ひたむきな気持ち




「お疲れ様伊地知くん、今日も凄いデスクだね」
「お疲れ様夢路さん、うん、五条さんの後始末が多くて...でも、これでも今日やらなきゃいけない分は終わったんだ」
「そっか!それならよかった」

 報告書を出しに来たら同期の伊地知くんがデスクの前に立っていた、相変わらず彼の周りは整理整頓されているはずなのに書類であふれている。
でもそんな彼も久しぶりにお休みをとれるようだ、高専卒業後五条さんに良く着くようになってからあまり休めている様子がなかったのでよかった。

「そういえば夢路さんも明日から2日間オフだね」
「そうなの、だから久しぶりに映画に行こうかなって、好きなミステリー小説が映画化したの」
「あぁ、学生の頃よく読んでいたシリーズの」
「そうそう! だからどうしても見に行きたくてね」

 同期との会話に楽しくなりつい話し込んでしまう、こんな風に彼と話すのも久しぶりだな。

「そういえば伊地知くんもあのシリーズ好きだったよね! 感想を言い合いたいし、もしよかったら一緒に」

「お疲れサマンサー!!」

 伊地知くんを映画に誘おうとしたその時――
向き合って立ち話していた私と伊地知くんの間に五条さんがいきなり割り込んできた。

「きゃっ」
「ご、五条さん!」
「二人でなーに話してるの? 二人っきりで顔を突き合わせて楽しそうにしてずるい!!」
「ひっ、な、何もやましいことはありません無実です! それでは五条さん夢路さんも、私急用を思い出したのでお先に失礼します!!」
「ちょ、伊地知くん!?」

 なぜか伊地知くんは顔を青くし、汗をかきながら90度のお辞儀をすると足早に去って行ってしまった

「どうしたのかな......伊地知くん」
「さぁね、それより何話してたの? 楽しそうな声が外まで聞こえてたけど」
「あ、実は」

 明日からの連休の事、映画の事、もしよかったら一緒に行かないか誘おうとしていたところだったことを五条さんに説明する。
ふむふむ頷いていた五条さんだったが、最後のほうはちょっと不満そうな顔をしていた。

「なに、キミは伊地知と一緒に映画に行きたかったの?」
「絶対というわけではないのですが映画の感想を話したくて、伊地知くんはもとの小説も知っているので良ければと思って」
「それなら僕でもいいよね、本もキミに学生時代に借りて読んでるし」
「でも五条さんお忙しいんじゃ」
「伊地知が2日間もオフなの珍しいでしょ、それ色々あって僕がオフだからってのもあるんだよね。だから時間はあるよ、それとも僕と出かけるのはいや?」
「そんなことありません!」
「じゃあ僕と行こう、いいよね」


 高い位置にある顔を腰をかがめ私の顔に近づけ首を傾げられる、アイマスクで見えないがじっとこちらを見られているのは間違いない。
断る理由もない、むしろ密かに恋心を抱いている相手に誘われて断るなんて出来なかった。

「では明日〇〇駅北口の噴水前で待ち合わせはいかがでしょうか?」
「いいよ、時間は朝10時ごろでどう?」
「はい、その時間で大丈夫です。上映時間にちょうどいいかと」
「じゃあそれで。あ、ちゃんとおしゃれしてきてね」
「おしゃれですか?」
「デートなんだから当然でしょ?」
「デート!?」
「男女が待ち合わせしてお出かけなんだからデートでしょ、それじゃ明日ね〜」

 そういうと嵐のように五条さんは去っていった。

「......どうしよう、五条さんとデート」









「変じゃないかな、ちょっと意識しすぎかな...」

 当日の朝、姿見の前には不安そうな顔をしている私が写っていた。
憧れの人との外出の約束に気分が高揚し、あの後その気持ちのまま帰りに新しいお洋服を迎え入れた。
 でも改めて見てみるとそれは完全に悟さんを強く意識していると分かる、淡いブルーがベースの襟と裾は白色、裾付近に散らばる濃いブルーの花があしらわれたワンピース。
一目ぼれで購入を決めたがちょっと気恥しい、でも好きな人の色をその身に纏いたいと思うのは悪いことじゃない......よね?

