座ってる事しかできない、どうしようか悩んでいると思い出したことがあった
「硝子さん忙しいところすみませんにゃ、一つ確認したいことがあるのですにゃ」
「ん?なんだ?」
硝子さんは机に向かい手を止めず私に返事をした
「私が着いていたこの猫になる置き物の任務って今どうなっているか知ってますかにゃ?」
「あぁそれか、それなら五条が七海に引き継がせたって聞いたな」
「七海さんにですかにゃ?一級の方が出てくる任務になったのですにゃね」
「呪物を置いた人物も不明、窓も行方不明のまま、呪霊よりも呪詛師の可能性が高くなったからな、その呪詛師がどんな人物か分からない以上学生や2級以下の呪術師より適任だと五条が判断したそうだ」
「なるほどそういうことですかにゃ」
私が納得していると硝子さんが手を止め私を振り返りじっと見てくる
そしてゆっくりと口を開いた
「ま、一番の理由はきみが被呪者なんだ、そこらの信頼のない人間に着いてほしくなかったんだろ」
硝子さんはそういった後また机に向き直りキーボードをたたき始めた
私はその後姿を見ながら心配かけてしまっていることに対して情けなさと、それだけ気にかけてくれる嬉しさの何とも言えない感情があふれるのを感じていた
―
コンコン
「失礼します」
あれからしばらくたった時だった、部屋の扉がノックされ1人の女性が入ってきた
私はあまり話した事がないが確か新人の補助監督の方だ
「なんだ」
「申し訳ないのですが、確認していただきたい事があるとの事で学長がお呼びです」
「そうか...すまない、少しだけ席を外す、大人しくしてるんだぞ」
「にゃあ」
硝子さんがこちらを気にしながら声をかけてくる
事情を知らない補助監督さんの前なのでただの猫のふりをして私は返事をした
その返事を聞き硝子さんは部屋をあとにする
その後ろを補助監督さんが着いて出て行こうとしたが、ふとこちらを振り返り、聞き取れない声で何かつぶやく
そして少しの間だがじっと見られ補助監督さんは出て行った
何を言ったのかは分からなかったが彼女の目がとても気になった
何故かはわからないが、こちらを憎くて憎くて仕方がないと睨みつける負の感情に塗れた目が...
―
「それじゃ今日はここまで!じゃあ僕はこの後予定があるから午後は自習ね、棘は任務があるから気を付けて行ってくるように!」
「棘は今日もご指名か」
「棘くん、気を付けてね」
「油断すんじゃねぇぞ」
「しゃけ」
「それじゃ僕はいくね〜」
生徒たちが話す様子を少し眺めなてから声をかけその場を後にする
あいつらも日々成長しているし、いつ腐ったミカン共の横槍が入るか分からないから生徒たちの任務内容は伊地知に精査させ僕も確認している、今日の棘の任務も問題ないはずだ
生徒たちの事を考え終わったら今度は夢子の事だ、七海に引き継がせたし元に戻る事も分かってはいるが心配なものは心配だ
本当は片時も離れたくないというのが本音だが、夢子の意見を否定しすぎて嫌われるのは避けたい
「まったく、この僕をここまで振り回せるのはあの子だけだよ」
考えていたら夢子に早く会いたくなった、急いで戻ろう
そんなことを考えながら歩いている時だった
あまり見たことがない、おそらく新人だろう補助監督に話しかけられた
「すみません五条さん、いまお話よろしいでしょうか」
「なに?今急いでるんだよね、急ぎのようじゃないなら後にしてもらえる?」
「すぐ終わります、夢路さんの事で」
「夢子の事?」
その言葉に足を止めてしまう、それを見た補助監督は僕に近づいて一枚の写真を見せてきた
そこには知らない男とキスをしているかのように見える夢子の後ろ姿
それを手に押し付けられしっかりと見てしまう、確かに写真の子は夢子だった
「は?」
「こんなことを言うのは失礼も承知の上ですが夢路さん、ほかの方と浮気をされているようで...五条さんにはお伝えしなくてはと」
「...いやないな、あの子がそんなことするわけないでしょ、冗談でもそういう事言うのやめてくれる?不愉快だ」
「え、でもこうして証拠も!」
「だからそれを信じられないって言ってんの、なんなのお前、僕忙しいからもう行くよ」
そう言い放ち僕は医務室へ足早に向かった
その写真を上着のポケットに押し込みながら...
「なんで...なんであいつなの、絶対許さない......あいつさえいなくなれば...」
―
「夢子、戻ったよ」
「あ!悟くんお帰りなさいにゃ!」
あの目の事を考えていたら時間がたっていたようで悟くんが医務室に戻ってきた
気にはなるけれど今どれだけ考えても仕方がないだろう
「夢子ちょっといい」
そういうと悟くんは私を持ち上げ少し強めに抱きしめられた
「にゃ、悟くんどうしたにゃ」
「ん、何でもないよ、ただいつもより夢子を近くに感じたくなっただけ」
悟くんの様子がちょっとおかしい?
気になるところだけれど今は大人しく悟くんの腕の中にいたほうがいい気がしてそのまま抱きしめられていた
「ね、夢子」
「なんですにゃ」
「夢子は僕の事好きだよね」
どうしたんだろうか、あまりに寂しそうに見えてじっと見つめてしまった
それに不安を覚えたのか悟くんが促してくる、それを受けて私は
「当たり前ですにゃ、悟くんのこと愛してますにゃ」
それを聞いて悟くんは目隠し越しでも分かるくらいほっとしたように笑ってまた強く抱きしめてきた
「うん、僕も愛してる」
任務の為伊地知さんが呼びに来ても、その後の任務も、家に帰ってからもその日私は悟くんにずっと抱きしめられたままだった
急に様子の変わった悟くんが心配だった私も抱きしめられることには何も言わずその日は眠りについた
―
「分かった...金は」
「残りの半分は成功したら後で払います」
夜の街、路地裏で男と女が人目を避け話していた
「それじゃくれぐれもよろしくお願いしますね」
「わかってるって」
「それでは」
女はもう話は終わったと背を向けて歩き出す
「悟様は私のものだっ」
女は歩きながら憎しみを乗せた目をしながら強く言葉を放った
2025 03.07