「あ、いけない! もうでなくちゃっ」

 悩んでいる間に時間は過ぎていたようで時間がギリギリになっていた。
慌てて鞄を持ち家をでる、待ち合わせに良く遅れてくる五条さんだけど先にできればついていたい。
私は忘れずに鍵をかけ、駅前まで走って向かうことにした。







 駅が見えてきた、走る速度をゆるめ少し上がった息を落ち着かせながら待ち合わせの場所まで向かう。
するとなぜか人だかり、それも女性ばかりが集まっていた。

「ねぇあの人かっこよくない?」
「私たちも話しかけちゃう?でも待ち合わせかな、相手にされてないもんね」

 近くの人が話している会話が聞こえ、皆同じ方向を向いていることに気づき私もそちらを向く。
 するとそこには、明るい色のジャケットに細身のスラックス、濃い色の革靴、そしていつもの目隠しを外しサングラスをかけた五条さんがスマホをいじりながら立っていた。
その横にはスラっとした美人な女性が立ち、五条さんに何か話しかけている。

「スマホずっと触ってるだけじゃ暇でしょ? 一緒にお話しましょうよ」
「......」

 だが五条さんはまったく相手にしておらず無言を貫いている。
そして何かに気づいたかのようにふと顔を上げると、こちらを見て次の瞬間満面の笑顔をして大きく手を振ってきた。

「こっちだよ〜!時間通りだね」

 そのしぐさに周りにいた人もこちらをいっせいに見てくる、その視線につい足を引き軽くうつむいてしまう。
五条さんに話しかけていた女性も振り返るが、そんな私の様子を見ると鼻で笑い五条さんの腕に触れようとした。

「なんだあの子と待ち合わせ? ねぇ、あんな子より私との方が有意義な時間を過ごせると思っ......え?なに...これ......」
「はぁ折角の待ち合わせが台無し、あのささっきから鬱陶しいよ。あと臭いもきついんだけど、あの子に不快な思いさせたくないから僕に移ると困るんだよね。これから大事なデートなの邪魔しないでくれる」

 だが五条さんの無下限で触れることが出来ず、笑顔とは一変した冷たい目線で言い捨てられる。
その顔と抑揚のない話し方に女性が軽く震え手を引き、踵を返し走り去っていった。
五条さんはその人を見ることもなく、何事もなかったかのようにこちらに歩いくる。

「いいじゃんその服かわいい、似合ってるよ」
「え、あの、ありがとうございます」

 見られている状況に加え今目の前で起こった事、可愛いといわれたことに動揺しお礼しか言えない。
でもそんな私のことなど気にしないのか、時計を確認した五条さんは私の手をひいて歩き出した。

「五条さん!?」
「ほらほら、始まっちゃうから行くよ? 楽しみにしてたんでしょ」

 そう言われ私は最後まで周りの人に見られながらその場を後にした。
映画館まで手が離されることはなく連れていかれてしまいどうなる事かと思たが、席に座れば手が離れお互いに映画に集中したため先ほどの出来事は忘れていった。









「原作にはいないキャラクターが出てきましたがとても素敵でしたね! もともとの伏線がどうなるのか心配でしたが大正解でした!!」
「だね、本で気になていたところも上手く説明されていたし元もよかったけどこれは見に来てよかったよ」

 上映後私たちは映画館近くのカフェで映画の感想を話していた、今回の映画は大満足。
もともとのファンに加え、映画から入る人にも素敵な映画だったのではないかと思う。

「はい! 今日は私に付き合っていただいてありがとうございました」
「こっちこそありがとう。......そうだ、このあとお昼も一緒にどう? お腹すいたでしょ」
「え、でもいいんですか? 今日他にご予定とか」
「ないない、それに今日はデートでしょ? 今度は僕にもう少し付き合って」
「は、はいっ」

 デートの単語に忘れていた映画前の出来事を思い出し頬が少し赤くなる。
どういう意図で話しているか分からないが、五条さんはそんな私を見て微笑むと伝票をつかんだ。

「それじゃいこっか」
「あ、お金」
「ここは僕の顔を立ててよ?」

 ウィンクをしながら告げるとレジへ足を進める。
急な五条さんの可愛らしい仕草に衝撃を受け、一泊後ハッとしてお礼を言いながら私は五条さんを追いかけた。









「ここですか?」
「そそ、任務の間に暇つぶしで見てた雑誌に載っててさ来てみたかったんだよね。ここのドルチェが美味しそうでさ」

 五条さんについて歩いてたどり着いたのは、先ほどのカフェから10分程のそれほど離れていないお店。
よく見かける3色の国旗がお店の前に旗めいていた。

「イタリアンのお店久しぶりです」
「そうなんだ、あんまり好みじゃない?」
「そんなことありません! ただ忙しくてチェーン店のお世話になることが多くて。それにおしゃれなところには憧れるのですが少し緊張してしまって」
「なるほどね、安心してよ。ここ綺麗めな店だけどトラットリアだからイタリアンより気軽だよ」
「トラットリア?」
「イタリアの大衆レストランだよ、だからテーブルマナーとかあんま気にしなくていいから」

 お店の中に入って大衆レストランの意味が分かった。
このお店は木を使った家具が多く、雰囲気もカジュアルで可愛らしい。
お値段もリーズナブル、気軽にイタリア料理を楽しめる、そんなお店だった。

「何にする? 僕は今あっさりとしたパスタの気分だからボンゴレビアンコかな」
「そうですね、私も折角なのでパスタにしようかなと。あ、このボローニャ風ラザニアが気になります! 私ラザニア好きなんです」
「ラザニアもいいよね、じゃあそれにしよう。後はこのカプレーゼも頼んでシェアしよ〜、そして! お目当てのドルチェ、ズッコット!」
「わぁ、ドームみたいなケーキ? ですね」
「イタリアの伝統的なお菓子らしいよ、中にたっぷりクリームが入ってるらしくてさ気になってたんだよね」

 メニューに写真付きで紹介されているズッコット、とても美味しそうで目を引かれる。
五条さんが店員さんを呼び止め注文し、お料理が届くまでどんな味なのか、名前の由来は何なのかとお話をしとても楽しい時間を過ごした。
 運ばれてきたお料理もとても美味しかった、つやつやとしたトマトとモッツァレラ、とろとろ濃厚なソースともちっとした食感のラザニア、そしてお目当てのズッコット。

「美味しいです! 私フルーツやナッツがとても好きなので、こんなに沢山入っていると幸せです」
「それは良かった、僕もこのクリームの甘さ好きだな、何個でも食べれそう」
「ドルチェはテイクアウトもあるみたいですね、うーん。1個買って帰ろうか悩みます」
「いいんじゃない? 僕も買って帰る〜」

 ズッコットの美味しさに2人で目を輝かせ美味しくいただいた。
すぐにテイクアウトのお願いをし、食後のコーヒーを飲みながらゆったりと過ごす。
それにしてもと、コーヒーを飲む五条さんを盗み見る。いつもは賑やかな五条さんが今日はとても緩やかな気配を纏い、時折こちらを見ては微笑むので少し緊張してしまう。

「ん? どうかした?」
「な、何でもないですっ、えっとそろそろ出ましょうか」
「そうだね、じゃあ行こうか」






カランカランッ


「五条さんごちそうさまです、でもお昼まで出していただいて良かったんですか?」
「そんなに気にしなくていいのに。んー、じゃあ次またご飯来るときにお願いしてもいい? それでお相子。それともまた僕とご飯行くのは嫌?」
「そんなことありません! では次は私のお勧めにご案内するのでその時は私が出します」
「うん、よろしく」

 結局このお店でもレジで財布を出させてもらう事も出来ずお昼をいただいてしまった、だけど次は私が出すことが出来そうで安心。


......あれ、これってまた五条さんとお出かけする約束をしたことになるのかな、良いのかな。


 私はそのことに遅れて気づき焦っていたが、五条さんは気にしていないのか鼻歌を歌いながらまた私の手を引いて歩き出した。
実は今日は映画の後寄ったカフェから移動中はずっと手を引かれている。
五条さん曰くデートだからとの事だが、女性と出かけるときはいつもこうなのかな。
ちょっとモヤっとしたが、でも手をつなげるのは嬉しくて離すことが出来ないでいた。

「この後どうする?」
「そうですね、私はこの後お買い物をして帰ろうかなとは思っています。五条さんはどうされますか」
「買い物行くんでしょ、荷物持ちに付き合うよ」
「そんな、日用品やお化粧品を買いに行くだけなので」
「日用品買うなら重くなるかもしれないでしょ、ほら行くよ」

 こちらの意見は端から聞く気がない様子、申し訳ないと思いながらも五条さんとまだ一緒にいれることに嬉しさを感じながら、私は家の近くのドラッグストアに案内した。







「ここ?」
「はい、お家から近くてよく利用してるんです」

 お昼を食べたトラットリアからしばらく歩き、自宅から一番近いよく来るドラッグストアに着いた。

「ここ24時間やっているので助かっているんです、どうしても帰宅時間は遅くなってしまいますから」
「仕事柄どうしてもね、でも気を付けるんだよ。女の子が仕方がないとはいえ夜遅くにお買い物するのは危ないから」
「......はい、ご心配いただきありがとうございます」
「まぁ心配するのもキミだからなんだけどね」
「ふふ、デートだと五条さんはズッコットより甘く紳士的なんですね。初めて知りました」
「普段から僕は紳士的です〜」

今日はよく女の子扱いをされていつもよりドキドキしてしまうのを軽口でごまかす。

 それにしても五条さんはいろいろ言われるけどやっぱり優しいよね。
学生の頃はすでに特級呪術師として全国を飛び回っていた五条さんとは、たまにすれ違う時に挨拶や移動中の暇つぶしのお勧めの本を貸す程度の関係だったが、お礼に出張先のお土産を買ってきてくれたりしていた。
卒業後も、特にここ2.3年は困ってると助けてくれたり、悩んでてもアドバイスをくれる。
恋人でもないただの後輩にもとてもよくしてくれる五条さん、本当の恋人だともっと甘いデートになるのかな......

「どうしたの?」
「あ、なんでもないです!」

 またモヤっとした気持ちになって足が止まってしまっていた、時間はあると言っていたけれど大事なお休み、五条さんにいつまでもお買い物に付き合わせるわけにもいかない。
足早にお化粧品コーナーでいつもの化粧水を取り、洗濯洗剤を見に移動する。

「今日安売りしてる、うーん......」
「キミ安売りとかちゃんと気にするんだね、でも何悩んでるの。いつもより安いなら買えばいいじゃん」
「いえ、買うことは決めてるんですが2個買うか悩んでるんです。でもそれだとちょっと重くなっちゃうなと思いまして、これ超特大パックなのでそこそこ重さが」
「なんだそんなこと、僕が持つんだから気にせず買っちゃいな」
「そんなそんな、本当に荷物持ちなんて」
「いいからいいから」

 そういうと近くにあったカゴをとって洗剤を2個入れ、私の手に合った化粧水もカゴに入れた。

「五条さんカゴは私がっ」
「きこえなーい。ほら、他に見るものは」

 カゴを受け取ろうとしたが、その手を躱され五条さんは私からカゴを遠ざける。
これは何言っても渡してくれないと悟り、私は渋々五条さんにカゴを持ってもらったまま今度は食品コーナーに移動した。

「後は牛乳と卵がほしいのでこっちですね」
「もしかして朝はパン派?」
「はい、本当はご飯が好きなんですがどうしても楽なほうに、五条さんは?」
「実家にいたころ完全に和食だったけど、家出た後は僕も手軽さからパン派になったよ」
「なるほど五条家の朝食......確かにしっかり一汁三菜の朝ごはんが出てきそうです」
「でしょ」

 二人で話しているその時だった。

「あれ、夢路さん?」
「? あ、こんにちは」
「こんにちは、今日はいつもより早い時間にお買い物なんですね」
「はい、今日はお休みだったので」

 名前を呼ばれ振り返った先には店員のエプロンを付けた青年がいた。
見覚えのある姿につい話し込んでしまう、すると五条さんが少し不機嫌そうに声を出した。

「だれ」
「あ! すみません、この方はこちらの店員さんの山本さんです」
「はじめまして、えっと夢路さんこの方は......」
「どーも、うちの夢子がお世話になってます」
「え......いえ、こちらこそいつもお越しいただいて......」
「五条さん、うちのって」
「何も間違いじゃないでしょ? 今日だってデートする仲なんだから」
「......デート?」
「もう、五条さん!!」
「なに、違わないでしょ?」
「あ、その......」

 男女で出かけるのはデート、そう言われたことを思い出し顔を赤くしてしまう。
今日は優しいと思ったけど急になんだか五条さんがいつもより意地悪になってしまった、それに意地悪なだけじゃなくて先ほどまでにこやかだった五条さんが不機嫌になっている。
つい話し込んじゃってたせいかなと焦り、私は山本さんに別れを告げる。

「ごめんなさい、お仕事の邪魔だと思うのでこれで」
「......気にしないでください............」
「それじゃあね、夢子行こうか」
「まって五条さんっ」

 五条さんに手をとられレジへ引っ張られる、私はそれに驚きながらも頭だけ後ろを向き今度こそ山本さんへ頭をさげ別れを告げた。





「山本くん! 品出しの事なんだけど......どうしたの?」
「店長......失恋ってどうしたら癒えますか......」
「......は?」








「急かしてごめんね、まだ買い物あった?」
「大丈夫ですよ、もしかしてやっぱり用事ありましたか? それでしたら今日はここで」
「それはないから! 本当に今日は時間があるよ」
「それならいいのですが......」

 先ほどの様子が気になりまだ付き合ってもらってもいいか不安が残るが、本人がそう言うなら信じるしかない。
家はすぐそこなのでそこまで時間はかからないと考えお言葉に甘えることにした。

「今日は本当にありがとうございます、1日お付き合いいただくことになってしまって」
「気にしないで、キミと一緒にいられるなら役得だよ」
「役得だなんて! 私こそ、五条さんと一緒に過ごせて嬉しかったです」
「それは光栄」

 五条さんはゆっくりと微笑む、なんだかその顔はいつもより柔らかく感じる。
その表情につられ私も暖かな気持ちになりながらゆっくり微笑む。
いつもの帰り道、そこを五条さんと一緒に歩くのはなんだか不思議な気持ちだった。
雑談をしながら歩いていると私の住むマンションが見えてくる。この時間の終わりが迫ってきていた。

「五条さん、ここです」
「んー、うん。セキュリティは良さそうなところに住んでるね」
「はい、念のためですが気にしておこうかと」
「キミ抜けてるところがあるからその心がけは良いことだね」
「ぬ、ぬけてますか?」

 自分が少しどんくさい事は気にしておりなるべく気を付けていたので少し落ち込んでしまう。
でも五条さんは言葉を続けた。

「でもそこが見てて癒されるし、肩肘張って無理しても良いことないからね。仕事じゃ大きな失敗してないからいいんじゃない?」
「五条さん......」

 好きな人に自分の欠点も受け入れてもらえるのはとても嬉しい、今日五条さんとお出かけできて本当に良かった。
でも名残惜しいけど今日はここまでだ。

「それでは五条さん今日はありがとうございました、荷物も持っていただいて」
「本当に気にしないで、僕も楽しかったから」
「はい、じゃあ「あのさ」え?」

 別れの挨拶を切り出したその時どこか先ほどの穏やかさとはどこか違う笑顔の五条さんに言葉を渡られる。

「実は僕の家もこの近くなんだ。ほらあのマンション」
「え! あの高層マンションですか!!」
「そう、あのドラッグストア寄ったときから近くだなとは思ってたんだ」

五条さんが指さしたのは私の家からも良く見える、高級マンションだった。

「それで良かったらなんだけどこの後家に来ない? まだ君と話したいな」
「え、いえいえいえそんな! お邪魔するなんて恐れ多いといいますか良くない気がするといいますか!!」

急なお誘いに頭が混乱してしまう、え、お家? 誰の? 誰が?
だけど五条さん、好きな人のお家にお邪魔するなんて緊張で私が色々と耐えられるはずがない。
それだけは分かったので必死にお断りする。

「ちぇ〜そんなに拒否しなくてもよくない? なら今から車まわすから一緒にドライブ行こうよ、君ともう少し話したいのはほんとなんだ」
「ドライブですか?」
「僕だって車の運転くらいするんだよ、たまに生徒を乗せて任務にも行くことだってあるんだから」
「あ、そういえば」

伊地知くんや新田ちゃんが手を離せないときに生徒さんを任務にアサインする際、五条さんがその時間手が空いていれば送迎もしていたことを思い出す。

「だ〜か〜ら〜運転の腕は安心して。ちょっとだけ僕にお付き合いいただけませんかお嬢さん?」
「あの......はい、よろしくお願いします」

お家に行くよりかは難易度は低いかな、それに私もまだ五条さんと一緒にいたい。

「それじゃまた後で、下に着いたら連絡入れるからさ」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」

その後私は一旦荷物を部屋に持っていくことに。
五条さんに見送られながら部屋に戻り買ったものを片づける。

「え? ドライブってことは車に乗るってことで、そこは密室ってことで? お仕事じゃなくてプライベートで?」

そして気が付いた、結局緊張する事には変わりない状況になっていることに......






キキィ...バタンッ ガチャ

「おまたせ、さぁどうぞ」
「あ、ありがとうございます......」

 あの後再度混乱してしまったが、約束してしまったのだからと腹をくくり携帯が音を鳴らすのを待つことにした。
そして五条さんから下についたとのメッセージが届き、マンションの入口につくとそこには白のSUVが停まっている、車に詳しくない私でも見たことのある冠のエンブレムの車だ。
その車の助手席のドアを開け待ってくれている五条さんにお礼を言い乗り込む。

バタン

「はい、じゃあシートベルト締めてね」
「あ、はい! すみませんっ」

シートベルトの存在を忘れるほど緊張していることを改めて認識してしまう。
急いでシートベルトをして前を向く。

「そんなに緊張しないでよ、僕まで緊張しちゃうって。そうだまずは何か飲み物買いに行こうか、確かこの先にス〇バがあったから行こう」
「はい......なんだかすみません」
「いいよ、それに慣れてないんだなーって逆に安心するから」
「安心......え?」

その言葉に戸惑うが五条さんは気にせず車を発進させる。
とても静かで奇麗な走り出しだ。

「今はまだ深く考えなくていいよ、さて着いちゃう前にメニュー決めちゃお。僕は何頼もうかなぁ、やっぱりサイズはベンティだよね。キャラメルフラ〇チーノにチョコチップ追加の多めでチョコソースも追加かな。これ好きなんだよね、キミは?」
「あ、その私はホワ〇トモカが好きです」
「サイズは? あ、ホット? アイス? カスタムもしちゃう?」
「私もベンティです、好きなのでたくさん飲みたくて。えっとアイスで、キャラメルシロップ追加の氷少なめの、ミルク多めが良いです」
「いいねいいね、甘そうだ」
「はい、甘いもの好きなので。冬はホットでキャラメルソース追加でお願いしてます、これも美味しいですよ」

 ス〇バに着くまで好きなドリンクやフード、季節のアイテムの話で盛り上がりだんだんと緊張は溶けていく。
五条さんと距離が近づいた気がするので、こうやって好きな人の事を聞けるのはとても嬉しい。
その中で今日1日の事や数ある五条さんの言葉たちからあることを思うけれど、今この時間を楽しむため一旦頭の片隅に追いやった。




「さて、飲み物も買ったしどこに行こうか、キミは海と山だったらどっちが好き?」
「難しいですね、海を見るのも好きですが今からの時間だと山の上から夜景を見るのも良いですよね」
「夜景いいね! ならあそこかな、展望台がある公園なんだけど駐車場からでも結構いい景色なんだよね」
「そんな場所があるんですか?」
「行ってみたい?」
「はい! 是非!」
「オッケ〜!」

 ドライブスルーでドリンクを購入し、適当に流しながらどこに行くか話し合う。
夜景、しばらくゆっくり見ていなかったかも。普段私たちが暮らし、守っている街を見るのも良いかもしれない。
道中合わせて買ったフードメニューも摘まみつつ最近のお気に入りの曲や、お洋服、ハマっているもの等を共有する。
これは学生のころから変わらないが、五条さんの事を知れば知るほど好きが更新されていく。

「やっぱり......」
「ん? ごめんねうまく聞こえなくて」
「あ、いえ、最近お花をお家に飾ろうかと思って何がいいかなって」
「観葉植物とか?」
「はい、でも忙しさを考えるとなかなか水やりもできないかなって思うと鉢植えは置けなくて」
「なるほどね、そうすると切り花を飾るのがいいかもね」
「ですよね、うん、確かにそれも良いかもしれません。毎日一輪増やしていくのもいいかも」
「それは楽しそうだ、是非一緒に選びたいな」
「五条さんも飾られるんですか? 癒されますものね」
「そういう意味じゃないんだけどね〜」
「?」
「くく、いいよゆっくり考えて? これは夜景を見終わるまでの課題ね」
「課題、ですか? えっとがんばります?」
「うん、頑張って。大事な課題だから」






 目的地に到着し、見晴らしがいい方向に頭から車を停めエンジンを切ると五条さんがサイドブレーキをかける。

「わぁ、綺麗ですね!」
「でしょ? 降りてみる?」
「はい!」

車内からでも十分奇麗な夜景が見ることが出来る。
でも今日は風もあまり吹いていない、折角だから車から降りてみることにした。

「こんな風にゆっくり街を見るなんて久しぶりです」
「いつもはこの時間はあの中で走り回ってることの方が多いだろうからね」
「はい、でもそれもこの光の分だけ意味があると思えば頑張れちゃいます」
「......ねえ、キミは無理、してない?」
「? どういう事でしょう」

こちらを見ることなく夜景を見下ろしながら五条さんは静かに話を続ける。

「こっちの世界にいると見たくないものに触れることも多い。そこをうまく帳尻合わせられる奴はいい、でもキミはどっちかというといわゆる善人、まともだ」
「......」
「もう気付いてると思うけど僕はそんなキミに惹かれてる」
「......はい、なんとなく」

 それは今日1日の五条さんの態度になんとなく感じていたことではあった。
でももしかしたら私の願望がそう思わせてるのではないかと、頭の片隅に追いやっていた。
が、どうやら私の勘違いではなかったらしい。

「うん、それにキミも僕の事好きでしょ」
「えっ」
「あんな目で普段から見られたら気付くって、好き好き大好き〜って視線」
「そんな! ......私そんな風に見てましたか」
「間違いないって、だってそれ見て前面に感情出して犬みたいだなーって思ったの覚えてるもん」
「お願いです! 忘れてください!」
「やーだよ、初め入学してきたころは分かりやすくって面白って感じだったけど、大人になっても変わらないその裏表ない視線が心地よくなってキミを好きになったんだから」
「す、好き......」
「さっきからそういってるでしょ?」
「いえ、そのまだ現実を受け入れられていないといいますか」

見下ろしていた目線をこちらに向けあきれたように五条さんが見てくる。

「まぁいいけどさ、それでね僕がキミを好きになって3年ほどたったわけ」
「3年!? そんなまえから......でもなんでいままで何も。私の勘違いじゃなければ態度に出してくれたの今日が初めてですよね」
「その方がキミのためだと思った」
「私のため?」
「さっきの話だけどキミはどこまでも善人だ、そんなキミはいつかこっちの世界から離れたほうがいいんじゃないかって思ってた」
「そんな!! ......私呪術師やめません! 確かに初めはなんで戦うのか悩みました、今だって辛いこともあります! 逃げたくなることもあります! でも私はやめません! だってそれが私の誇りだから、誰に何を、たとえ五条さんに言われても私が私の今までの経験や繋がりからやり遂げると決めたことですから! 絶対やめません!!」
「うん、わかってるよ。キミをずっと見てたんだから、だから僕もいい加減腹くくったんだ。さっきも言ったけどキミはどこまでもまともだった、だからいつか限界が来ると思った。......お前も、わかるだろ」

 この時私の脳裏にある人物の姿がよぎる、間違いなくあの人の事だろう。
私が入学したころ、あの人はすでにどこか儚く不安定な雰囲気を纏い、私と伊地知君は顔を合わせた時以外あまり関わることはなかった。

「でも、お前はまともなままずっと前を向いて歩いてきた。俺に向ける目も曇ることがなかった。本当はお前をこんなところにいさせたくない、けど悔しいけどそんなお前を手放すことが俺は惜しくなったんだよ」
「五条、先輩......」

いつの間にか五条先輩は体ごと私の方に向いていた、私もゆっくり五条先輩に向き直る。

「夢子、好きだよ。悪いけど俺と一緒に地獄を歩いて」
「......はい、もちろんです! どこまでも一緒に居させてください、私も大好きです!」
「ありがとう」

2人の影が近づく。
誰も見ていない駐車場で初めて私は五条先輩の唇の温度を知ることになる。
そして何度も重なるその合間に五条先輩がそっとささやく。

「ん...はぁ。夢子、お願い名前で呼んで」
「ふ、んっ......なまえ...さ、とるさん?」
「っ...ありがとう。夢子愛してる」
「...私も悟さんを愛してます」

星空と街の明かりに照らされながら、その日恋人となった2人の影はしばらく離れることはなかった。





 帰りの車内、行きとはまた違った穏やかな空気が流れていた。

「そういえば、課題の答え分かった?」
「課題...あ、あれですね。いえ、すみません分からないです」
「うん、じゃあ答えを教えてあげる」

信号が赤になる、ゆっくりと車が停まると悟さんは左手を伸ばし私の右手を握った。

「早いって思うかもしれないけどさ」
「はい」
「僕の家に一緒に暮らさない?」
「それは」

それは確かに急な提案だった。

「僕もこれでも悩んだんだよ? でも1分、いや1秒でもキミといる時間を増やしたい。それに一緒にいれば気になるところも出てくるかもしれないけど、気付けることも増える。もう見逃したくないんだ」
「悟さん......」

その言葉はとても切実なものに思えた、今まで見えたことがなかった悟さんの気持ち。
私はそれを大事にしたい、そう思った。

「悟さん、私実は朝起きるのも苦手なんです、お料理もあまり得意というわけでもないです、それでも、いいですか?」
「!! もちろん! 家の事もゆっくり決めていこう、やれる方が出来るときにやっていけばいいんだから。それに朝弱いキミも可愛いだろうし僕はその無防備なキミを見ることが出来る唯一の男になれるってことでしょ? むしろ嬉しいよ」
「私も気を抜いた悟さんのそばにいたいです」
「......ならさ、予行練習ってことで、さっきは断られちゃったけどこの後僕の、いや、僕達の家になる場所に来ない?」
「! ......はい、いきます」
「一応聞くけど、どういうことか分かってる、よね? 僕今まで我慢してきたからさ」
「わかっています」

男性の部屋にこの時間から行くとどうなるか、なんて流石に私でも分かる。
それでも良いと思った、早いかもしれないけどもっと悟さんといたい、近づきたいという私の気持ちに嘘はなかった。

プップー!

後ろの車からクラクションを鳴らされる。
それにはっとした悟さんはハンドルを握りなおし走りだした。

「夢子ありがとう」
「私こそ、ありがとうございます」

 その後2人に言葉はなかった、でもその静寂は嫌なものではなくむしろ気恥しくも心地の良いものだった。
そして家に着いた2人は朝までお互いから離れることはなく、今まで逃してきた共にいられる時間を埋めるように寄り添い続けた......





 カーテンから淡い日が差し込む、その光にゆっくりと目を細めながらも何度か瞬きをする青い瞳。
その瞳の視線が腕の中に向く、そうするとその瞳は次第に暖かさを帯び始めた。

「やっとてにいれた、ぼくだけのたからもの」

 その声は安息の地を見つけた幼子の様でもあった。
青い瞳の持ち主はその腕で自分だけの宝物を引き寄せ、お互いの素肌がより触れ温まるのを感じながら再度瞳を閉じた。


外の世界が動き出すその時まで......




2025 04.25